04投資だと?怪しい投資話で貴族たちを騙し、私腹を肥やしていたことを知らぬとでも思ったか
愛する、と言われたらさぶいぼが腕に出てしまうではないか。
「口先ばかりの戯言は聞き飽きた。証拠は全て揃っている」
ルグダムが準備した書類をヴァビルの目の前に突きつけた。ミルナリスの名を使って、不正に金銭を横領した銀行記録が写し取られている。動かぬもの。
「これは何だ!貴様がミルナリスの名を騙り、我が家から不正に金を引き出した証拠ではないか!」
男はサーっと書類を見て顔を真っ青にした。
「これは……これは、誤解です!私は、ノラウグスト家のために投資を……ほんの少しだけ、ですから。ははははは」
「投資だと?怪しい投資話で貴族たちを騙し、私腹を肥やしていたことを知らぬとでも思ったか?」
さらに、ギルバートから入手した被害者の証言書を、これでもかと突きつけた。
「たくさんの、これほど多くの貴族の令嬢たちを騙し、金品を巻き上げていた。彼女たちの証言だ」
ヴァビルは証言書を見て、全身を震わせた。もはや、言い逃れはできない。チェックメイト間近。
「違法な賭博に手を出し、多額の借金を抱え、裏社会の人間と繋がっていたこともな!」
借用書と水晶球を突きつけた。水晶球に映し出された、ヴァビルが裏カジノで賭博に興じている姿に今のヴァビルは、絶望の表情を浮かべる。
「そんな……なぜ、なぜこのような証拠が……うう!」
自分はゆっくりと冷たい目でヴァビルを見つめていた。
「罪は、決して許されるものではありません。婚約を本日をもって破棄いたします」
相手はがっくりと膝をついた。
「ミルナリス様……どうか、お慈悲を……お願いします、どうか」
這いつくばってミルナリスに懇願。心は、微塵も揺るがなかった。だって、クズすぎて嫌。
「もう、手遅れよ。あなたは自分の罪を償わなければならない」
公爵は顔を冷たく見下ろした。倫理観が違いすぎて、捕まってないただの犯罪者だから。二人がこんな顔になるのは当然。
「ヴァビル子爵、貴様には貴族の位を剥奪し、全ての財産を没収するように議会へ提出をする。今までの罪を償うため、辺境の修道院へ送致されるだろう」
公爵の宣告にヴァビルは絶叫。悪事が明るみに出たことで貴族社会は一時騒然となった。公爵の迅速な対応と集めた確固たる証拠により、事態は収束に向かう。家の名誉を守った令嬢として世間から賞賛される。
「ミルナリス様、おめでとうございます」
メイド長のメアリーがミルナリスに深々と頭を下げ、執事のルグダムも静かに見つめている。
「ありがとう、みんな。みんなの協力があったからこそ、ここまで来られた」
心から感謝の気持ちを伝える。
こんな風に、使用人たちとの関係も良好になっていた。優しく、周りに気を配る令嬢へと変わっていったのだ。
というより、社交辞令をしていればこうもなるか。
窓からは、美しい庭園が見える。
「これからの人生を練り直さないと」
清々しい気持ちで空を見上げた。
子爵の断罪から数ヶ月後。ミルナリス・エーゼ・ノラウグストは穏やかな日々を送っていた。
社交界での評判は回復し、レッテルは剥がれ落ち。代わりに聡明で行動力のある令嬢として認識されるように。自室の書庫で、一冊の古い小説を見つけた。
記憶をたどるとまさに自分が転生する前の世界で流行していた、いわゆる悪役令嬢モノの小説だった。タイトルは光の聖女と闇の公爵令嬢。
「これ、断罪された後の話も書いてあるんだっけ……えっと」
何気なくページをめくると描かれているのは、ヒーローとヒロインの恋愛模様と悪役令嬢が断罪された後の、彼女の悲惨な末路。思わずため息をついた。
「もし、小説に似たことがこの世界で現実になっていたら、今頃……うわ」
ゾッとするような未来を思い描く。ミルナリスは顔を上げた。あの、悲惨な運命からは逃れたのだから落ち着かないと。
「小説かぁ」
ふと、ある考えがミルナリスの脳裏をよぎった。
「そういえば、この世界に漫画って文化はないよね?」
物語を絵で表現する挿絵というものは存在するが、漫画。特にストーリー性のあるコミックというものは存在しない。
「もしかして、これってチャンスなのでは?」
ミルナリスの瞳が輝き出した。前世の知識とこの世界の未発達な文化。この二つを結びつければ、何か新しいことができるのではないか。ミルナリスは閃く。
「この小説を、この世界でコミカライズしよう!」
もちろん、原作そのままではない。悪役令嬢の視点から描く、もう一つの物語。
断罪イベントを回避した自分の経験を活かし、悪役令嬢が主人公として輝く物語にしてみたらどうだろう?
ミルナリスの胸の中で新たな情熱が燃え上がった。コミカライズにはまず絵を描ける人間が必要だ。
屋敷の使用人や社交界で美術に詳しいと評判の貴族たちに、絵の才能がある人間がいないか、それとなく尋ねてみる。
なかなかミルナリスのイメージに合う人物は見つからない。彼女が求めているのは、単に絵が上手いだけでなく、物語の感情や動きを表現できるような、漫画家としての素質を持った人物。




