35 混沌
頭が痛い。モカちゃんと入れ替わり、戦闘が始まってすぐのことだった。
「あれ?」
違和感や疲労感だけでなく、身体からどんどん力が抜けていき、最後には立ってることさえできず、うつ伏せのまま動けなくなってしまったのだ。
「…モカちゃん強っ!こんなに強かったの?!」
それでも、一心同体ということもあってか彼女が視てる景色は私にも共有されていた。どうしようもないと思っていた存在を簡単そうに葬っていく。
まさか自分の戦う姿を視てかっこいいと思う日がくるなんて思ってみなかった。
「これが私…凄い!やっちゃえ私!そこだ!いけ!」
正確には、今の私は私ではないけれど、とても嬉しい気分になれた。
けど、それと同時にこのうつ伏せ状態になってしまうほどの力の抜け方と疲労感にも納得がいった。
「外であんな動きをされたら、私の精神は疲れまくりってわけね…」
いくら人格が入れ替わっているとはいえ、私の身体には違いないのだ。多少なりとも私に影響があるのも当然だろう。問題は、その多少で、私が動けなくなるほどの影響を受けていることなのだが。
「…あっ、終わった。凄ーい!一瞬だ!」
そして、そんなこんな初めての入れ替わりについて考える間に、戦闘は終わってしまう。
「えっ?!もう戻ってくるの?!待って待って!私まだ動けないんだけど!」
「はぃ、ごめんなさあぃ。モカも疲れたので休みますぅ。」
「戻ってくるの早っ!ちょっ、ありがとうなんだけどさ、どうすんのこれ?!」
「大丈夫ですよぉ。例え人格がなくても、人は死ぬ訳じゃありませんからぁ。まあ目覚めないレンカちゃんを皆は心配するでしょうけどぉ。」
最悪だ。ほとんど無理矢理戦わせたことへのやり返しなのではないかと思うも、助けてもらったので強くは言えない。
「むむぅ。くそぉ、ごめん皆!あと少し、あと少し寝たら起きるから!少しだけ…待って…て…」
うつ伏せの状態、戦闘後で緊張が解けたのか、たたでさえやばかった疲労感が勢いを増し、睡魔に襲われる。
(…あ、駄目なやつだこれ。)
眠りまではあっという間だった。
****
「覚めた?」
酒場の天井と一緒に視えるのは、メヴィアの顔だった。
「…すみません。私、無理しちゃって。」
記憶は鮮明だ。全て覚えている。
「全くだよ。でもまぁ、無事ならそれでいい。それ以上は言わないよ。」
メヴィアはそう言って笑う。
「…ありがとうございます。」
そう言ってくれるのであれば、私もそれ以上は言わない。言い合いがしたい訳じゃないので、彼女の優しさに甘えることにする。
「…それで、あの後どうなったのですか?」
そして、気になるのはやはり自分が倒れた後の事だった。守れたところまでは覚えている。
けど、そこからなぜこの状況になっているかまでは分からない。
「攻めてきた未界の者達は全滅、魔王城の被害は…建物と多くの怪我人といったところかな。幸いと言っていいものか、こちら側に死んだ者はいなかった。」
それに答えたのはユウシンだった。自分が寝かされている酒場の椅子の隣にいつの間にか座っており
「…ユウシンも怪我してる。」
頭と左手に包帯を巻いていた。死者はおらず、建物の被害と怪我人のみ。簡潔で分かりやすく答えてくれた。
でも、言葉以上に深刻な事態であることは想像できる。
あんなのが攻めてきて、無事であるはずがない。
「…ねえ、未界の者って何?」
ずっと疑問だったことだった。襲ってきたアレは、視たことも、聞いたこともない生物だった。でも、他の皆は分かっていたかのように平然と戦っていた。私だけが知らなかった。
「…教えて。」
怒ってるわけじゃない。でも、モカちゃんが居なかったら、私は恐らく何も知らずのまま、訳も分からず殺されていた。
「分かった。私が説明する。でも、初めに言わせてくれ。私達もあの生命体については何も知らない。これは事実だ。」
「どういうことです?」
戦闘中、彼女はあれについてよく知ってるように思えたが。
その疑問を聞く間もなく、メヴィアは続けて
「この世界には四つの空間があるって話は覚えてるか?」
「…はい。命界、獄界、魔界、天界でしたよね?」
魔法領域で教わったことだ。それぞれの空間には普段は目に視えない生命体達が、その空間の中で、私達と同じ世界を暮らしていると。
「そうだ。でも今日襲ってきた奴らは、その四つの空間に住む生命体どれにも特徴が合わない生命体だった。つまり、信じられないかもしれないが、奴らは私達が知らない空間からやってきたってことになる。」
「…はい?知らないって…四つだけじゃないのですか?」
「本来、別空間の存在なんて認識できない。向こう側の存在が関わってきて初めて存在することが分かる。そして、分かってるのは四つだ。四つ以上あると言われてはいたが、ここ数百年それはみつかっていない。故に、未界という名称だけの存在だった。」
「…いやいや、まさかそんな…じゃあ今まで発見されていなかった空間の生命体が攻めてきたと?」
メヴィアは頷く。私達もあの生命体については知らないと言っていた意味が分かった。だが、そんな偶然、そんな事が本当におこりうるのだろうか。
「…信じられません。」
「私もだ。でも、それが真実であり、おきた事だ。」
自分で聞いておいて、彼女の言ってることが信じられなかった。
「…未知の生命体により襲撃、それについて考えるのは、これ以上よしたほうがいい。混乱するだけだ。理解できないもの。天災だと考えるしかない。運が悪かったと。それに、そんなに心配する問題でもない。奴らは消えたのだから。それに、それよりも大変な問題がある。」
と、そこでユウシンがそんなことを話す。
「おいおい王よ、それは少し楽観的過ぎやしねえか?」
「メヴィアの言う通りです!今襲ってきてもおかしくないじゃないですか!これよりも大変な問題なんて…」
当然、私もメヴィアと同意見で、この問題をもっと重く受け止めたほうがいいと言おうとしたのだが
「彼らも僕も暴れすぎた。城が限界だ。魔法で治そうとしたが、奴らの力なのか、妨害されて上手くできない。近くの国、あるいは街で一度治さないと、この城はこのままでは墜落する。」
「…えっ?冗談だろ?王。」
「…ユウシン、嘘ですよね?」
それは確かに、何よりも一大事だった。
「とはいえ幸いなことに、近くに大きな国がある。何とか一週間は耐えてみせよう。なので、君たち二人には、魔王城の修復に必要な素材を買ってきてもらいたい。よろしく頼んだよ。ちなみに拒否権は無い。」
魔王のその言葉に、私達二人は、何も言えなくなった。
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