28 魔法の選択
魔法。奇跡だと思っていたその力の正体は、同じこの惑星に住む住人達から力を借りたものだった。
ただ、普通の住人達ではなく、別空間に住んでいるため、普段は視えるどころか存在を感じることすらできないという不思議な住人達なのだが。
「光よー、天使様よー、私の声届いてますかー?」
魔法を扱うにはまず別空間からこちらへ来てもらわなければ話にならないため、こうやって呼びかけることが重要らしいのだが
「ねえメヴィア…この声本当に誰かに届くの?」
もう一時間はこうやって呼びかけている。私は今、光魔法を取得しようとしてるため、その力を持っている天界にいる天使に来てもらわなければいけない。だからこうして何回も叫んでいるのだが、何も反応がないと流石に不安になってくる。
「まだ始めたばっかだろー。一ヶ月、いや二ヶ月ぐらいかかるやつだっているんだ。辛抱強くやるんだなー。」
「二ヶ月?!そんなに誰もいない空間に呼びかけ続けないと駄目なんですか!?」
「そりゃあそうだろう。そもそも、レンカはまだ始まってすらないよ。声が届いてようやく話やら契約やらの話ができるわけで。今はまだ何も始まっていない。」
「…うぅ、これは確かに過酷ですね。…うーーん、どうしたものか。」
大変だとは聞いていたが、今まで経験したことのない大変さなので正直困ってしまう。そしてなにより困るのは、それが意味のあることなのか分からないことだった。
相性が悪かったり、興味をもたれなかったら向こうからの返事はない。そもそも聞こえていない可能性だってある。
(それを確かめる方法がないんだよね…聞こていて無視されているのか、そもそも誰にも声は届いていないのか。聞こえている場合は、言うことを変えるだけで興味を持ってもらえるかもしれないけど…声が届いてない場合は完全に時間の無駄。光以外の魔法の取得に変えたほうがいいんだろうけど…うーーん、困った。どうしよう。)
魔法を扱う。それがどういうことなのか、その難しさを改めて感じる。
「ねえメヴィア、皆は一度取得するって決めた属性があったら、そこから変えたりしないものなの?扱えるようになるまで呼びかける?」
「いいや?中には早々に諦める者もいれば、全属性に呼びかけてるやつだっている。やり方は皆それぞれだな。」
「そうなんだ…ねえ何か秘密のやり方とかってないの?これをすれば興味を持たれやすいみたいな…」
「属性によってはあるぞ。」
メヴィアのその言葉を聞いて少し元気がでた。
「ほんと?!なになに!それってどの属性?」
「闇だな。あれは興味のでるものが分かりやすい。」
「あぁ…」
「ふっ、あはは。そんなに闇が嫌か?態度が変わりすぎだぞ?」
メヴィアはそう言って笑うが、闇の魔法と聞いてそれを取得したいと思うものは普通はいないだろう。とはいえ、この際、扱えるならなんだっていいという気持ちが芽生えはじめているのもあって。
「…一応、念の為に、万が一があるかもしれないので、一応!!聞いておきますが、闇の魔法を取得した場合、何ができるようになるんですか?」
決して、闇の魔法に興味があるわけではない。だが、無知のまま嫌うのは愚者がやることだ。
だから、念の為である。もしかしたら思っているのと違うかもしれないと、そんなことを思っていたのだが
「闇の魔法は取得しやすく、初心者にはかなり魅力的に視える属性ではあるが、普段使いはかなり悪い魔法だ。その理由は闇魔法の主な能力にある。闇魔法の基本的な能力は、死、低下、支配といった生命体に対して脅威となるものが多い。魔法を取得する理由として、生命体と戦うことが目的なら、闇魔法は全ての属性の中で一番の効果を発揮するだろう。だが、それ以外となると、使う場面はほぼ無いと言っていい。」
前言撤回、想像通りの酷い魔法だった。
「まあでも、今はかなり印象が悪くなるように話したが、闇魔法にも魅力的な部分はある。」
「いや…悪い部分が悪すぎて、他に何があっても魅力的に感じることはないと思うのですが…」
今のところ死、低下、支配なんて恐ろしいものを扱えるようになる闇魔法を取得しても、いいことは何一つないように思える。
誰かに使うなんて考えられないし、周りから警戒され、怖がられ、避けられるようになるだけだろう。
もし、身近な誰かが闇魔法を扱えると分かったら、私はきっと、その人と今まで通りの関係でいられる自信はない。信頼とか、仲がいいとか、そんな話ではない。どうしてそれを取得したいと願ったのか、それを考えたら恐ろしいからだ。
「レンカの今の気持ちは間違いなく正しい。闇魔法を扱ってるやつは信用できない、その気持ちを忘れてはいけないよ。ただまあ、それはそれとして。闇魔法の魅力についても話しておこう。光と闇の魔法は契約魔法と言ったのは覚えてる?」
「…はい、他とは違って契約が必要だと…」
「そう。自然属性と呼ばれる五属性は、精霊や妖精の力を借りて扱えるようになる力だけど、光と闇は天使と悪魔と契約をして初めて借りることができる力なんだ。」
「…何が違うのですか?どちらも同じお願いのように思えますが…」
お願いをして力を借りる、同じように聞こえたが。
「少し違う。精霊や妖精は、気に入った相手のそばにずっといて、自分の属性にあった自然の力を魔力に変換し魔法にする。自分達は楽しめて、力を貸した相手も満足する。ただそれだけの関係だ。だが、天使と悪魔は違う。力を貸してもらう前に契約をしなければいけない。その契約内容は天使と悪魔も同じで、一つだけ。それは、自身の魂との同化。つまりは、器として身体を捧げることが必要になる。」
「…は?!天使はともかく、悪魔に身を捧げるなんて本気ですか?!っていうかそれって大丈夫なの?!」
「ああ、大丈夫だよ。レンカが思ってるような恐ろしいものじゃない。天使と悪魔は、こちらの空間ではすぐに消滅してしまう存在なんだ。だから、そうならないように住処として身体を捧げるだけだ。一心同体になり、そこからの契約内容は自分達次第というわけだ。」
「…私、さっきまで天使を呼んでたけど、来てたらそんなことになってたかもしれないなんて…もう少し早く聞きたかったです!」
危うくそんな恐ろしいことになっていたなんて。反応されていなかったから助かったけれど、いや悲しいことを考えるのはやめよう。
「あの…光と闇の魔法の使用者が少ないのってそれがあるからでは?普通は拒絶すると思うのですが…」
「いや、そうじゃない。むしろどちらも人気だよ。ただ、天使と悪魔に好かれるやつが少ないだけさ。それに、今のは必要な説明だっただけで。言ったろ?魅力的な部分も話すって。」
これだけ悪い印象があって、皆が望むということはそれなりの話なのだろうが、私はこの印象がいい方向に回復するとは思えなかった。
「じゃあ、まずは天使のほうから話そうか。もし天使と契約が成功し同化した場合、天使と同化したその身体は、魔力や魔法に関係なく浮遊することが可能になり、肉体には、自己再生機能が身につく。まあ分かりやすく言うと、空を飛べるようになって、どんな傷も瞬時に治せる身体になるって話だな。これは有名な話だが、天使と契約した者が、頭を吹き飛ばされた直後に、まるで時間が戻ったかのように頭が再生したなんて話もあるぐらいの凄い再生機能らしいぞ。」
「は?え??」
「そして次は悪魔だが、悪魔と契約し、悪魔と身体を同化した場合、その身体は、呪い、毒、病気、傷、痛みといった自身に害のあるものから無縁の身体になる。それは悪魔の独占欲からくるもので、契約者の害となるものを喰ってしまうんだと。それをしていいのは自分だけだと、そう言いたいかのようにね。後は危機感知。自身におきる不幸な未来を、事前に夢として視ることができるらしい。天使と違って目に視える力じゃないから、どれも悪魔と契約した者の話を信じるならだけど、これが悪魔の力になるかな。以上が天使と悪魔の魅力だね。どうかな?何か心境に変化はあった?今なら取得する属性の変更もできるけど。」
「…いえ、このままでお願い…します。天使と悪魔…凄くいいじゃん…このまま光を…いや状況次第で闇も狙っていこうかなって思ってる…です。」
なんだその夢のような力は。天使のできることは想像以上に凄かったし、悪魔も印象は最悪だが、できることは最高だ。
人気だと言われた時は半信半疑だったが、今は当然だろうとさえ思える。
私の中で、取得したいと思える魔法の属性が決まった瞬間だった。
「そっか、じゃあ引き続き頑張りたまえ!」
そう言って満足そうに笑うメヴィアをみて、手のひらで踊らされてるような感覚になるが、それよりも今は
「天使さーーん!悪魔さーーん!私に興味を持ってくださーーい!」
私はしつこく、それでいて真剣に。無の場所に対しての呼びかけを再開した。
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