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初恋は蜜の味だと思ったら大きな間違いだよ?  作者: 櫻木サヱ
それは、選択じゃない

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14/14

優しい人

悠人は、相変わらず優しかった。


次の日も、

その次の日も。


「昨日はほんと、ごめん」


そう言って、

いつも通りに話しかけてくる。


周りに人がいる場所で。

軽いトーンで。

重くならないように。


「うん、大丈夫」


その言葉が、

反射みたいに口から出る。


本音かどうかを、

自分でも確認しなくなっていた。


「また、落ち着いたらさ」


その一言が、

会話の最後に添えられる。


未来の話。

でも、具体性はない。


私は、うなずくだけ。


断られたわけじゃない。

拒否されたわけでもない。


だから、

距離を置く理由もない。


それが、一番厄介だった。


昼休み。

教室の端で、

悠人は別の誰かと笑っている。


楽しそう。

私と話す時と、同じ顔。


それを見て、

胸が少しだけざわつく。


でも、

それだけ。


特別な何かは、

感じ取れない。


「優しいよね、あの人」


紗季が、ぽつりと言った。


「うん」


即答だった。


「誰にでも」


その続きに、

私は言葉を足せなかった。


誰にでも、優しい。


それは、

安心できる長所で、

期待してはいけない理由でもある。


帰り道、

一緒になる。


「最近、どう?」


当たり障りのない質問。


「普通」


「そっか」


会話は続く。

でも、深くならない。


一歩踏み込めば、

壊れそうな距離。


踏み込まなければ、

何も変わらない距離。


その真ん中に、

私はずっと立っている。


「今度、みんなで集まるんだけど」


みんなで。


その言葉に、

胸の奥が静かに沈む。


「来る?」


断られない。

でも、選ばれてもいない。


「うん、行く」


そう答えた自分は、

ちゃんと笑っていたと思う。


家に帰って、

鏡を見る。


表情は、

ちゃんとしている。


泣いてもいないし、

怒ってもいない。


ただ、

少しだけ、疲れている。


好きかどうかも、

もう分からない。


でも、

手放す決心もつかない。


それが、

一番、長く続く状態だと、

私はまだ知らない。

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