商人アルフレッド
城都ウォンツアは周囲を壁で囲んでいるため土地に限りがある。だから誰かしらが建物を建てたい、改修、改築と思っても勝手に着工するのは犯罪になる。ではどうするか、区割りされた管轄の組合まで届出を出し認可を貰ってから作業をする事ができる。
俺の父親マルグはその組合に所属している大工だ。といっても親方とかではなく組合に所属している平の大工だ。
日の出と共に起き日が落ちれば帰ってくる規則正しい生活をしている真面目な人だ。
そんな父親が働いている現場は家から西の市場まで出て中央通りをめがけてまっすぐ歩いて10分程の所だった。
新しく商売をする商人が店を建てるらしいのだが、元々あった家を利用するのではなく解体して一から建築するらしい。中央通りに近づく程土地も高くなるのに建築費用を節約しないのだからよっぽど稼いでいる商人なんだろう。
そんなことを考えながら歩いていくと父親がいる現場へと辿り着いた。
二棟は建てられるであろう広い敷地には木材の骨組みが二階建ての家の形を成しており、作業をしている男達の掛け声や木槌を振り下ろす「ゴン!」と重い音が鳴り響いていた。
「父ちゃーん!メシ持ってきたよー!」
「おーう!ルーペック、すぐ行くからそこから動くなよ」
周囲の音にかき消されない大声を出し父親を呼ぶと声が聞こえた何人かの男が振り向いた。その中の1人にいた父親は威勢のいい声で返事をすると、周囲の男達に何かを話すと骨組みに立て掛けていた梯子を使用して地面に降りこっちへ歩いてきた。
「持ってきてくれてあんがとな。お前も一緒に食べるぞ」
マルグはサンドイッチもどきが入った木箱を受け取ると昼食を誘ってきた。
「父ちゃんのだけじゃないの?」
「今日は母ちゃんに俺とお前、2人分いれといてくれって言ったんだよ。ほら作業の邪魔にならねぇように端に行くぞ」
マルグは偶に二人で一緒に食事を取れるように母さんに頼むことがある。
一度理由を尋ねたことはあるが「なんとなくだ」と返された。きっと親子二人での食事を楽しみたいのかもしれないなと勝手に推測しそれ以降特に気にとめることはなかった。
マルグは道路横の作りかけの壁の上に腰かけると自分の横を叩き座るように促され俺は並んで腰かけた。
木箱の蓋を開け自分の分を取ったあと木箱ごと「ほれ」と差出してきた。
木箱を受け取り中に入っていたサンドイッチもどきを一緒に食べ始めた。
なぜサンドイッチ「もどき」なのかというと前世のパンと違い黒く、硬く、モソッとしている。
挟んでいるのも焼いた肉だけで野菜なんてものは入ってない。
記憶の中のあまりにもかけ離れているから俺はこれをサンドイッチとは認めたくなかった。
「母ちゃんの飯はうめぇな」
そんなサンドイッチもどきをマルグは大口を開けて豪快に食べすすめていた。
味だけでいうと確かに美味い。けど比較対象があるせいでどうしても比べてしまう。
それに俺の顎の力ではすんなり噛み切ることはできず、ギチギチと肉を噛みちぎらないと食えない。
「よく食えよルーペック。父ちゃんみたいにデカくなるんだぞ。あと寄り道せず帰れよ」
肉を噛みちぎるのに悪戦苦闘している俺を尻目にパパっと食べ終わったマルグはニカっと笑いながら頭をワシャと撫で現場へと戻っていった。
大工仲間と会話をしながら働く父親を眺めながら食事を続けていると視界の端にこちらに歩いてくる1人の男とその取り巻きが目に入った。
中心人物のそいつは一目見れば分かる上等な服を着ており、その服装はこの辺ではあまり見ないスーツの様な服装で低めのシルクハットを被っていた。周りの連中は警護担当なのだろうが、身につけている装備は革ではなく、金属でできた胸当てに腰には二振りのロングソードを携えていた。
その中にいた長身で金髪の男と目が合うとこっちへ小走りでやってくると声をかけてきた。
「やあ少年、この現場の親方に用があるんだが誰か分かるかな?もし分かるなら呼んでもらえると助かる」
「……っ、わ、わかりました。マッド親方ー!お客さんですよー!」
声かけてきた男は近くで見ると目鼻立ちがくっきりしておりいかにもモテそうな雰囲気を醸し出しており、同じ男なのだが一瞬見蕩れてしまい反応が遅れてしまった。
マッド親方は建物横に置いてある机で図面を見ながら男達へ指示を出していた。声に気づいてこっちへ視線をよこすと驚いた様子で目をハッと開くと急いでこっちへ走ってきた。
「これはどうもアルフレッドさん。王都での商売をされていると聞きましたが今日はどうなされたんですか?」
親方は俺に話しかけた金髪の男ではなく近づいてきていたスーツ姿の男へと声をかけた。
近くで見る男は存外若く20代後半であろう容貌だった。
「なに、王都で仕入れた商品を近隣の都市へ運ぶついでに寄っただけでそうかしこまらないでいい。進捗状況を見たいのだが構わないかな?」
「もちろんです。さっ、こちらへどうぞ」
「すまないね。それと、そこの君。親方呼んでくれて助かったよ、お駄賃代わりと言ってはなんだかこれをあげよう」
親方からアルフレッドと呼ばれていた男は右手を左の胸元へ差し込み何かを掴むと、その手を俺に差し出してきた。
男の手のひらにはガラス瓶が乗っており中には3粒程の飴が入っていた。
「ありがとうございます!」
「元気で素晴らしい。では、親方案内を頼む」
砂糖の値段はそれなりに高く一般家庭では手を出しにくい代物である。ましてや、それを加工した飴玉ともなればその値段は言うまでもない。それを駄賃代わりとして渡すこの男はとんでもない豪商なのだといやでも分かった。
俺は素直に飴を受け取り子供らしく元気に礼を言うとアルフレッドは頷き親方と共に現場へと歩いていった。
商人アルフレッド。もしかしたら彼には二度と会えない可能性もある。
大人になってから雇って欲しいと言った所で縁もゆかりも無い奴を雇うほど彼は愚かでもないだろう。
だったらこのチャンスを逃す訳にはいかない、なんとしてでも彼と話をして自分を売り込む。そう決意を固めると、手にしていたガラス瓶を強く握りしめていた。




