31 レンカとモカ⑴
悪魔と契約した私が、一番初めにしたのは親睦会だった。
「まずまずぅ、説明や知ってる事の多さで言えばぁ、モカから話した方がいいですよねぇ。レンカちゃんは無知で頭空っぽだしぃ。」
「モカちゃんは余計な一言を最後に言わないと死んじゃう病気か何かなのかな?」
「えぇ?そんな事ないですよぉ?親睦会、ですからぁ。沢山レンカちゃんの事知りたいんですぅ。人は勢いで怒ってる時が一番醜いですからぁ。レンカちゃんのそこを知れたらモカは嬉しいなぁって。ただそれだけですよぉ。」
「…親睦会で人を怒らせるような真似をわざとするとか、どういう感情でやってんのよそれ。普通しないんだけど…」
まあこのように先程から親睦会とは到底思えないやり取りが続いていてとても困っている。
まともに相手をしたら馬鹿にされ、話ができるよう誘導してもこんな感じで話にならない。
「ねえ、さっきやる気だったじゃん。ちゃんと話してよモカちゃん。モカちゃん呼びもちゃんとしてるんだからさあ。何か不満でもあるの?一応そっちのだした条件は全部受け入れたつもりだったけど。」
魔法の為と仕方なくモカちゃんの要望には素直に従ったのだが、この有様である。
「そうですねぇ、モカはとても感謝してますぅ。とても良い契約者さんと出会えてぇ、住み心地の良い精神空間までいただいてぇ、モカは大満足ですぅ!」
「だったら早くしようよ。私、結構楽しみにしてたんだよ?魔法を扱えるの。何か教えてよ。」
「そこで教えないという選択をして、性格の悪い意地悪をするのが悪魔なんですよぉ。レンカちゃんはとても自分に正直で、それでいて良い子なので最高ですぅ。悪魔から人気のでるタイプですねぇ。才能ありですぅ。」
「全く嬉しくない言葉ありがとね。」
こっちが良い反応をすると分かれば平気で嘘をつく。本当に悪趣味な悪魔と契約してしまったと思うも、後悔はしていない。
モカちゃんの言葉から推測するに、全てが嘘というわけじゃないのは分かる。私が嫌がる言動をするだけであって、言ってることの中には本当も混じっているのだろう。
魔法使いになるには、相手に興味を持ってもらえるかどうかの勝負。自分が力を貸してまで知りたくなるような情報がまだ必要なんだ。
(私がさっき話した内容に興味を持ち、知りたいと思ってくれていたのは、契約をするまでの話だったわけだ。今こうして私の言うことを聞いてくれないのは、契約してからの興味がないから。だとすると…)
一気に話したのは失敗だった。真の意味で魔法使いになるにはまだ話が必要らしい。
話す内容が無いわけではないが、毎回、力を求めるたびに話を要求されては流石に私の話だけでは限界がきてしまう。
だから、私だけが教えるのは駄目だ。彼女のことも同時に知っていかなくては、一生扱いやすい奴と思われたままの関係で終わってしまう可能性がある。
「ねえ、一つ気になったんだけど、モカちゃんは私の声にどうして反応してくれたの?私の話のどこに興味をもってくれたの?」
探らなければいけない、知らなければいけない。
契約したとはいえ、今の関係が対等な関係とは思えない。己を知ってもらい、私も彼女のことを理解して、ちゃんと合意の上での、力の貸し借り関係を作りたい。
その為にも、私は、もっと沢山モカちゃんと話さないといけない。
「どこにぃ?何度も言わせないでくださいよぉ。自分の求める幸せを第一に考えててぇ、その為なら悪魔とだって契約する。そんなレンカちゃんに興味がでるのは、当然でしょぅ?一体どんな生活をすれば、そんな孤独で醜い答えに辿り着くのか。知りたかっただけですぅ。」
「…私の中に入った時、私の情報を知ったんでしょ?どうだった?知りたかったことは知れた?」
「そうですねぇ。ここに来る前のレンカちゃんの人生はとても面白かったですぅ。ただぁ、ここに来てからのレンカちゃんには何も魅力を感じませんでしたねぇ。なんでも手に入る状態でぇ、幸せに一直線。悪魔であるモカにはぁ辛すぎる日常です。」
「…力を貸すどころか話さえ聞いてくれないのは、今の私が幸せそうだからってこと?」
悪魔は頷く。私はなるほどと、すぐに納得ができた。
「悪魔は人間の弱みや欲望に反応してやってくる。そしてそれは、それを利用して楽しいことができると分かっているからやってくるんだ。悪魔の囁きに負けた者は間違った行動をする。そしてそれを見て悪魔は笑う。」
メヴィアの説明を思い出す。今の私は悪魔が興味を持つような人間ではないということだろう。
過去をみれば、私は不幸だ。だが今は、幸せに向かってる人間、そう視えているらしい。だったら、とっておきの話ができる。
(よかった、そこまでは視えていなかったみたいで…本当は死ぬまで誰にも話すつもりはなかったんだけどな…)
助けてもらった私が隠している一つの真実。
どうやら#上手く隠せているらしい__・__#。ユウシンやメヴィアにも話したことのない、私だけが知っている秘密。
同化した悪魔でさえ気づかなかったのであれば、完璧だったと言えるだろう。
「でも…それもここまでかな。」
「なんですぅ?」
悪魔は首を傾げる。
「モカちゃん、一つ、私の話を聞いてくれませんか?」
「それは、モカの好きそうな話ですかぁ?」
「大好物だと思う。それで、もし気に入ったら、ちゃんとした力の貸し借りをずっとできる契約を、私としてほしいんだけど。」
「それは話次第ですねぇ。ですが、レンカちゃんの過去はもう知ってますよ?モカに興味を持たせるのは難しいと思うけどぉ。」
実際そうだろう。だが、この話だけは別だ。
私が小さい頃に、偉い大人達が話してる内容をたまたま耳にした話。その時は、なんとも思っていなかった。
でも、自分が捧げ者として選ばれた時、私に恐怖と絶望を与えたのは、その小さい頃にたまたま耳にした話だった。
それを知るのは、捧げ者と極小数の偉い人達だけだった。
その内容を、誰かに話すことは禁止されていた。いや、話したくても話せなかった。誰かに話そうとすると
「■■■■■■■■!■■■!」
私は言葉にしてちゃんと話しているのに、相手は何を言ってるのか分からないと私に言ってくる。言葉として伝わらないのだ。
一体どうなっているのかと思っていたが、魔法の存在を知った今では、そういうことなのだろうと理解している。
「モカちゃん、私ね。」
だったら、魔法を扱えて、更には私と同化までしてる悪魔になら話せるかもしれない。とっておきの、私の#秘密__ばくだん__#。
「■■■■■、■■■■■■■■■■。」
やはり今でも言葉にはならなかった。だが、驚いているモカちゃんの顔をみるに、ちゃんと伝わってくれたのだろう。
「…どういうことですかぁ?ありえませんよそんなことぉ…もしそうならモカは気づくはずですぅ。」
「私と同化しているなら、ちゃんと詳しく調べてみてください。」
「そんな分かりやすい嘘はぁ、意味ない…で…本気じゃないですかぁ。」
「…私は幸せになりたい。その為に生きています。どうですか?今のを聞いても、私はつまらない女ですか?」
悪魔は微笑む。嬉しそうに、とても楽しそうに。
「ふっ、うふふふ。ふふふ。最高じゃあないですかレンカちゃぁん。まだ、こんな話を持っていたなんて。幸せになりたい?うふふふ。レンカちゃん、結果は分かってますよねぇ?それでも、そう思うのですかぁ?」
「うん。私の幸せになりたいという願いは、過程の話。結果は私も分かってる。だから、それまでを楽しみたい。どう?一生懸命足掻く私を視るのは、楽しいと思うけど?」
「それを自分で言っちゃいますかぁ…でも、とても魅力的なお話ですぅ。…いいでしょう。正式に、対等な契約者としてモカは、レンカを認めます。モカがレンカに与えるのは魔法の力。そしてレンカがモカに与えるのは、己の結末。これはどちらかが死ぬまでの契約である。異論はないか?」
急に真面目な口調になる悪魔に戸惑ってしまうが、上手くいったようだった。
「はい。私はその契約に同意します。」
「…よし、これにより悪魔契約は完了した。今からモカとレンカは一心同体の存在となった。」
「…よろしくお願いします。」
「ふふ、良い付き合いになりそうですぅ。よろしくねぇ?」
私は頷いた。悪魔の方は変わらず、楽しそうに嬉しそうに笑っていた。
こうして、一時はどうなるかと思った私の魔法取得訓練は終わりを迎えた。
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