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魔王城の人姫  作者: 川輝 和前
第一章 『混沌の魔王城』
32/35

32 レンカとモカ⑵

契約は上手くいった。今度こそ、中途半端ではなくお互いにとっていい契約となった。


「これから、正式にモカと契約したことによってぇ、レンカちゃんの身体に起きる変化について話しますねぇ。」


真っ白な精神世界で、上機嫌に話す目の前の悪魔、モカちゃんに私は苦笑いを浮かべる。

正式契約をする前とした後ではここまで態度に差がでるのかと、露骨すぎる悪魔の機嫌には驚かされる。別に悪魔なのだからそういうものだと理解はしているが、もう少しだけこちらに対する配慮みたいなのをしてくれてもいいのではないかと思う。


とはいえ、言ったところで変わってくれるような悪魔でもない、この悪魔の意地の悪さはこの短い時間の付き合いでも分かっているので、割り切るしかないのだろうけど。


「ちょっとぉ、モカの話聞いてますぅ?」


そう言った彼女は、私の方へと近づくと、顔を近づけ至近距離でみつめてくる。正式契約する前はずっと寝転んでいたというのに、正式契約した途端にこの距離感だ。


「少し考え事をしていただけ。ちゃんと聞いてるよ。」


そう答えると、モカちゃんは少し不満そうな顔をするも、すぐに顔を上げ、元の位置に戻ると


「せっかくモカが説明してあげるんですからぁ、もっと真剣に聞いてくださいぃ?まあ、モカが説明しなくても自分ですぐわかるようになりますからぁ、どっちでもいいんですけどぉ?」

「もー、分かった。ごめんね。真剣に聞くから聞かせて?」

「そうですぅ。モカが話す時は適当な態度は許しませんからねぇ?」

「適当な態度って…いや、なんでもないです。続けてください。」


一体どっちが適当な態度をしているんだと、危うく本音がでそうになったが我慢だ。


「じゃあ説明しますねぇ。モカと契約したことによっておきる身体の変化、その一。傷や痛み、病気、毒、呪いといった身体的、精神的被害が排除されるよぉ。これからの人生、そういったものから無縁となる身体になりますぅ。というか、もうなってますぅ。」


メヴィアから聞いていた通りの内容だった。

だが、メヴィアも言っていたが、契約した者にしか分からない力というのが、悪魔との契約において気をつけなければいけないところ。なので、確認は必須だ。


「一つ質問、それはどうして無縁になるの?」


事前の情報によれば、悪魔がそれを許さず、それらの害を喰ってしまうからと聞いていたが


「簡単な話ですよぉ、毒をもって毒を制すって、聞いたことないですかぁ?そもそもぉ、身体的、精神的被害を感じるのは生物の特権なんですよぉ。ですのでぇ、ただ存在するだけの悪魔がそれらを感じることはありえないわけでぇ。そして、その悪魔とレンカちゃんは同化しちゃったわけですからぁ。言ったでしょう?一心同体だってぇ。もうレンカちゃんの身体は人の枠を超えてるって話ですよぉ。いや、そういったものが関われる次元にもういないって言った方が分かりやすいですかねぇ?」


簡単そうに話すが、つい最近まで魔法の存在すら知らなかった私には中々理解が追いつかない話だった。そして首を傾げる私にモカちゃんは続けて


「悪魔であるモカとこうやって話せているのも、違う空間からモカがやってきてあげたからでしょう?それと似たような話だと思ってもらえればいいですぅ。別空間にいる者に対して、攻撃をしても届かないでしょう?レンカちゃんがモカを認識できてるのは、モカがそれを許したからぁ。それまでは、黒い何かが蠢いているとしか視えなかったでしょう?」

「…あっ、なるほど。」


そこまで言われようやく、なんとなくだが理解した。魔法領域に来て、大地の下にいた黒い何かと光り輝く何か。

メヴィアもあれの正体は悪魔と天使と言っていた。どんな奴らか知りたければ契約しろとも。


「知らない空間に関わることはできませんからぁ。レンカちゃんはこの世界のこの空間に住んでいますがぁ、それと同時に、別空間の存在であるモカとも身体を共有してるわけですぅ。」

「だから私の身体にも、モカちゃんの身体の機能がついてるってこと?」

「機能って言われ方はなんだか嫌ですけどぉ、まあそんな感じですぅ。」

「…滅茶苦茶でよく分からない繋がりだけど、そういうものだと思って納得するしかないってこと…?」


モカちゃんは頷く。成程、確かにこれは契約者にしか分からないことだ。

言われた、契約した本人にしか分からないだろう。悪魔を認識できるのは契約者のみで、その力の説明がされるのも本人のみ。


更には、扱える力もユウシンやメヴィアのような目に視える派手な魔法とかではない。痛いや苦しいは本人にしか分からず、それを感じさせなくするのが悪魔の力というのなら、それの証明は本人以外できないだろうし、その説明もまた難しい。


「難しい力だね…」

「そうだねぇ、でも、痛みや苦しみから解放されるってぇ、とても魅力的な力でしょう?」

「うん…それは本当にそう思う。本当に私の身体が痛みや苦しみを感じない身体になってるなら、それは嬉しい。両方とも嫌いだから。」

「だからぁ本当だってぇ。…あっ、そうだぁ、考えて理解しようとするよりぃ試してみた方が分かりやすいよぉ?」


嫌な予感がした。何気ない会話の最後に、無視してはいけない言葉があった。


「た、試す?」


さすがに今の話の流れから、何を試すか想像できないほど馬鹿じゃない。

でも流石にそれはしないだろうと、その考えを捨てようとしたその時だった。


「ほっ、とぉ。あるかなぁ」


モカちゃんはそう言うと、自身の毛のような泡のようなもので包まれた身体に手を突っ込むと


「あっ、あったあった。」


そして身体の中へ手を突っ込んですぐ、モカちゃんは何か探し物をみつけたかのように、手を外へだす。


「えっ…冗談でしょ?」


モカちゃんの手には一本の刀が握られていた。


「とりあえず、刺してみようかぁ?」

「いやいやいや、待って!ちょっと待って!」


私は必死に止めた。まず、色々と言わせてほしい。なぜ身体の中に腕が入るのか、なぜそこから刀がでてくるのか、なぜ刺すという状況になったのか。色々と、おかしいではないか。


「大丈夫だよぉ、痛くないからぁ。」


目の前の悪魔は、刀を握っている手をひらひらと振りながら、笑顔で私にそう言ってくる。


(こいつは頭がおかしいのか?)


ここまで素直に相手の頭がおかしいと思えたのは初めてかもしれない。


「どうするぅ?手っ取り早く自分の力を試せるよぉ?」

「絶対嫌!!後で自分で、私なりの方法で試すからいい!次の説明いって!」

「ありゃりゃぁ。それはざぁんねぇん。本当にぃ今試さなくて大丈夫ぅ?」

「いいから!はやく!」


私は断固として拒否した。そもそも、もっと軽く試せる方法はあるだろう。なぜ刀で刺す必要があるのか。


「じゃぁ、二つ目だねぇ。」


こちらが拒否しても、無理矢理刺してくるんじゃないかと心配していたが、どうやら大人しく次の説明にいってくれるようだった。


「二つ目はぁ、頑丈な身体と身体能力の強化だよぉ。以上がモカとの契約の結果ですぅ。」

「…はい?」


私は聞き間違いを疑った。


「…頑丈な身体と身体能力強化って、今言った?」

「そうですけどぉ?なにかぁ?」

「それだけ?!空は?!飛べないの?!」

「贅沢な人ですねぇ。モカは視てのとおり、翼がないので空は飛べませんよぉ。」


すごく失礼かもしれないが、落ち込んでしまう。


「あぁ、でも、空ぐらいまでなら跳ぶことはできますよぉ。思いっきり足に力を込めれば、空ぐらいまでなら割と余裕で届くと思いますぅ。」

「…訳分からないぐらい凄いことだけど、それって喜んでいいのかな…」


できると言われても、あまりやりたいと思えないのは何故だろう。

でも、全てが叶うとは思っていなかったし、空を飛べないのは残念だけど、私は嬉しかった。だって一番望んでいたのは魔法を扱えるようになることだったわけで、だから私は魔法を扱えるようになっただけで


「…あれ?でも待って。身体的、精神的被害とは無縁になって、頑丈で身体能力が強化されて…あれ?モカちゃん、私って魔法を扱えるようになったんだよね?」

「…レンカちゃん、細かいことは気にしたら駄目ですぅ。」

「ちょっ、嘘でしょ?!また騙したのね?!」

「捉え方ですよぉ。魔法よりも凄いことができる身体になったと思えばいいじゃないですかぁ。あっ、モカは用事を思い出したので、これにて一回消えますね。それではまた!外で誰か待ってるみたいですから、レンカちゃんも、はやくもどったほうがいいですよぉ!」


そう言って逃げるように、モカちゃんは、目の前から泡のように消えていった。


「あ、あ、あの悪魔めー!」


結局、得をしたのは契約ができたあの悪魔だけではないかと思う。魔法を扱えるようになりたい私と、契約したい悪魔、あの悪魔、自分だけやりたい事を全てやっていきやがった。


「く、悔しい!もっと…交渉上手くなれるように頑張ろ…」


今更何を言っても無駄だと分かっているため、私は諦めるように、現実世界へと意識を戻したのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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