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初恋は蜜の味だと思ったら大きな間違いだよ?  作者: 櫻木サヱ
期待は、約束じゃない

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12/14

流れた

「今度の話なんだけど」


そう言われた瞬間、

胸の奥が、条件反射みたいに跳ねた。


昼休みの廊下。

人の行き来が多くて、

立ち止まるには少し落ち着かない場所。


「ごめん、今週ちょっと厳しくて」


悠人は、申し訳なさそうに眉を下げた。


「部活とか?」


「うん、まあ」


曖昧な返事。

でも、理由があるのは分かる。


責められない。

責める資格もない。


「そっか」


それだけ言って、

私は笑った。


ちゃんとした、大丈夫な笑顔。


「また、余裕できたら連絡する」


その言葉に、

一瞬だけ期待が戻る。


また。

余裕できたら。


未来形。

期限なし。


「うん」


それしか言えなかった。


その場は、それで終わった。

何事もなかったみたいに。


でも、心は違った。


「また」が来ない可能性を、

私はちゃんと理解していた。


帰り道、

足取りがやけに重い。


駅前の新しい店の前を通った時、

視線が、自然と吸い寄せられた。


ガラス越しに見える、

楽しそうな雰囲気。


あそこに、

一緒に入る想像をしていた自分が、

急に、恥ずかしくなった。


スマホを見る。

通知はない。


自分から送ればいい。

そう思って、

やめた。


追いかける形になるのが、

怖かった。


夜。

紗季から電話が来た。


「今日、元気ないでしょ」


声だけで、見抜かれている。


「別に」


また、その言葉。


「……約束、流れた?」


短い沈黙。


「約束じゃない」


そう答えた自分の声が、

思ったより低かった。


「それでも、でしょ」


紗季は、優しかった。

だから、痛い。


「期待してたんだよね」


何も言えなかった。


期待していた。

でも、それは私の問題。


相手は、

何も約束していない。


「悪くない人ほど、傷つけるんだよ」


紗季の言葉が、

胸に残った。


通話を切ったあと、

ベッドに倒れ込む。


何かを失ったわけじゃない。

最初から、手に入れていない。


それなのに、

喪失感だけが、ちゃんとある。


スマホが震えた。


『今日はごめん』


それだけ。


謝られると、

何も言えなくなる。


『大丈夫』


嘘じゃない。

でも、本当でもない。


大丈夫なふりが、

どんどん上手くなっていく。


期待は、

約束じゃない。


でも、

期待を持たせる優しさは、

人を、ちゃんと傷つける。


私はその夜、

駅前の店の名前を、

検索履歴から消した。


行かなかった場所は、

記憶の中でだけ、

少しずつ色あせていく。


そうやって、

自分を納得させることに、

慣れてしまっていた。

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