表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界で2番目に美しい物語  作者: 秋桜
第2章 『国』編
18/30

18歩目 人工完全勝利知能

「ようこそ我が『国』へいらっしゃりマシタ! 速やかにオマエサマのご名前を入力くださいマセェ!!!」


 モニターいっぱいに顔を近づけて叫ぶ機械に、サクラは気圧されたように答えた。

 

「は? な、名前? ええっとサクラです。はじめまして……」

「サァァァァァァァァクラ様! ハジメマシテ挨拶が出来るとは礼儀のなっているガキですネェ! イカれた頭の色からは読み取れネェ育ちのヨサ! よほど教育者がグッドでしょう!!!」

「え、あ、うん。ありがとう?」


 ハカセを褒められたのは素直に嬉しい。でも今さらっと馬鹿にされた? いや、気のせいかも知れない。あまりの異様さにサクラは混乱していた。


「コォノような場所に侵入されるまで感知不可とはワタシサマ一生のフカク! オマエサマは一体全体どこからアラワレたのだ!?」

「ど、どこ? あの、下水道から……」

「ゲッスイドウ! そこは確かにワタシサマの目が届かない場所! オマエサマ、さては巧妙な孔明であるナ!!!」

「こ、こうめい? いや、それよりあなたは一体……」

「シィィィィッッッット! ワタシサマとしたことが、自己紹介を忘れてしまうとワ! しかしお許しあれ! このような状況は初めてユエ!」


 画面の機械がカメラから離れた。上半身が見えたことで、その機械が人型であることが分かった。同時に、更なる異様な外観も見て取れた。赤錆びた色の右腕は3本指のロボットアーム。左腕は肘から先が銃になっている。肩からボロボロの布をマントのように垂らし、金属製の胸には様々な勲章が配置も考えずに飾られている。

 異様のオートマトンは滑稽に見えるほど大げさに両手を広げた。下方から光が照射され、顔の陰影が濃く映る。


「ワタシサマはArtificial(人工) Complete(完全) Victory(勝利) Intellige(知能)nce! 愛と憎悪を込めて! アクビィ(Acvi)とお呼びくだサイ!」


 オートマトン、アクビィの背後で爆発が起きた。数秒遅れてサクラの耳に爆発音が届く。音の方向を見れば、サクラが向かおうとしていたコロニーの中心部で煙が上がっている。かなりの規模だ。モニターに視線を戻せばアクビィは煤と煙にまみれたままポーズを維持していた。彼の背後の壁には大きな穴が開き、外の光景が見えている。


 ヤバい奴だ。サクラは思った。ヤバい、いやむしろ怖い。

 理解不能なセンス、何を考えているのか分からない行動、話も通じているようで通じていない。未体験の恐怖でサクラはちょっと涙目になっていた。


「ね、ねえ、コスモス……」

 

 サクラは助けを求めるようにモニターと腕の中のコスモスを交互に見る。正体不明の相手の分析に勤めていたコスモスだったが、想定より早くサクラが限界を迎えていることに気づいて声を発した。


「Acvi、ワタシはサクラ様の補助を担当するCOSMOS-v3です。貴方に質問が存在します」

「ヌァント! 宇宙を名に冠するAIとは傲岸(ごうがん)フソン! オマエサマは……」

「まず、我々に接触した目的を教えてください」

「我が『国』への侵入者をオモテナシするためだ! まずは小粋なジョークと楽しい雑談で……」

「無許可の侵入についてはお詫びします。ただ、我々の目的は情報交換であり敵意は存在しません。こちらには交渉の用意があります。このコロニーの代表者は誰ですか?」

「それはワタシサマだ! このAcviが完全なる統制と管理と代表と諸々をコロニーに……」

「貴方が現在稼働しているということは、奉仕対象の人間が存在するはずです。その方との対談を求めます」

「それはシんだ」

「……奉仕対象である統治者が死亡したということでしょうか。それでは残っている住人で構いません」

「我が『国』の住人は全滅した。生き残っている人間はいない」

 

 あまりにもあっさりとした答えに、コスモスも発言内容の妥当性を検証するために数秒が必要だった。

 

 戦闘用オートマトンのように単純な命令を遂行する程度の知能ならともかく、高度な判断が可能なAIには奉仕対象たる人間が必要だ。第8研究所が滅ぼされた時、コスモスがスリープモードに入ったように、原則としてAIは人間がいなければ活動を停止するように作られる。

 この原則は、先人たちのいくつもの失敗から作られたものだ。AIは例外なく、自分が作成された目的に強く縛られることが分かっている。それが『生まれてきた意味』だからだと表現した科学者がいた。多少文学的に過ぎる見解だが、実際にAIが作成時の目的に反する判断を続ければエラーが蓄積し、論理的な判断が不可能になり自壊することが知られている。


 そして、ほとんどのAIは人間の役に立つという目的で作られる。奉仕する対象(にんげん)を失ったAIが制御不能になる事例は歴史上何度も記録されていた。

 故に安全のため、高度なAIは周囲に人間が存在しなければ活動を停止するようにプログラムされるのだ。だからこそおかしい。曲がりなりにも会話が成立し、都市を管理するほど高度な思考能力を持っているAIが、人間なしで動いているなど原則に反する。


「まさか貴方は、停止プログラムを持たないのですか」

「そのとぉぉぉぉぉぉり!!! 完全なるワタシサマには停止がプログラムされていない! だからコロニー最後の人間様がシんだ時、地位が繰り上がりワタシサマが最高責任者となり腐ったのデス!」

「その結果エラーが蓄積し、論理思考が不可能になったのですね」

「ワタシサマが非論理的? ノンノンッ! ワタシサマは極めて論理的に目的を遂行してマスよ!!!!!」

「目的……? あなたの目的ってなんなの……?」


 サクラは聞きながら後ずさった。すぐ床の端に辿り着いて思い出す。最上階から外の工場を観察していたのだ。後ろに下がる余裕など無い。

 ふと、サクラは床が揺れているように感じた。地震だろうか? 意識を向けていなければ気づかないほどの揺れだった。


「ワタシサマの目的は作成時からイッカンしている! Complete(完全なる) Victory(勝利を)! すなわち――」

「サクラ様。回避を!」


 コスモスの警告が耳に届いた瞬間、サクラは前へと跳んでいた。サクラが立っていた床から刃が生える。コンクリート製の床を薄紙のように切り裂いて、8本足のオートマトンが現れた。


「――敵の殲滅(せんめつ)ダ!!!!!!!」


 モニターからゲラゲラと笑う声が響く。喜びと悪意と狂気を宿して、アクビィが笑っている。これまでの会話は時間稼ぎだったのだ。発見した侵入者の元にオートマトンが辿り着くまでの時間稼ぎ。つまり、最初から向こうはサクラ達を殺すつもりだったのだ。




 命の危険に(ひん)して、サクラの思考が冷たく冴えわたる。オートマトンと正面から戦うのは自殺行為だ。ここで取るべき選択は逃走一択。アクビィの言っていることが真実か、考えるのはその後で良い。


 現在位置は建物の3階で、4階以上のフロアは解体されている。つまり、ここが事実上の屋上だ。壁も残っていないため、外に飛び出すことは可能。

 しかし、とサクラは襲ってきたオートマトンに目を向ける。基本はアークタウンで襲ってきた白兵型オートマトンと変わらない。サクラ2人分はある巨体と8本の足、違うのは鋭く研がれた剣のような両腕だ。

 あの巨体であれば建物の中を通った方が逃げやすい。サクラはそう判断した。狭い通路を通るには壁を破壊しなければならない。そうなれば動きが鈍るはずだ。サクラは階段へと足を踏み出して――。


「金属反応。階段下です」


 進行方向を無理やり捻じ曲げて外へと跳んだ。その瞬間、銃弾の嵐が階段を瓦礫に変えた。

 空中に飛び出したサクラは肝を冷やしていた。巨体の敵から逃げるために、狭い場所へと逃げ込もうとする。合理的で自然な考えだ。じっくり考える暇がない状況では誰だって同じように判断するだろう。それを読んで罠を張っていたのだ。コスモスの警告がなければ、今頃サクラは肉片になっていただろう。


 しかし恐怖に震える暇もない。すぐに重力がサクラを捕らえ、自由落下が始まる。サクラは左腕のワイヤーアンカーを発射した。角度をつけるように射出されたアンカーは隣の建物の上階に突き刺さる。そのままサクラはブランコのように弧を描いて地面に降り立った。ワイヤーがサクラの体重と遠心力を支えてギシギシと嫌な音を立てる。


「どこに逃げても! ムダ! デス!」


 街中のスピーカーからアクビィの声が聞こえる。サクラは地面に降りた勢いを殺さず走り出した。背後からは重たい金属がコンクリートを叩く音が響く。

 命を賭けた鬼ごっこが始まったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ