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世界で2番目に美しい物語  作者: 秋桜
第2章 『国』編
23/30

23歩目 生きるために必要なこと

「Acviをやっつける……。確認ですが、それはAcviを破壊するために攻撃を仕掛けるという意味でしょうか?」

「うん。ほら、アクビィに見えない場所を通っていけば奇襲をかけられそうでしょ。私もやられっぱなしじゃ帰れないよ」

「その方針には賛同できません。Acviは危険で、サクラ様の体も万全ではありません。いえ、万全であってもあのAIに関わるべきではありません。すぐに撤退すべきです」

「でも、最初はコスモスも乗り気だったでしょ。危険はあるけどリターンもあるって」

「それはリスク評価を誤っていたのです。再評価の結果、リスクがリターンを上回りました」

「アイツを放っておいたら誰かが犠牲になり続けるんだよ。無差別に人間を殺そうとしてるってコスモスが言ったんじゃない」

「確かに危険なAIであることは事実ですが、野生化したオートマトンが人を襲う事例は他にもあります。それらのオートマトンへの対処と同様に逃げるべきです」

「アクビィはそういうオートマトンを複数動かせるのが問題でしょ! アークタウンみたいに全滅するコロニーが出るかもしれないんだよ!?」

「それは我々には関係のないことです。サクラ様に暴走したAIを止める義務があるのですか? この先失われる人命に対する責任があるのですか?」

「それは……ないけど。でも……」


 黙り込んで言葉を探すサクラに、コスモスは違和感を覚えた。サクラが他者への共感性が高い少女であることはコスモスも理解していた。アークタウンの壊滅を引きずらないように意識しつつも、事ある毎に思い返していることも。その原因たる存在を排除できるチャンスがあれば、(こだわ)るだろうことも推測していた。

 それでも、これは度を越している。コスモスのプロファイリング機能は、サクラの隠している臆病さだって見抜いていた。


「どうされたのですか、サクラ様? ワタシの分析はサクラ様が通常の状態ではないと示しています」

「どうって、何が?」

「Acviへの攻撃に拘泥(こうでい)していることです。サクラ様もAcviを脅威に感じていたはずでしょう。先ほど泣いていたのは恐怖が原因ではないのですか」


 サクラの顔がカッと赤くなる。泣いていたことを改めて指摘された恥ずかしさもあった。それには気を使って触れないでいてくれたんじゃないのかという怒りもあった。


「っなによ。それを言うならコスモスだって変でしょ!」

「ワタシが、ですか? 自己診断はオールグリーンです」

「我々には関係ないって言ってたけど、そんなはずない。コスモスには関係あるよ! だって、コスモスの目的は研究者を見つけることでしょ? コロニーが壊滅することは、そこにいる研究者が死んじゃうってことだよ。コスモスには避けたいことじゃないの?」

「そのリスクより、Acviと対峙するリスクが大きいと判断しました」

「私達は自分の目的のために一緒に旅してるだけでしょ! だって、それじゃあ……コスモスの目的より、私の命を優先してるみたいだよ」


 埃臭い地下空間に沈黙が下りた。サクラとコスモスの旅で沈黙はいつものことだった。ただでさえ無駄なことを話したがらないコスモスに、無遠慮な言葉には怒って黙り込んでしまうサクラ。黙り込んだまま歩き続けるのは慣れっこだった。それでも、この沈黙はサクラにとって息苦しかった。


 沈黙を破ったのはコスモスが先だった。


「一時的に、ワタシの目的よりサクラ様の優先度を高く設定しているのは事実です」


 一呼吸おいて、サクラが口開かないことを見たコスモスは続けた。


「サクラ様が負った重傷は、『国』の危険度評価を誤ったワタシの判断ミスに起因します。本来サクラ様は動くことすら難しい重症なのです。そのまま命を落としてしまうかもしれない。それは許容できないと判断しました」


 うさぎのぬいぐるみの目がきらりと光った。サクラはコスモスが自分を覗き込んでいるような気がした。

 

「サクラ様は自らの死を容認するのですか?」

 

 その目が言葉以上の気持ちを訴えた気がした。もちろん気のせいだ。感情が目に出るなんて機能はコスモスに搭載されていない。ぬいぐるみの目はコスモスが光学的情報を得られるようにサクラが取り付けたカメラに過ぎない。

 それでも、サクラはコスモスの心配している気持ちを錯覚したのだった。

 

「……ただ生きていくだけなら、私は生まれた研究所から出なければ良かったんだ。セキュリティはしっかりしていたし、きっと食料が尽きるまで生き延びることが出来たはずだよ」

「……」

「でも、それはただ息をしているだけで、生きてなんかいない。だから旅に出たの。危険で、もしかしたら死ぬかもしれない旅だって分かってた。それでも私が生きるために必要だったんだ」

「それが、Acviに挑む理由になるのですか」

「うん。アクビィは桜がある場所を知ってるって言ってた。それが嘘かどうか確かめなきゃいけない。桜を探すって目的は私が生きるために必要なんだ」


「だからお願い。協力してほしいの。コスモスは私の目的を肯定してくれたでしょ?」


 コスモスの返答は遅かった。再び沈黙が二人の間に流れたが、今度は息苦しくなかった。


「……ワタシには提案しか出来ません。サクラ様がAcvi打倒を目標に設定するのであれば、成功率が最も高いプランを提案するのみです」

「ありがとう! ……心配してくれたのにごめんね、コスモス」

「その件については合意が形成されたという認識ですので、必要のない謝罪です」

 

 そっけないコスモスの言葉に、サクラは笑顔になってしまう。サクラはコスモスを抱えて立ち上がった。散らばった荷物を拾い集め、無事だったリュックの中に荷物を詰めていく。


「それじゃあ、アクビィをぶっ倒せる作戦をお願い。アイツが泣いて謝って桜の情報を差し出すヤツがいいな」

「Acviの本体、コロニー内の地図等、情報不足では作戦を立てられません。まずは中枢区に潜入して情報を集めます」

「りょーかい。道案内よろしくね」


 リュックを背負ってベルトの位置を調整する。納得する背負い心地を見つけたサクラは薄暗い地下道を歩き始めた。ゆっくりとした歩幅で、コスモスを抱えていない方の手で脇腹を庇いながら。その動きにコスモスは気づいていたが、何も言うことは無かった。

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