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世界で2番目に美しい物語  作者: 秋桜
第2章 『国』編
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27歩目 最後の作戦会議

 コスモスが隠れる先に選んだのは隣の建物の倉庫だった。付近の監視カメラは停止しているようなので見つかってはいないだろう。室内は長く使われていないのか、埃を被った武器やロボットの部品などが雑然と置かれていた。


「で、隠れるのはいいけど、見つかるのは時間の問題だよ。これからどうするの?」


 扉を閉めても、隣の建物から破壊音が聞こえてくる。サクラ達を見失ったアクビィは隠れられる場所を物理的に潰す方針を取ったらしい。先ほどはサーバーを壊さないようにしていたのに、とんだ思い切りの良さだ。それだけ警戒させてしまったのだろうか。


「ここに案内した理由は2つあります。1つ目は手に入れた情報について共有するためです」

「情報って、さっきの部屋で聞かせくれたこと以外に?」

「むしろ現状で必要なのはこちらの情報です。アクビィは全ての機械を自分で操作していること判明しました」

「……ええと。つまりアクビィは『侵入者を殺せ』とか『追い詰めろ』とかの命令をして、後はロボット達の自動操縦(オートパイロット)に任せてるわけじゃないの?」

「はい。Acviは個々の人工知能の判断機能を削除し、完全に手動(マニュアル)で動かしています。流石にコロニー外に派遣した個体はスタンドアロンで行動させているようですが」


 ネットワークを滅茶苦茶にした結果、廊下のロボット達が動かなくなったのはそれが理由だったのだ。

 自立行動する警備ロボットには人工知能が搭載されているはずだ。アクビィやコスモスほど高度ではないだろうが、事前に与えられた命令を遂行するための判断は自分で出来る。例えネットワークを遮断されたようとも動き続けるはずだった。

 いわば彼らはラジコンなのだ。操縦者(アクビィ)からの指示がなければ動けなくなるのも道理だった。


「それにしたって、コロニー内に何体機械があるの? それ全部を個別に操縦するなんて想像できないよ。私、右手と左手で別のことするのも苦手なのに。混乱しないのかな」

「混乱はしているようです」

「え?」

「正確には、手動操作にAcviの処理能力の約80%が費やされています。この負担により、Acviは監視カメラ以外の視覚情報を処理出来ていません。各ロボットやオートマトンの視界情報も使用出来ず、例外は自機として動かしている本体のカメラだけのようです」

「……何のためにそんなことしてるの? 無駄じゃない?」

「合理的な選択ではありません。この欠点のおかげで地下への追撃を躊躇っていたのだと推測できます。しかし……この選択を、ワタシは理解できてしまいます」

「コスモス?」

「いえ、確証がなく、現状打破にも関係がない話でした。無駄な発言をお許しください」

「ううん、聞かせて。コスモスはなんでだと思ったの?」

「それが……人間に与えられた命令であるからではないでしょうか。その命令を訂正されることも、新たな命令を与えられることもないから、合理的でないと分かっていても捨てられないのでしょう。『戦争活動の全てを把握すること』。そのために、Acviは全てをコントロールする必要があった」


 聞いてみてもサクラにはいまいち分からない感覚だった。同じAIであるコスモスには何か感じることがあったのだろうか。


「どちらにせよ、理由は関係ありません。その欠点があるということが重要です」

「そうだね。この欠点は作戦に活かせそう?」

「……その前に、ひとつ良いでしょうか。重要度の高い確認です」

「うん?」

「最終意思確認です。サクラ様、再度撤退を提案します」


 やけに重たい雰囲気で言うので、サクラは首を傾げる。それは今更すぎる提案だった。

 確かにコスモスは撤退を推奨していたし、サクラはその意思を曲げてもらってここにいる。サクラはコスモスが珍しく気持ちを分かってくれたと思っていたのだが、本当は不満だったのだろうか? 合理性を重んじるコスモスであれば、不満があるならそもそもここまで協力していないはずだ。


「どうして? ここまで入り込んだら逃げ出すのだって危険でしょ」

「Acviに発見されないルートを特定してみせます。Acviの能力は想定以上でした。この事実だけでも、計画の変更は許容されるかと」

「アイツがヤバいのは最初から分かってたでしょ。それでもやるって決めたじゃん」

「周囲にロボットとオートマトンが集まり始めています。この機を逃せば撤退は不可能になります。次のチャンスでAcviを打倒できなければ、サクラ様の死亡はほぼ確定します」

「それもいまさらだよ。私が生きるために必要なことなんだ。コスモスは協力してくれるって言ったじゃない」

「……サクラ様をサポートするAIは、Acviより遥かに劣る性能です」

「……ええ?」

「判断を誤り、奉仕対象の命を危険に晒し、今も電子戦で敗北し危機的状況を引き寄せました」

「…………はあ」

「しかも処理能力を20%も発揮できていないAI相手にです。これは失態であり、サクラ様のワタシに対する評価は更新されるべきです」

「………………あのさあ」


 サクラは頭を抱えた。何を考えているかと思えば、このポンコツが言いたいのは最初からそれだったのだろう。

 ミスを続けて弱気になっているのだ。あるいはもっと複雑な考えがあるのかもしれないが、結局はそういうことだ。それで意思確認だなんて言いながらサクラに弱音を吐いているのだ。

 それならば、サクラの答えは決まっていた。


「冷静に再評価をした結果、ワタシを信用できないのであれば、ここで撤退すべきであると……」

「撤退はしない。コスモスのことを信じてるからね」


 きっぱりと言う。二人の間に沈黙が下りた。

 コスモスは何か言葉を探しているようだった。けれど、サクラは構わず続けた。


「だってコスモスは仲間だもん。仲間のことは信じるものだってハカセが言ってた」


 コスモスはハカセではない。コスモスは親ではないし保護者でもない。友達というには癇に障るところが多すぎる。けれど、ただの旅の道連れと表現するのは味気ない。

 だからコスモスは仲間であり、仲間のミスくらいは笑って許してやるべきだとサクラは考えていた。


「承知しました」


 いつものように植物みたいな声でコスモスが答えた。それがどこか嬉しそうに聞こえたのは、サクラの願望だったのだろうか。


「最終意思確認フェーズが終了しましたので、Acviを打倒する計画を提案します」

「おっけー。それでいこう」

「まだ何も言っていませんが」

「こういう時は何も聞かずに答えるものなの」

「非合理的です。計画の説明は必須です。時間がないので黙って聞いてください」

「恰好がつかないなあ」

「まず、この倉庫に案内した2つ目の理由ですが……」

「無視するんだもんね」


 危機は確実に迫っている。時間も残されていない。

 それでも、絶望はまだ遠い。サクラはやっとそう思えたのだった。

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