051b_選ばなくていいんです
エレノアを見ながらプリシラのことまで言うのが申し訳なかった。けれど、ここを隠して好きだと答えたら、きっと後でもっと悲しませる。
「ウィル兄様」
「……はい」
叱られると思っていたウィルに、エレノアは呆れ混じりの笑顔を向けた。
「兄様の不器用な優しさは、とっても素敵です。私もプリシラさんも、そういう兄様だからこそ大好きなんですけれど」
「その……ありがとうございます」
「そうですね。だからこそ、こういう発想が出てこないのは仕方ないですよね。むしろ、ずっと本気で悩んでくれていたという事がわかって、私はとっても嬉しいですよ?」
「うん……ごめんね。……こういう発想?」
「だから兄様の悩み、私がここで解決してあげます」
「えっと……どういう事?」
「兄様は選べなくてずっと悩んでらしたのでしょう?」
「はい……すみません」
「いいんです。だったら、選ばなくていいんですよ」
「……なるほど?」
返事だけは出た。何がなるほどなのか、自分でも分からない。
「そんな面白い顔しないで下さい。ウィル兄様。断言しますけど、プリシラちゃんも同じ考えです」
「え~っと、つまり?」
「二人とも娶って下さい。そうすれば誰も傷つきません」
ウィルはエレノアを見たまま、瞬きをした。
「……なるほど?」
「もう! その変な顔やめて下さい!」
「うぅ、エレノアが僕をいじめる……」
「虐めてません! 兄様、貴族は奥さんが沢山いるでしょう? 奥さんは何人いても別にいいんですよ?」
「ぇ……そうなの?」
「そうです。多くの人が一夫一妻なのは金銭的な余裕が無いからで、別にそういう決まりがある訳ではないですよ」
貴族には妻が何人もいる。それは知っていた。けれど自分もそうしていいのだとは考えたことがなかった。
「……選ばなくていいの?」
「はい。それこそ、冒険者さんでもたまに居るじゃないですか」
「ぁ、……アレって本当にそうだったんだ?」
「そうですよ! もう! 昔から変な所で抜けてるんですから……」
ギルドで、女の人を何人も連れた冒険者を見かけたことはある。仲間同士の冗談だと思って、ウィルは深く考えたことがなかった。
「……僕ずっと悩んでたんですよ?」
「……ふふ。ず~っとヤキモキさせると思ったら、そんな簡単な事だったなんて。でも、兄様らしいですね」
エレノアが笑った。ウィルはほっとしかけて、それでも首を傾げた。
「……でも、最初から知っていても、やっぱり『二人ともお嫁さんになって』とはならなかったと思うけど」
「まぁ、それもそんな気がします。でも、もういいじゃないですか。今度三人でお話ししましょう? 私、プリシラちゃんなら一緒で大丈夫ですから」
プリシラも同じ考えだと、エレノアは断言した。けれどウィルはまだプリシラ本人の口から何も聞いていない。確かめるなら、三人で顔を合わせて話すのがいちばんだった。
「うん、わかった。エレノア、いままで待たせてごめん」
「いいんです。変に拗れたり振られるより、最良の結果だったと思いますから」
嬉しそうなエレノアを見て、ウィルもほっとした。けれど結婚となると別の問題がある。村長に肩代わりしてもらった借金は、まだ返し終えていなかった。
「うん、でも……借金の事もあるし、いきなりお嫁さんは難しいと思うから、恋人からでもいいかな?」
「……そうですね。今となっては急ぐ必要もなさそうですから、とりあえずはそれで許してあげます」
「ありがとう、エレノア。好きです、恋人になって下さい」
「はい!」
今度は、笑ってごまかさずに言えた。
「兄様、キスして……」
「うん」
ウィルはエレノアを抱きしめ、唇を重ねた。離れると、彼女はすぐそばで目を開けた。
「私、この時をずっと夢見てました……」
「……ごめんね、僕が何も知らないせいで」
「良いんです、大好きですウィル兄様。ねぇ、もっとキスして下さい」
ウィルは、また彼女の願いに応えた。
「大人のキス……すごくエッチですね。ウィル兄様のここ、またとっても元気になっちゃいました」
「好きな娘とキスしたら、そりゃこうなるよ」
「兄様。私、ご褒美欲しいです」
「でも……、プリシラにすぐ戻るって言って来ちゃって……」
「む~、それじゃあまり時間がありませんね……」
「こんなつもりじゃなかったから……」
「……それなら、少しだけエレノアの好きにさせて下さいませ」
「うん、まぁ少しだけなら……」
「やった。うふふ。ウィル兄様はそのままで。全部エレノアが致しますから」
「え? ……ちょ、わぁ!」
その先の申し出まで、ウィルは考えていなかった。
*
恋人としての、二人の初めての濃密な時間だった。
プリシラを待たせている手前、身体を重ねる程の時間は無かったが、エレノアはウィルの猛るモノに懸命に奉仕した。
エレノアは途中から夢中になってしまったと、恥ずかしそうに謝った。ウィルこそ初めての彼女を困らせなかったか気にしていた。問いかけると、エレノアは嬉しかったと答えてくれた。彼女が隣で微笑んでいることを、もう家族だからという言葉でごまかさずに受け止めたかった。
プリシラが待っている。そう言われても、もう少し二人だけでと頼んだのはウィルの方だった。エレノアはもう一度だけと念を押して、ウィルの若い情熱に応えてくれた。
*
倉庫を出る支度を整える頃には、ウィルはすっかり落ち着かなくなっていた。プリシラにはすぐ戻ると言ったのに。
エレノアは、反対に嬉しそうだった。
「ふふふ。これからは、二人で過ごしたい時はいつでも言って下さいね❤」
教室に戻った時、どんな顔をしていればいいのだろう。ウィルは隣で笑うエレノアと顔を見合わせ、倉庫を出た。
*
子どもたちが帰った後の教室に、村の先生が一人で残っていた。
「エレノアさん……今日も可憐だったなぁ……」




