052_Ex002_ギルドの午後
午後のギルドで、ノエルは朝に受けた報告をまとめていた。
客から聞いた時には分かったつもりでも、書類にすると曖昧なところが残る。依頼で納めた品と、それとは別に買い取りへ出した品。最後の一枚で、その二つを同じ欄へ書きかけていた。
左奥を見ると、事務のおじさんもまだ筆を動かしている。
「そちら、終わりました?」
「まだです」
「手伝えるもの、ありますか」
「それを先に終えていただければ」
指されたのは、ノエルの手元の書類だった。自分の報告が揃わなければ、あちらも買い取りの記録と照らし合わせられない。
「……分かりました」
ノエルは机に向き直り、書き違えた欄を直した。
書類を揃え、インクが乾くのを待つ間に茶を淹れる。朝から働きづめのおじさんにも一杯運んだ。
「ありがとうございます」
おじさんは筆を置いたが、書類は開いたままだった。ノエルもその端を覗く。朝に話した客の名前があった。
「この方、帰りを急いでいらっしゃいましたね。頼まれた分は全部揃ったと、おっしゃっていました」
「ええ。ただ、こちらで受け取ったのは買い取りの品です。依頼の分とは別ですね」
「はい。私の控えも分けておきました。さっきまで同じ欄に書いてしまっていて」
相手が話した順に書くだけでは、あとから読む人が困る。ノエルは乾いた控えを持ってきて、直した箇所を示した。おじさんも自分の記録と並べ、一つずつ確認してくれた。
*
戸を開けて入ってきたのは、ウィルだった。
「こんにちは」
「こんにちは、ウィルさん。今日はお一人ですか?」
「はい。帰りに、これを出していこうと思って」
持ち上げた袋を見て、ノエルは左奥を案内した。おじさんは書類を脇へ寄せ、机を空ける。
「こちらでは冒険者情報の照会と、不用となった冒険者用品の買い取りを行っております。今日は、どちらですか?」
「討伐証明と、買い取っていただきたい分です。こっちは、分けてあります」
ウィルは砂トカゲのエリマキと、ゾンビの血晶の包みを並べた。もう一つの袋は口を閉じたまま足元に置いている。
「こちらは?」
「毛皮です。寝台の材料に使うので、これは持って帰ります」
おじさんは頷き、机の上の二つだけを受け取った。ノエルも渡し終えた控えを取りに、そばへ寄る。
重ねて運んだエリマキを、おじさんが一枚ずつ広げていた。端を離すと、下からもう一枚出てくる。
「ぁ、纏め方が雑でした。すみません」
「いえいえ、構いませんよ。良いようにせねば移動も一苦労でしょう」
ウィルが手を引っ込める。おじさんは数えた分をよけ、まだ重なっている方へ手を伸ばした。
「ウィルさん、整理整頓が上達しましたね」
ノエルが声をかけると、ウィルは足元の袋を見て笑った。
「ちゃんとしとかないと、この間は売るつもりじゃなかった分まで出してしまって……」
「それは困りますね」
初めて討伐証明を持ってきた日は包みを出す手もぎこちなかった。今日は説明を待たず自分で売るものと残すものを選んでいる。ついこの間のことなのに、とノエルは思った。
「自分で材料を集めて寝台づくりかぁ。すっかり冒険者らしくなりましたね! 寝台ができたら、どんな寝心地か教えてくださいね♪」
「はい。僕も楽しみなんです」
おじさんが血晶の包みを開く間、ウィルは勧められた椅子へ腰を下ろした。
次の客が入ってきたので、ノエルは受付へ戻った。布包みを抱えたその人は受付と奥の机を見比べている。ちょうど部屋から出てきた支部長が声をかけた。
「討伐証明をお持ちなら、左奥の事務員に話しかけてくれたまえ」
ウィルが椅子を寄せて道を空けた。おじさんは先の包みを一方へまとめ、客に少し待ってもらう。
「支部長、もうお出かけですか?」
「いや。少し顔を出しただけだよ。朝の分は終わったかね」
「はい。事務の方にも渡しました」
「うん。ありがとう」
支部長が奥へ戻ると、おじさんの計算も終わった。説明を聞き終えたウィルが空いた包みをしまって立ち上がる。毛皮の袋だけは来た時のまま膨らんでいた。
「ありがとうございました」
受付へも手を上げて、戸口で立ち止まる。
「明日の朝、釣りに行くんです」
「プリシラさんと?」
「いえ、プリシラのお父さんとです。前に誘ってもらっていて」
「それなら、良いお天気になるといいですね」
「はい。また報告に来ます」
「お待ちしています♪」
ウィルを見送り、ノエルは事務のおじさんから今日の記録を受け取った。
「エリマキが重なっていたので、最初の数より一枚多くなっています」
「分かりました」
訂正された数を確かめ、自分の控えへ写す。ウィルの名前のそばに、もう一行分の仕事が増えた。
その日の記入を終える頃、左奥から声がした。
「そちら、終わりました?」
「はい。今度こそ」
ノエルは筆を置き、すっかり冷めてしまったお茶に手を伸ばした。




