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初恋は蜜の味だと思ったら大きな間違いだよ?  作者: 櫻木サヱ
初恋という名前を外す

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20/21

それは恋だった?

「それって、恋なのかな」


そう思ったのは、

ふとした瞬間だった。


悠人からの連絡が、

丸一日来なかった日。


前なら、

理由を探していた。


忙しいんだろうとか、

疲れてるのかもとか。


でも、その日は違った。


「来ないんだ」


それだけで、

終わった。


胸は、

痛くも、苦しくもない。


ただ、

少し静かだった。


翌日、

何事もなかったように連絡が来る。


『昨日バタバタしててさ』


いつもの言い訳。

いつもの調子。


『そっか』


短く返す。


前なら、

そこから会話を広げていた。


質問して、

話題を振って、

繋ぎ止めようとしていた。


でも、

それをしなかった。


スマホを伏せて、

考える。


私が好きだったのは、

悠人だった?


それとも、

期待している自分?


名前を呼ばれること。

必要とされる感じ。

「大丈夫」と言い続けている私。


それ全部を、

恋だと思い込んでいただけじゃない?


昼休み、

紗季が言った。


「最近、ちょっと変わったよね」


「そう?」


「前より、静か」


悪い意味じゃない。

むしろ、

落ち着いた声だった。


「何かあった?」


「……分かんない」


でも、

分かり始めている。


初恋って言葉は、

便利だ。


全部を美化できる。

我慢も、期待も、

無駄じゃなかった気がする。


でも、

その名前を外したら?


残るのは、

待っていた時間と、

削れた自分だけ。


悠人のことを思い浮かべても、

胸は強く反応しない。


代わりに浮かぶのは、

駅前で一人待っていた自分。


返事を待って、

理由を作って、

納得しようとしていた自分。


そっちの方が、

ずっと鮮明だった。


『また話そう』


通知が来る。


少し前までなら、

それだけで一日が終わっていた。


でも今は、

画面を見て、

一呼吸置く。


初恋は、

蜜の味だと思っていた。


でも実際は、

甘さよりも、

後味の方が長く残る。


それを、

そろそろ認めてもいい。


私は、

「初恋」という名前を、

少しずつ外し始めていた。

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