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魔王城の人姫  作者: 川輝 和前
第一章 『混沌の魔王城』
34/35

34 招かれざる客

衝撃が部屋を襲った。そしてその衝撃はただの衝撃ではなかった。

耐えようとした身体を上へ、空へと弾く、衝撃の通るところに居ることを許さないかのような、絶対的な力だった。


「うあっ!」


痛みなどは無い。ただ、身体が上へと弾かれるのを耐えることができない。


身体が回転しながら何も無い上の空間へ、そして雑に投げられたかのような感覚に襲われる。

空中での動き方など知らないため、流れに身を任すことしかできず、ただ浮いている事しか出来ない。


「…って、あれ?浮いてる?」


なにがおきたのか、そればかりを考えていた脳がそこで初めて冷静になる。

身体は浮いていて、ゆっくりと回転している。そしてそれは、大量に浮いている岩の破片も同じで


「…そうだ!皆は?!」


それが天井だったものと理解するのは早かった。そして、これが自分にだけおきた現象ではないことも分かり、回る不自由な身体で、精一杯辺りを見渡す。


「は?」


そして、目にしたものに言葉を失う。


「おらぁ!なんだ貴様らあ!」

「へいへい!どこからおいら達の城に侵入しやがったこの無法者共!」


ボロンとラロイが、血だらけで金棒を振り回し叫んでいた。

天井も地面も無くなった部屋で、浮いたままの不安定な状態で、なにかに怒り、なにかに金棒を振っている後ろ姿がそこにあった。


そして気づく。ボロンとラロイがいた場所だけでなく、部屋全体の天井、壁、地面が剥がれ、瓦礫となって辺りに浮いていることに。つい先程まであった部屋が、完全に崩壊していることに。


「なにが…おこってるの…」


直前の記憶と、今のこの現状、どれだけ考えても自分たちの身になにがおきたのかが分からなかった。


混乱すらもできないほど、私はこの状況を理解できず、血だらけで何かと戦っているであろうボロンとラロイの後ろ姿を、ただただ呆然とみてることしかできず


「レンカ!!」


その時、後方からメヴィアの声が聞こえ


「メヴィア!よかった!これは一体なにが…あっ…」

「説明は後だ!レンカは一旦この場から離れろ!ほらっ!どこでもいい!行け!ここにいるな!」


そう言って投げられたのは転移の石だった。

そして頭から血を流しているメヴィアをみて言葉を失う。今まで見たことのない表情で、だけど凄く怒ってるのは分かって


「ど、どこでもいいって、分かんないよ私!一体どうしたら…」

「ああ、くそ!じゃあ私のそばにいろ!」


分からない。自分だけが置き去りにされているこの状況を少しでも理解しようと辺りをもう一度見渡す。


すると、そこでようやく見知らぬ影をみつけ


「ねえメヴィア…何あれ…」


それは、知識にないものだった。人型だった。顔を黒い仮面で隠し、けれど黒い翼を生やしており、全身を鱗のようなもので守っている人型の何か。


「分からねえ。けど、私でさえ分からないってことは、恐らく#未界_みかい__#の奴らだ。未界の奴らの出現場所とこの魔王城の位置が運悪くかさなっちまったんだろう。」

「未界…?なに?なんなのそれ?説明…」


知らない。そんなの聞いていない。

説明してくれと言おうとしその瞬間、メヴィアの身体が恐ろしく速い速度で突っ込んできた何かと正面からぶつかる。


「ぐっ!レンカ!逃げろ!」


突っ込んできたのは先程の人型だ。


伸びた爪を前にし、真っ直ぐ突っ込んできたのだ。それが当たる直前にメヴィアは、いつの間にか緑の魔法陣を自身の前に形成しており、そこから発生している強力な風が人型を押し返す。

あまりに一瞬の攻防だった。分かったのは突っ込んできた後と、防いだ後のことだけ。動きだしたところも、当たる直前すらも私には視えなかった。逃げろと言われても、この状況でどこにどう逃げればいいのか。逃げる場所なんてない。だって周りには


「四体…無理だよ…」


ボロンとラロイのところに三体。メヴィアと私の前に一体。

ボロンとラロイ、そしてメヴィア、全員が血だらけになって戦っている。


状況は全く理解していないし、危機的状況で、本気で逃げてほしいから言ってくれてるのも分かるが、ここで逃げるのは薄情者の私でも流石に無理だ。


「レンカ!こいつが様子見をしてる間に、早くどこかへ転移して逃げろ!」


風に吹き飛ばされた人型と、睨み合いが続いているメヴィアが私にそう怒鳴る。

怒られてもいい。後で説教されてもいい。無謀だと思われてもいい。

それらよりも優先すべきことが決まったから、私は動くことを選んだ。目を閉じ、内にいる者に語りかける。


「モカちゃんお願い!力を貸して!緊急事態なの!」


精神世界で寝転ぶ悪魔に助けを求める。


「変なのが現れましたねぇ。」

「知ってるの?!あいつらはなに!」

「いいえ?全く知りませんよぉ。」

「ああ、もう!急いでるの!お願い!人格をのっとることができるって言ってたよね?今すぐやって!皆を助けて!」


力を手に入れたというのに、私はその扱い方を知らない。

どこまでできるかも分からない。直感のようなもので分かる。今の私では力があっても邪魔になるだけだと。


「逃げろって言ってましたよぉ?そっちの方がいいんじゃないですかぁ?」

「嫌!逃げない!だからさっさと力を貸して!」

「逃げた方が楽なのにぃ?」

「それでもよ!言ったでしょ!私は今を幸せに生きたいの!ここで逃げたら絶対この先良い気持ちで生きてられない!それは嫌!」


逃げた結果、あの三人に何かがあったら後味が悪い。それが私が逃げたくない理由だ。


「さぁ早く決めて!でも言っとくけど、今を守れない力に私は興味は無いから!力を貸さないなら、契約は今解除するからね!」

「えぇ…それってモカに選択肢ないじゃないですかぁ。」

「モカちゃんも私にそういうことしたでしょ!おあいこ!で!どっち!」

「…はぁ、契約した初日に契約を破棄されるなんて御免ですぅ。面倒ですけど、分かりましたよぉ。」


上手くいってよかった。じゃあ解除しろなんて言われたらどうしようかと、内心焦っていたが安心だ。そしてそうと決まれば


「どうしたらいい?どうしたら人格って変わるの?」

「やり方は同じですぅ。精神世界にモカを受けいれた時のように、両手を広げてくださあぃ。」

「そこでモカちゃんが突っ込んできて、入れ替わるってことね!じゃあお願い!」

「入れ替わってる間はレンカちゃんがこの世界に放置されるわけですけどぉ、あまり騒がず、大人しく待っていてくださいねぇ。モカ、少しの間だけ集中するのでぇ。」


それしかできないのは辛いが、今はそれが最善だ。私は両手を広げ受け入れる。


「絶対誰も死なせちゃ駄目だから!後はよろしく!!」

「丸投げじゃないですかぁ。まぁ、そういう契約なので頑張りますよぉ。」


悪魔が私の胸に吸い込まれるように入っていく。


「うぅ、やっぱり気持ち悪い…」


身体中から力が抜ける。それと共に、受け入れた時には感じなかった疲労感にも襲われ膝をついてしまう。


「はぁ…はぁ…でも、これで…後はよろしくモカちゃん。」


無い空を見上げ、私は望みを託した。


****


「クソッ!こいつなんて硬さしてやがる!」


睨み合いは終わり、こちらを貫こうと突っ込んでくる未知の人型生物を何度も何度も風魔法の突風で押し返す。だが、こちらもただ押し返しているだけわけじゃない。

風を鋭くし、刃のように扱える魔法も同時に扱っているのだが、未知の人型生物の鱗を傷つけるだけで、内部まで攻撃が通らないだけのが現状で


(しかもこいつらのこの攻撃…魔法じゃない。恐らくこいつらのこの身体は魔法で形成されたものじゃなく、元からこの身体なんだ。まずいな…向こうの体力に底があるなら勝機もあるが、もし無いのだとするとジリ貧だ。)


攻撃力自体は大したことないが、圧倒的防御力と機動力がとても厄介な上に、相性も悪い。

幸いなのは、向こうの興味が私にしかないこと。レンカは恐怖しているのか、動かなくなってしまったため、今そちら側に行かれるとまずい。


庇いながらの戦いとなると流石に厳しい。


「…あん?」


と、そんな事を考えていると、目の前の人型生物が突然小刻みに震えはじめ


「おいおいなんだそりゃあ!」


瞬く間に鱗が剥がれていき、下から今度は赤に輝く鱗が姿を現し


「■■■■」


その生命体の口から言葉であり言葉でない何かが発せられ、その直後、生命体がまた同じ体勢で突っ込んでくる。


「お前ら、何者なんだよ本当!」


得体の知れない、知性があるのかどうかも分からない侵略者に怒りながら、私は再び風魔法の突風で吹き飛ばさそうとし


「…えっ?」


その風で一切速度を落とさず、こちらに一直線に突っ込んでくる生命体に、私は為す術なく


「とぉ!」


貫かれた。そう覚悟した瞬間だった。横から聞き覚えのある、けれど初めて聞くような緊張感のない声と共に、一人の女性が、目の前まで迫ってきていた人型生命体の横っ面を横から殴り飛ばしてしまう。


「ええ?!レンカ?!」


横から割り込んできたのは、動かなくなってしまっていたレンカだった。

そして、人型生命体を殴り飛ばし、私を助けてくれたのも彼女で


「…まさか、そんなことって…」


ついさっき魔法を手に入れたばっかで、それを試す暇もなかったはずの彼女に助けられたのが現実と思えなくて


(いや、違う。雰囲気が…レンカのものじゃない。)


姿や形はレンカそのものだが、今目の前にいるのは、まるっきりの別人だ。


「いやぁ…久しぶりの実体で不安でしたけどぉ、意外となんとかなるものですねぇ。」


手を握ったり、開けたりしている彼女を視て確信する。


「なるほど、あんたがレンカと契約したっていう悪魔か。ありがとう、助かったよ。」

「はいはいぃ、モカちゃんですぅ。あなたの事も知っていますよぉメヴィアちゃん。それと、礼は不要ですぅ。そういう契約なのでお気になさらずぅ。」

「今はレンカと入れ替わってるって感じか?」

「そうですぅ。皆を助けて、と言われましたのでぇ。モカが来たわですぅ。決して、無理矢理とかではないので誤解はしないでくださいねぇ。」


普段のレンカでは絶対にしないであろう口調に気持ち悪い違和感を感じるが、それはそれとして無茶なことをする。

契約したとはいえ、ちゃんとした信頼関係を築く前に悪魔に身体を託すとは。こんな状況でさえなければ怒っていたが、助けられた身としては強く言い難い。


「事がすんだら、ちゃんとレンカに身体を返せよ。」


だから、大切なことだけを伝えておく。


「その辺はご心配なくぅ、ちゃんと返しますからぁ。あ、そろそろ行きますねぇ?あちらのでかい鬼さん達も苦戦しているようなのでぇ、誰一人死なすなと言われてますのでぇ、ではではぁ」


そう言うと悪魔は、蹴れるはずのない空間を蹴ったかと思えば、とてもつもない速度でボロンとラロイの元へと向かっていった。


「悪魔…か。レンカお前、とんでもねえ奴と契約しちまったな…」


あっという間にボロンとラロイの元に辿り着き、友人の身体のまま圧倒的な戦闘をしている姿は、目の前で目の当たりにしても信じ難い光景だった。


「…加勢はいらないなありゃあ。」


向こうには三体の、ここで戦っていたものと同じ同種がいるが、心配は無用だろう。なにせ、すでに圧倒的な戦闘をしているのもあるが、下に落ちている鼻から下の顔が吹っ飛んだ人型生命体をみれば、むしろ可哀想とまで思えてくる。

信じられないことに、たったの一発で、私の風魔法で傷がつけるのが精一杯だった鱗を破り、その残った衝撃で、顔を吹き飛ばしてしまったらしい。


(しかも…レンカが動いたのはこの未知の人型生命体が動いた後。私に爪が届く前に、後追いで追いつくとか…化け物にも程がある。攻撃も速度も、全てが相手の上をいっている。ありゃあ一瞬で勝負つくな。)


予想した通り、一体、また一体と落とされていく。そして最後の一体も呆気なく。そして、あっという間に手を振ってこちらに戻ってくる。


「終わりましたぁ。ですが、少々疲れたので、後はお任せしますねぇ。」

「あっ!おい!」


レンカの身体は支えを失ったかのように、下へ落ちそうになる。

その身体を風で浮かせ、何とかそれを阻止する。色々と聞きたいことがあったのだが、呼び止める間もなくレンカから悪魔の気配が消える。


「…ったく。どいつこいつも、なんだったんだ?」


辺りを見渡す。被害は甚大だ。鬼の修練場はその面影すら感じないほど崩壊していた。ボロンとラロイも疲れたのか、私の風魔法に身を任せ、力を抜いて浮いている状態。目の前のレンカも目を覚まさない。

全員命に関わる程の怪我ではないにせよ、医療部屋へ早く行った方がいいだろう。


「…悪いな皆。先に確かめなきゃいけない事がある。未界の奴らがここだけを襲ったとは考えにくい。」


恐らく、魔王城全体が襲撃されたのだろう。

そしてここまで侵入を許してしまったと考えるべきだ。故に、確かめるべきは一つ。この魔王城の王は、一体何をしているのかという一点のみ。


眠っているレンカの服から、預けていた転移の石をみつけだし、王が居そうなところを考える。


(こいつらが外から侵入してきたのなら…必ず通るのは入口のある酒場か。だとしたら、王が向かう場所は…)


目星はついた。ボロンとラロイの身体を風を使い引き寄せ、そして酒場へと転移し、そして、予想は当たっていた。


魔王ユウシンはそこにいた。だが、状況は想像していたもの以上で


「おい…これ、全部王がやったのか?」


目の前には一つの黒い山があった。それも、動かなくなったあの未知の生命体が積み上がってできたものだった。

そして見上げられるほどに積み上がったその山の上に、紫色の短髪と身体を赤くした魔王が立っていた。


「ん…?おや、よかった生きてたみたいだね。すまない。本当は入り口で全て殺すつもりだったんだけど、何体か逃がしてしまって心配してたんだ。」


王はみたことないほど、疲れた表情をしていた。


「…その何体かは、鬼の修練場でくたばってるよ。」

「おお、仕留めてくれたんだね。助かるよ。とはいえ、ボロンにラロイ、それにレンカも気を失ってるじゃないか。直ぐに治療をしよう。」

「いや、仕留めたのは私じゃなくてレンカだ。」

「なんだって?それは凄い。魔法の取得に成功したんだね。詳しい話はまた今度聞かせてもらうとしよう。」


そう言うと、王は山から飛び降り、目の前に降り立つと


「メヴィア、魔王城、住民達の被害の確認を頼んでもいいかな?全ての敵をここで相手したつもりだけど、万が一がある。生き残りがいたら無理せず僕に知らせてくれ。僕もこの三人の治療をしたら、直ぐに確認に向かう。」

「分かった。でも、王は大丈夫なのか?この数を相手にしたんだろ?」

「心配ありがとう。でも、疲れはしたけど全部軽傷だ。問題ないよ。」

「…そうかい。んじゃあ、レンカ達のこと頼んだぞ!」


疑っていた訳では無いが、相変わらず滅茶苦茶な魔法使いだと思わされる。


(山をみるに、数百はいただろうに…こちらも聞きたいことは沢山あるが、被害状況の確認が先だ。)


そうして、魔王城に訪れた混沌の時間は終わりを迎えた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

ご評価、ご感想、ブクマなどあればよろしくお願いします。

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