それは恋だった?
「それって、恋なのかな」
そう思ったのは、
ふとした瞬間だった。
悠人からの連絡が、
丸一日来なかった日。
前なら、
理由を探していた。
忙しいんだろうとか、
疲れてるのかもとか。
でも、その日は違った。
「来ないんだ」
それだけで、
終わった。
胸は、
痛くも、苦しくもない。
ただ、
少し静かだった。
翌日、
何事もなかったように連絡が来る。
『昨日バタバタしててさ』
いつもの言い訳。
いつもの調子。
『そっか』
短く返す。
前なら、
そこから会話を広げていた。
質問して、
話題を振って、
繋ぎ止めようとしていた。
でも、
それをしなかった。
スマホを伏せて、
考える。
私が好きだったのは、
悠人だった?
それとも、
期待している自分?
名前を呼ばれること。
必要とされる感じ。
「大丈夫」と言い続けている私。
それ全部を、
恋だと思い込んでいただけじゃない?
昼休み、
紗季が言った。
「最近、ちょっと変わったよね」
「そう?」
「前より、静か」
悪い意味じゃない。
むしろ、
落ち着いた声だった。
「何かあった?」
「……分かんない」
でも、
分かり始めている。
初恋って言葉は、
便利だ。
全部を美化できる。
我慢も、期待も、
無駄じゃなかった気がする。
でも、
その名前を外したら?
残るのは、
待っていた時間と、
削れた自分だけ。
悠人のことを思い浮かべても、
胸は強く反応しない。
代わりに浮かぶのは、
駅前で一人待っていた自分。
返事を待って、
理由を作って、
納得しようとしていた自分。
そっちの方が、
ずっと鮮明だった。
『また話そう』
通知が来る。
少し前までなら、
それだけで一日が終わっていた。
でも今は、
画面を見て、
一呼吸置く。
初恋は、
蜜の味だと思っていた。
でも実際は、
甘さよりも、
後味の方が長く残る。
それを、
そろそろ認めてもいい。
私は、
「初恋」という名前を、
少しずつ外し始めていた。




