↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未だ蕾の勇者様(ノベライズ版)  作者: さじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/71

048a_花が咲いたら

 寝床に入ってからも、ウィルはなかなか目を閉じられなかった。


 静かになると、帰り際のネージュの顔を思い出してしまう。寝返りを打ち、息を吐く。それでも胸が落ち着かないまま、今度は別の言葉が浮かんだ。


 命を救われたのは二度目だと、ねーねは言った。


 あの時も、ねーねがいなくなってしまうのが嫌だった。


 いつの間にか眠りに落ち、夢の中で幼いウィルは森の道を走っていた。


「ネージュねーちゃん! こっちこっち!」


 振り向いて呼ぶ。枝葉に挟まれた道の向こうから、ネージュがやってくる。


 ウィルは待ちきれずに先へ走った。木々が途切れ、小さな広場が現れる。真ん中には屋根のある小屋、周りには丸太や樽。一見あちこちから集めてきたガラクタに見えるが、ここでは立派な冒険の戦利品だった。


 追いついたネージュが、広場を見回した。


「わぁ……村の近くにこんな所があったんだ」


「凄いでしょ!? あたしの秘密基地だよ!」


 横から飛び出したプリシラが、両手を広げた。尻尾までぴんと立っている。


「えぇ!? ここを見つけたのは僕だよぉ!?」


「一番最初にここに入ったのはあたしでしょ! だからここはあたしの縄張りなの!」


「プリシラちゃん、流石にそれはズルだよ」


 後ろから来たエレノアも口を添えてくれて、ウィルは勢いよく頷いた。


「そーだそーだ!」


「みんなの秘密基地でいいじゃない。一人ぼっちの基地なんて寂しいでしょう?」


「ほら! ネージュねーちゃんもあーいってるよ!」


「うぐぐ」


 プリシラの耳が、少し横へ倒れた。広げていた手を腰に当て、ウィルを見て、エレノアを見てから、ふんと胸を張る。


「仕方ないわね! なら、きょーどーけーえーしゃにしてあげるわ!」


「きょーどーけーえーしゃってなに?」


「え~っと……。一番えらい人だよ!」


「僕が一番えらいの?」


「あたしが一番えらいの!」


「そんなのズルいや!」


 それでは、さっきと少しも変わっていない。ウィルが言い返すと、プリシラは慌てて付け足した。


「で、でも……ウィルも一番えらいんだよ?」


「えぇ~? 一番えらい人が二人いるの? それってどっちのほうがえらいの?」


「そんなのしらないよ!」


「ウィル。一番偉い人が何人も居て良いよ~っていうのが共同経営者なのよ」


 ネージュがかがんで、顔を覗き込んだ。


「そうなの!?」


「そうだよ。皆で協力して頑張ろうね、っていう偉い人なの」


「そうなんだ!」


 それなら、とてもいいものだ。ウィルはすぐにエレノアを振り返った。


「じゃあ! エレノアもきょーどーけーえーしゃにしてあげる!」


「いいの?」


「ちょっとウィル! 勝手に決めないでよ!」


「いいだろ!? 僕だって一番えらいんだから!」


「ウィル。勝手に決めちゃうのはダメよ。みんなで協力するって言ったでしょう?」


 得意になっていたウィルは、口をつぐんだ。ネージュは二人を順に見て、ゆっくりと続ける。


「こういう時はね、偉い人同士で話し合って決めるの。だからね、プリシラが『良いよ』って言わないと、勝手には決められないのよ」


「そうなんだ……」


 では、そうすればいい。


「プリシラ! いいでしょ!? エレノアだけ仲間はずれなんて可哀そうだよ!」


「兄様……」


「う~。わかったわよ! エレノアもきょーどーけーえーしゃにしてあげる!」


「やったぁ! ありがとープリシラ! よかったね! エレノア!」


「ありがとう兄様……」


 エレノアは、ウィルのすぐそばへ寄った。


「大好き」


 その声は耳に入らず、ウィルはネージュを振り返った。


「よーし、じゃあネージュねーちゃんも、きょーどーけーえーしゃにしようよ!」


「あら、私もいいの?」


「二人ともいいよね!?」


「僕はいいよ?」


「それじゃみんな一番えらくなっちゃうじゃん!」


「それでいいじゃん! それに僕知ってるよ! たすーけつって言うんだ! さんせーの方が多いからこっちの勝ちなんだよ!」


「なにそれ! ズルい! あたし負けてないもん! あたしもさんせーだもん!」


「だったら決まりだ! これでネージュねーちゃんも秘密基地の仲間だよ!」


「嬉しいわ♪ ありがとうウィル、とっても優しいのね」


「えへへ……」


 褒められると、さっきまで言い合っていたことなんてどうでもよくなった。今日、見せたかったものは、まだある。


「ネージュねーちゃん! こっちにきて!」


「そっちになにかあるの?」


「これこれ! みて!」


 ウィルは花の前にしゃがみ込んだ。まだ花びらは見えない。けれど、葉の間にある小さな蕾を見れば、ネージュには分かるはずだった。


「あら、そのお花……」


「ネージュねーちゃんが好きなお花を育ててるんだ!」


「珍しいお花なのによく見つけたね」


「見つけるくらい大した事ないよ! けど、まだ咲いてるお花がなかったから、ここで育てる事にしたんだ。お花が咲いたら、ネージュねーちゃんにプレゼントするね!」


「ありがとうウィル。とっても嬉しいわ♪」


「へへへ……」


 まだ咲いていないのに、こんなに喜んでくれるなら。お花を渡す日にはどれくらい喜んでくれるだろう。育てるのはちょっと面倒くさいと思っていたのが、急にやる気に満ちてくる。


「ちょっとウィル! そんな事より、早く秘密会議するよ!」


 プリシラの声が飛んできた。


「う、うん。わかってるよ! ネージュねーちゃん! こっちきて!」


 立ち上がって、今度は席へ案内する。そこも、今日のために用意した場所だった。


「ネージュねーちゃんの席はここだよ!」


「なにそれ! 板張りしてカーペットまで敷いて、いつの間にそんなの用意したの!?」


「昨日ネージュねーちゃんを基地に呼ぶって話して帰ったあとだよ」


 プリシラは敷物を見下ろし、自分たちの座る丸太を見た。尻尾が大きく左右へ振れる。


「ネージュおねーちゃんばっかり贔屓してる! ズルい!」


「私だけこんなきれいな席でいいの?」


「ネージュねーちゃんは大人だから! 大人の女の人は、ばっちぃ所になんか座れないでしょ?」


「ぅ~……」


 エレノアも敷物を見ていたが、やがてプリシラへ向き直った。


「プリシラちゃん、こればっかりは仕方ないよ」


「うにゃーーーーー!!」


 プリシラの声が森に響き、ネージュが困ったように笑った。


 *


 あの時は、毎日世話をすれば咲くものだと思っていた。


 見に来るたび、昨日より膨らんでいないか確かめた。まだだね、と言って水をやり、次こそはと待っていた。その蕾が下を向いても、ウィルはしばらく、どうすれば元へ戻せるのかばかり考えていた。


「お花……枯れちゃった……」


「兄様、あんなに頑張ってお世話してたのに……」


 エレノアの声にも、いつもの元気はなかった。ウィルは膝を抱えた。触ったら折れてしまいそうな茎を、もう見たくなかった。


 ネージュが隣にしゃがんだ。


「お花の世話ってね、とっても難しいの。お水がなきゃ育たないけれど、お水をあげすぎてもいけないのよ」


 ウィルは膝から顔を上げた。足りなければいけないと思っていた。いっぱいあげれば、そのぶん元気になると思っていた。


「それにね、あのお花が珍しいのは、あのお花は他のお花よりも、もっともっと育つのが難しいからなんだよ」


 ネージュも、咲かなかった花を見ていた。


「蕾はね、必ず花開くとは限らないの。お花が咲くにはちゃんとしたお世話も必要だし、お花自身の努力もいっぱいいっぱい必要なんだ。だから沢山努力してちゃんと咲く事ができたお花は、とっても力強くてきれいなんだよ」


 せっかく喜んでくれたのに、約束を守れなかった。ウィルが俯くと、ネージュが顔を覗き込んだ。


「ウィルはとっても頑張ってた。ねーねはそれだけで、とっても嬉しかったよ」


 プリシラが、落ち着かない様子で一歩寄った。


「げ、元気だしなよウィル。また来年育てよう? ね?」


 来年。ずいぶん先だ。それでも、もう一度できるのなら。


「……そうだね。僕、来年になったらもう一回頑張ってみるよ」


 ウィルは膝をほどき、ネージュへ向き直った。


「だから……ねーね! お花の育て方、教えて!」


「……うん、わかった。来年、また頑張ろうね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。