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初恋は蜜の味だと思ったら大きな間違いだよ?  作者: 櫻木サヱ
期待は、約束じゃない

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13/14

それでも

「今度は、ちゃんと行けそう」


放課後、

何気ない顔でそう言われた。


心臓が、分かりやすく跳ねる。

でも、表情には出さない。


「ほんと?」


聞き返した声は、

できるだけ軽く。


「うん。来週なら」


来週。

今回は、具体的。


それだけで、

全部許してしまいそうになる自分がいた。


「じゃあ、また連絡する」


また、だけど。

でも、前よりは近い。


「分かった」


笑ったつもりだった。


家に帰ってから、

久しぶりに服を並べた。


派手すぎない。

でも、地味すぎない。


選びながら、

自分に言い聞かせる。


期待しすぎない。

今回は、ただ出かけるだけ。


そう思えば思うほど、

気持ちは逆に、浮き立っていく。


紗季に、

少しだけ話した。


『来週、行けそうって』


すぐに返信が来る。


『今度こそ、だね』


その「今度こそ」が、

胸に刺さった。


当日。


約束の時間、

五分前。


スマホを握りしめて、

駅前で立っていた。


人が行き交う。

誰も、私を気にしていない。


十分前。

五分過ぎ。


既読は、つかない。


大丈夫。

遅れるだけ。


自分に言い聞かせる。


十五分。


胸の奥が、

じわじわ冷えていく。


二十分。


スマホが震えた。


『ごめん、今ちょっとバタついてて』


理由は書いていない。

説明も、ない。


『少し遅れそう』


少し。

その言葉が、やけに曖昧だった。


『分かった』


送ってから、

画面を見つめ続ける。


三十分。


もう、周りの景色が

頭に入ってこない。


来ないかもしれない。

その考えが、

現実味を帯び始める。


一時間。


連絡は、来なかった。


私は、

駅前のベンチに座ったまま、

立ち上がる理由を失っていた。


怒る資格は、ない。

泣くほどの関係でも、ない。


ただ、

待っていた事実だけが残る。


結局、

自分から帰った。


家に着いて、

靴を脱ぐ前に、

スマホが震えた。


『本当にごめん。今日は無理だった』


理由は、最後までなかった。


謝罪だけ。


『大丈夫』


また、その言葉。


送信して、

画面を伏せた。


今回は、

約束だった。


時間も、場所も、決めていた。


それでも、

消えた。


紗季から、

短いメッセージ。


『帰った?』


『うん』


『もう、十分だよ』


その言葉に、

返事はしなかった。


十分。

何が。


私は、

駅前で待っていた一時間を、

頭の中で繰り返す。


信じた自分が悪いのか。

期待させた相手が悪いのか。


答えは、出ない。


でも、

一つだけ、はっきりした。


初恋は、

甘いだけじゃない。


むしろ、

静かに、

人の自尊心を削る。


それでも、

私はまだ、

次の連絡を、

どこかで待ってしまっている。

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