03私の名を使って貴族の方々から不正に金銭を騙し取っております。証拠として銀行記録があります
確信的な顔にミルナリスの心臓が高鳴る。
「何か、収穫はあった?」
「ああ。かなりのものだ」
店の奥から一枚の革袋を取り出した中には、いくつかの書類と小さな水晶球が入っていた。
「まずは、これだ」
書類をミルナリスに手渡した。違法賭博で多額の借金を抱えていることを示す、手書きの借用書。サインと彼の印鑑が押されていた。
「これはっ」
驚きと喜びで目を見開いた。こんな決定的な証拠が、簡単に見つかるとは思っていなかったのに。
「これだ」
次にギルバートが差し出したのは、小さな水晶球。魔道具の一種で特定の場所の様子を記録できるものらしい。便利グッズ。
「この水晶球にはヴァビル子爵が裏カジノで、賭博に興じている姿が記録されている。それも何度か」
水晶球を受け取った。ヴァビルが賭博をしている現場を押さえることができれば、これは動かぬ証拠となる。恨まれてそうだから、出回っていたのかも。
「それから、もう一つ。ヴァビル子爵が貴族の令嬢を騙して金品を巻き上げていた件についてだが、被害者の証言をいくつか集めることができた」
さらに数枚の書類を差し出した。騙された令嬢たちの、詳細な証言。ヴァビルに贈ったとされる、高価な宝飾品、騙し取られた金銭の額まで具体的に書かれている。
「これは、すごい!」
仕事ぶりに感嘆した。これほどまでに、確実に証拠を集めてくれるとは予想していなかったので。驚きもひと塩。
「感謝するわ、ギルバート。約束の対価は追加で支払う」
さらに金貨の小袋を差し出した。ギルバートは嬉しそうにそれを受け取る。
「まいどあり。また何か困ったことがあったら、いつでも来な」
深く頭を下げ、質屋を後にした。屋敷に戻った集めた証拠を慎重に整理する。
ヴァビル子爵の違法賭博の借用書。賭博現場を記録した水晶球。騙された令嬢たちの証言書。ミルナリスの名を使って不正に金銭を横領した銀行記録(ルグダムから入手)。
これだけの証拠があれば、婚約破棄どころかヴァビルを破滅させることも可能。静かに笑みを浮かべた。
これで、未来は変わる。証拠が揃った今、残されたのはヴァビルに婚約破棄を突きつけ、彼を断罪することだけ。
だが、感情的に行動してはならないと冷静に確実に、事を進める必要がある。
父であるノラウグスト公爵に相談することにした。貴族社会における地位も高く、権力も持っているので協力を得られれば今後の婚約破棄を、スムーズに進めることができるだろう。
執務室を訪れた。緊張する。
「お父様、少しお話したいことがございます」
突然の訪問に少し驚いたようだった。
「ミルナリスか。どうした、改まって」
「はい。実は婚約について、お伝えしたいことがございます」
公爵の表情がわずかに引き締まった。
「ヴァビル子爵について、何か問題でもあったのか?」
深呼吸をして、集めた証拠を一つ一つ説明した。
「私の名を使って貴族の方々から不正に金銭を騙し取っております。証拠として、銀行記録があります」
ルグダムから入手した銀行記録を差し出した。公爵は、記録に目を通し、顔色を変える。何故、その都度精査しないのかと呆れてしまうけど。
「これは……まさか、ヴァビル子爵がそのようなことを」
「さらに、違法な賭博に手を出し、多額の借金を抱えております。借用書もこちらに。賭博に興じている現場を記録した水晶球も」
借用書と水晶球を差し出した。公爵は水晶球に映し出されたヴァビルの姿を見て、怒りに顔を歪ませる。
「これは、動かぬ証拠だ……!貴族の娘たちを騙して金品を巻き上げていた証拠が、こんなにっ」
入手した被害者の証言書を差し出した。一枚一枚丁寧に目を通し、やがてハーッとため息をついた。
「よくこれだけの証拠を集めたな……なぜ、今まで黙っていたのだ?」
「ヴァビル子爵を信じておりました。けど、その行いはノラウグスト家の名誉を傷つけ、未来を危険に晒すものです。婚約を解消したいと存じます。黙っていたのは証拠もなく言っても、信じてもらえない可能性どころか、諸悪の元に話が入るかもしれないと思ったので」
まっすぐに父の目を見て、意思を伝えた。つまり、父が不甲斐ないということ。公爵は真剣な眼差しを見て、深く頷いた。
「わかった。言う通りだ。このような男と結婚させるわけにはいかない。責任を持って、ヴァビル子爵との婚約破棄を進めよう」
父公爵の言葉に安堵の息をついた。これで婚約破棄の道筋が綺麗に走る。
数日後、公爵邸にヴァビル子爵が呼び出された。いつものように優雅な笑みを浮かべていたが、彼の運命はすでに決まっている。
父はミルナリスと共に執務室でヴァビルを待っていた。入室すると公爵はいつものような穏やかな表情ではなく、厳しい顔つきで睨みつけている。
ぶわりと緊張が一気に押し寄せた。
「ヴァビル子爵、本日はお前にあることを問いただすために、お呼びした」
ヴァビルは公爵の言葉に、わずかに表情をこわばらせた。
「公爵様、私に不手際でもございましたでしょうか?」
「不手際などという生易しいものではない。この家の名誉を著しく傷つけ、娘であるミルナリスの未来を食い物にしようとした罪人だ」
公爵の怒声にヴァビルの顔から血の気が引く。
あー、三度のご飯が美味しくなりそう。
「何を仰るのですか、公爵様!私は、ミルナリス様を一心に愛し、ノラウグスト家のためにも尽力してまいりました!」
ヴァビルは必死に弁解しようとしたが、公爵は容赦なく言葉を続けた。




