嫌いじゃない
悠人は、変わらなかった。
それが、
一番はっきりした事実だった。
「最近、どう?」
相変わらずの聞き方。
相変わらずの距離。
「まあまあ」
柚月は、
そう答えることが増えた。
前は、
「普通」とか
「別に」とか、
会話を終わらせない言葉を選んでいた。
今は、
続いても、終わってもいい。
それだけの違い。
放課後、
偶然すれ違う。
「お疲れ」
「お疲れ」
短いやり取り。
それで十分だった。
胸は、
ざわつかない。
でも、
冷たくもない。
嫌いじゃない。
ただ、
もう期待していない。
それに気づいた時、
少しだけ、
怖くなった。
期待しないって、
こんなに楽なんだ。
その代わり、
何も始まらない。
「最近、連絡減った?」
悠人が、
何気なく言った。
責める調子じゃない。
確認するみたいな声。
「そうかな」
柚月は、
肩をすくめる。
「前は、もっと話してたよね」
前は。
その言葉が、
静かに刺さる。
「そうだね」
それ以上、
何も足さなかった。
悠人は、
少しだけ困った顔をした。
でも、
引き止める言葉は出てこない。
「忙しい?」
「ううん」
嘘じゃない。
でも、本当でもない。
忙しくなったのは、
気持ちの方だった。
沈黙。
以前なら、
柚月が何か言っていた。
話題を探して、
空気をつないで。
今は、
その役目を手放している。
「まあ、また」
悠人が言う。
「うん」
軽く返す。
それで、終わり。
歩き出してから、
柚月は思う。
嫌いになれたら、
もっと簡単だった。
怒れたら、
切れた。
でも、
優しかった記憶が、
ちゃんと残っている。
だから、
関係は壊れない。
ただ、
前に戻れないだけ。
初恋って、
終わる時も、
派手じゃない。
大きな別れも、
決定的な言葉もない。
ただ、
同じ場所に立てなくなる。
それだけ。
柚月は、
自分がもう
「待つ側」にいないことを、
静かに受け入れていた。




