33 力を使いたい!
意識を現実へ戻すと、目の前にはメヴィアが立っていた。
「あっ!よかったぁ。ずっと目を瞑ったまま動かないから心配したぞ!大丈夫か?」
「…あっ。はい。何とか…」
「どんな感じにやってるかなって思ってやってきたらこれだ。遠慮せず誘ってくれればいいのに。」
「…心配して来てくれたんですね。すみません。でも、もう大丈夫です。」
迷惑をかけないようにと思ってやった結果が、逆に彼女を心配させてしまっていたようだった。
「なら、いいけどさ。それで?進歩はどんな感じなんだ?」
メヴィアにそう聞かれ、そこで、精神世界でおきたことを思い出す。
ぼやっとした世界の中での出来事、その記憶が段々と蘇ってきて
「進歩…?そうだ!そうなんですよメヴィア!!私!遂にやりましたよ!」
「うぉ?!ど、どうした?…っておい!」
私は、ほぼ魔法のようなものを手に入れたことを思い出した。想像していたものとは違うが、私は遂に特別な力を手に入れたのだ。
それが嬉しくて、メヴィアの腰を両手で掴み、持ち上げ、その場で何回もまわる。メヴィアの身体はものすごく軽い。
「やったやった!やったんですよ!私、ついに!いやっほーい!」
「おいおい、落ち着けって!てか、凄い力じゃん!なんの魔法だ?」
「分かんない!でも、悪魔と契約したらこんな感じになっちゃった!頑丈な身体と、身体能力が強化されるんだって!なんだか、さっきから身体中から力が湧いてくるの!」
「マジかよ!上手くいったのか!レンカ、良かったじゃーん!」
メヴィアも自分の事のように喜んでくれる。
それがまた嬉しい気持ちを強くしてくれる。自分が嬉しいと思ったことを、一緒に喜んでくれる友人がまたできたことが嬉しいのだ。
「うん!ありがと!あっ、そうだ…」
そこまで話したところで、私はある事を思い出した。
「ん?どうした?」
首を傾げる彼女をおろし、私は少しの間、考える。私が思い出した事、それは魔法を取得することができたら、やってみたいと思っていたことだった。
「あの!色んなことを頼んでばっかでごめんなさいなんだけど、もう一個頼んでもいい…かな?」
頼りっぱなしで、ずっと視てくれてる彼女に、またお願い事をするのは申し訳ない気持ちになるのだが、やはりやりたい事をやるには、この魔王城をよく知っている人物の協力は必ず必要になってきてしまうので、それでも頼むしかなかった。
「…言ったろ?どんどん頼ってくれて構わないよ。」
「疲れない?」
「本当に疲れていたら、勝手に寝てるさ。疲れないし、迷惑とも思っていない。むしろ、レンカといたら愉快で楽しいから、自分の意思で来てる。気にしなくていいよ。」
「…そっか!ありがと!じゃあ頼んじゃおっかな!」
メヴィアは笑ってそう言ってくれる。
彼女の自分に向けてくれる感情と距離感が私は大好きだ。ちゃんと、私を視てくれているんだなと実感する。
とはいえ、彼女の優しさに甘えてばっかりなのは駄目だぞと自分に言い聞かせる。
「それで?レンカは次、何がしたいんだ?お姫様にはなれて、魔法も取得した。その後のレンカの願いってなんだ?」
「ふっふーん。魔法を取得したんですよ?そんなの決まってるじゃないですか!」
「ずばり?」
「取得した魔法を試したい!です!何かそういう事ができそうな場所ってありますか?」
せっかく魔法を取得したのだ。やはり使ってみたいと思うのは当然だろう。
「…ふむ。魔法を扱える場所あるにはあるけど、レンカの魔法は身体の強化だったよね?どの程度か、悪魔と契約した際に説明されたりした?」
「はい!なんでも、思いっきり跳べば空まで行けるんだとか!」
「…空?流石にそれは、悪魔側が魅力的に思えるよう盛った話でしょ。まあでも、とりあえず分かった。一応魔法を使っても大丈夫な部屋はあるから、そこに今から行く?」
「えっ…あっ!はい!行きます!行く!」
意地悪で、適当さが目立つモカちゃんが、唯一真面目な口調で喋っていた契約内容に嘘があるとは考えもしなかったが、一応契約しやすいように言ったという可能性もあるのかと、そこで初めて、その可能性に考えさせられた。
(そう思うと、やっぱり交渉って凄く難しいなあ。考えれば考えるほど、他にも相手の思うように動いてしまっていたんじゃないかと考えちゃう。それに比べ、私は、正直に受け答えをしすぎていたのかな?)
考え始めると、自分の駄目だった場所がどんどん分かってくるので、今はその事について考えるのはやめることにした。
まだまだ世間知らず、勉強しなくてはいけない部分がまだまだあるなと、外の世界にきて思う。
「だから…沢山経験して学ばないとですね!ということで!メヴィア!よろしくお願いします!次はどこに向かいますか!」
知らないことや分からないことは考えても仕方ない。今はただ、己の未熟さに我慢して、焦らず地道に経験して学んでいくしかないだろう。
「気合入ってるな。その調子だ!まあ当然か、んじゃ、早速次の目的地に行くぞ!場所は、赤の九番。鬼の修練場と呼ばれる場所だ!」
こうして私は無事に魔法取得訓練を終え、次なる課題、魔法実践訓練に挑むのだった。
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赤の九番、鬼の修練場。そう呼ばれている部屋の特徴は、とても分かりやすいものだった。
部屋のほとんどの場所に、巨大な岩が置いてあり、丸い岩や尖った岩、何やらよく分からない形をした岩など、その形状は多種多様なものだったが、一目でここはそういう事をするために造られた部屋なのだなと分かる部屋造りがされている場所だった。
だが、そう確信できるのは、部屋だけが理由じゃない。むしろ、この部屋よりも更に存在感があり、鍛錬をするための場所だと言わんばかりの、ある管理人の存在が大半の根拠となっている。その存在というのも
「おうおうおうおうおう!メヴィアじゃねえか!何しにきやがったんでい!」
「へいへいへいへいへい!兄貴、よく視てくれ!連れがいるぜ!」
十五メートルはあるだろうか。頭部に二本の角を生やしており、異様に尖った刃のような歯、生き物としての格の違いを見せつけられているかのような巨大で赤い分厚い身体、そして見るもの全てを威圧するかのように剛腕の手に力強く握られている金棒。
昔読んだ絵本に登場していた存在、そこでは鬼と記されていた存在が今、私の目の前に、こちらを見下ろしながら立っていた。
「そうだ、私の隣にいる友達が悪魔と契約して魔法を取得してな。ただ、上手く扱えるか不安らしいからさ、色々教えてやってくんねえかな。魔法系なら私が教えたんだが、身体強化系らしいからあんた達の方が適任だろうと思ってさ。」
「おうおう?そういう事なら任しときな。」
「へい!おいら達にかかれば二日で鬼神の如き力を手に入れることが出来るぜ!」
私がその存在に圧倒されいる間に、話がどんどんと進んでいく。
「おお、頼むよ。じゃ、ほら。挨拶しな?」
そんな中、隣のメヴィアにそう言われ、私は恐る恐る
「レ、レンカです。よろしく…お願いします。」
自分より大きな存在で恐怖心があったからか、相手から目線を離せず、結果的に見上げながら頭を下げるといった、ものすごく不自然な挨拶となってしまう。
「おう!レンカか!俺はボロン!この修練場の管理人(自称)だ!よろしくだ!」
鬼の声は大きい。普通に話してくれてるだけなのだろうけど、頭に響くような声だ。
特に、二体のうちの、今ボロンと名乗った鬼の声は思わず耳を塞ぎたくなるようなほどの声量で
「へい!レンカ!おいらはラロイ!この修練場の管理人、ボロン兄貴の弟だ(自称)!よろしくう!」
もう片方、ラロイと名乗ったこの鬼はとても陽気だが、お調子者感が滲み出すぎてる鬼だった。
「まあなんだ、初めは皆そんな感じの反応になるが、じきに慣れるよ。」
私の心の声が聞こえていたかのように、メヴィアがそう口にする。
「悪い奴らじゃない。ここも気楽に楽しめばいいさ。」
続けてメヴィアが笑ってそう言うと
「おうおう、レンカ。まず初めに、お前さんがどこまでの力の持ち主か確かめさせてもらうぜい。力の制御を教えるには、実力を知っとかねえといけねえからなあ。」
そう言って一歩前へでてきたのはボロンだった。
「実力…えっ?なにするんです?」
「身構えなくてもいい。戦うわけじゃねえ。俺を全力で突き飛ばすだけでいい。」
「なんだ…そんなことか。よかったあ…てっきり戦えと言われるのかと。」
「さすがに初対面でそんな事させるほど、俺は鬼じゃねえ。」
鬼の修練場と呼ばれるくらいだから、そこまで要求されてもおかしくないと思っていたが、意外と優しい方法だった。
「えっと…全力でどこを突き飛ばせばいいのですか?」
「そうだな…よし!ここにドンと来い!」
ボロンは背中を伸ばし胸を張ると、少し前にでたお腹を、金棒を握っていないもう片方の手で叩いてそう言う。
「えっ…待ってください。私、そこまでまず届きませんけど…」
ボロンは当たり前のようにそう言うが、見上げるような位置にあるお腹を突き飛ばすのはどう考えても不可能だ。
「おうおう何言ってやがる。悪魔と契約したならもう既に身体はできあがってるだろう。これも訓練だ。まずは己の身体がどう変化したかを知れ。足に力を入れ、少しの力で跳んでみろ。このお腹の位置までは軽く跳べるはずだ。後は助走をつけて全力で俺に手を前にして全力でぶつかってきたらいい。」
「…えー、いきなり本番ですか。」
力の扱い方を教わるということだったので、メヴィアが魔法を教えてくれたように、ある程度のやり方ぐらいの説明はあるのかと思ったが、それは無く、いきなりの実践だった。流石にそれは怖くないか思うも
「大丈夫大丈夫!危なそうだったら私がレンカを救ってあげるから!」
「おいらからの助言だ。手に入れた力を恐れるやつは前に進めねえぜ?」
メヴィアと、それとラロイがそう言ってくれる。
「…もう、こうなったらとことんやってやろうじゃない!思いっきり、思いっきりね!」
「おうよ!その意気だ!遠慮はいらねぇ!思いっきりこい!」
想像もつかないような力を手にした身体を、ついさっき手にしたばかりの力を、目の前にいる巨大な鬼の腹へとぶつける。
自分の身体がどう変化しているのか、相手がどうなるのか、恐怖と不安、喜びと楽しみ、色んな感情が混ざった状態でいざ突っ込もうと鬼を見上げ、走り出したその直後
「…あれ?」
見上げた先にある、鬼より更に高い位置にある部屋の天井、少し離れたところではあるが、そこに先程まではなかった大きな亀裂がはいってるのが視界にうつり、反射的に動きが止まる。
何故だか分からないが、そこにとてつもない不安を感じたのは確かで
「あの!皆さん…」
亀裂のことを伝えようと、その後の言葉を言おうとしたその瞬間のことだった。
立ってられないほどの大きな衝撃と、天井が崩れ落ちる大きな音が、部屋を襲ったのは。
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