分かっている
その日は、
特別な連絡から始まった。
『今度、相談乗ってほしいんだけど』
今度。
久しぶりに、
具体的な言葉。
『いつ?』
少しだけ、
期待が混じる。
『まだ分かんないけど』
やっぱり。
『また連絡する』
その一文で、
話は終わった。
スマホを置いて、
天井を見る。
もう、
分かっている。
「今度」は、
予定じゃない。
「相談」は、
私じゃなくてもいい。
それでも、
選ばれた気がしてしまう。
その夜、
紗季と電話した。
「ねえ」
静かな声。
「もしさ、
本当に好きだったら、
今の関係で満足できる?」
答えは、
分かっている。
でも、
口に出すと、
何かが終わりそうで。
「……分かんない」
嘘。
「分かってる顔してる」
紗季は、
責めなかった。
それが、
一番きつい。
「連絡来るたび、
ちょっと嬉しくなるでしょ」
うなずく。
「でも、
会えるかもって期待して、
毎回外れるでしょ」
また、うなずく。
「それでも、
切れない理由は?」
しばらく、
何も言えなかった。
切れない理由。
嫌われたくない。
忘れられたくない。
この関係が、
ゼロになるのが怖い。
全部、
自分のため。
「……私が、
期待してる側だから」
絞り出すように言った。
紗季は、
少し間を置いて言った。
「じゃあさ、
相手は?」
答えは、
もうある。
「……待ってない」
その瞬間、
胸の奥で、
何かがはっきり形を持った。
私は、
待っている。
相手は、
待たせている。
その違い。
電話を切ったあと、
しばらく動けなかった。
スマホが震える。
『ごめん、今日もありがとう』
ありがとう。
また、その言葉。
必要とされている。
でも、
選ばれてはいない。
画面を見つめながら、
初めて、
返信をすぐに打たなかった。
数分。
数十分。
その間、
心がざわざわする。
返さなかったら、
どうなる?
追ってくる?
それとも、
何も起きない?
試すみたいな考えが、
浮かんで、
自己嫌悪になる。
結局、
短く返した。
『うん』
それだけ。
いつもより、
温度の低い文字。
それでも、
関係は切れなかった。
でも、
分かったことがある。
この関係は、
自然に終わらない。
どちらかが、
傷つく選択をしない限り。
私は、
その選択を、
まだ、
先延ばしにしている。




