24 魔王城のエルフに
その反応は、異常だった。記憶を失っているとはいえ、自身がエルフであることはメヴィアは知っている。
そして今、彼女が視てきたものは一族と故郷を滅ぼした男の人生だ。
「…なるほどね。王がずっと私に隠していたことはこれか。ありがと、胸のモヤモヤが晴れたわ。これでようやく、前を向ける。」
彼女は笑ってそう言った。自身の故郷と一族が燃えた記憶を視てきた後とは思えないほど優しい顔だった。
「えっ…それだけ?」
気づいたら私はそう言っていた。憎悪や恨みは無いのか。怒るべきではないのか。
なぜ笑えるのか、私には理解できなかったからだ。
「ふっ…そんな驚くこと?言ったでしょ。覚悟はできてるって。」
メヴィアはそう言うが、それでも私には分からなかった。覚悟がどうこうとか、事前に察していたとかそういう話じゃない。
誰だって、大事にしている人や、大切な場所が失われたら悲しいはずだ。そして彼女が経験したものは、普通なら耐えきれないほどの辛い出来事だったはず。
「何故、笑えるのですか?」
彼女の心境が分からない。興味とかではなく、怖いといった不気味な感じだ。
「…黙っていてすまなかった。」
すると、そこで隣にいたユウシンが頭を下げる。
「…王もレンカも、私が怒り狂って暴れるとでも思ってたの?」
メヴィアは笑ってそう答えると続けて
「全て私を心配してくれていた結果なんだから、二人に怒ることはない。そして、それはこのマードラスとかいう人間達に対してもそう。」
「…怒らない?それはどうしてですか?分かりません。我慢しているとかではなく…本気でそう言ってるなら、私はどうしてそう思えるのかが分かりません。」
メヴィアの言葉を疑ってしまう。そこまで話すつもりはなかったのに、どうしても納得できなかった。同じものを視て、私は許せなかった。全くの無関係だけれど、それでも許せるものではなかった。
なのに、どうして一番の被害者である彼女が彼らを許せるのかが、私には納得できなかった。私は、怒ってほしかったのだ。
「私の代わりに怒ってくれてありがとうレンカ。そして、私を心配して優しくしてくれてありがとう王。でも、大丈夫。今の私は、それだけで充分だから。」
まただ。また彼女は笑って話す。
「…本当に、大丈夫かい?」
ユウシンも、本当に大丈夫なのかと彼女の様子を伺っている様だった。
「大丈夫だって!あっ…でもそうだな、勘違いしないでほしいのは、私だって何も思ってないわけじゃない。嫌な気持ちにはなってる。」
彼女は語る自分の胸の内を
「でも、はっきり言って百年も昔のことだし。それにさ、こんなことを言ったら酷いやつだと思われるかもしれないけど、加害者も被害者も今は誰も生きてないわけなんだし…だから正直怒りがないんじゃなくて、誰に対して何を怒ればいいのかが分からないんだよね。私自身も記憶を失って、仲間のことを覚えてないわけなんだし。」
それは酷い話だった。怒るべき相手は居なくて、怒るべき理由もはっきりとしない。その怒りを共有できる人もいなくて、それを覚えている人もいない。それが今の彼女だった。
「では、どうして過去を?」
そうなると、一つ分からないことができた。そこまで分かっていてどうして過去を探っていたのかということだ。
ある程度の察しがついており、自分がどう思うかまで分かっていて、どうして聞くことにこだわっていたのか、その理由が分からなかった。
「過去を知ろうとしたのは、過去を完全に忘れるためだよ。」
「過去を…忘れるため?知りたかったのに、忘れるためとはどういうことです?」
「この百年。私は思い出すことはできなかった。結果、私は思い出せない過去よりも今が大切になっていった。でも、真実を知らずに今を楽しむことができなかった。だから、今が大切になった私は、今を楽しむために過去を忘れたかった。だから知りたかったんだちゃんとした過去を。」
「…それがどのような過去であってもですか?」
良いと思う。過去にとらわれず、今を楽しく生きようというのは私も同じだから。
でも、彼女の過去は私とは違う。忘れていいものなのだろうかとつい思ってしまう。
「それがどのような過去であってもだよ。そしてそれが覚悟だ。知らない過去よりも、私は今を楽しく生きる。他のエルフの人達には申し訳ないけど、私は生き残りのエルフとしてではなく、魔王城に住む…楽しく愉快な、普通のエルフとして生きる。」
それが彼女の決意であり、意思だった。
「君がそう生きたいと言うのなら、僕はそれを叶えよう。魔王城の住民として、良き暮らしをこれからもしてくれ。」
「でたな、生物たらし名言。また都合の良いことを言いやがって。言っておくけどな、私の記憶が戻ってたら百発は殴られてるぞ。」
ユウシンの言葉に軽く言い返すと、メヴィアはこっちを向いて
「ってなわけで、作戦はこれにて終了だレンカ。悪いな、私の個人的な事情に利用するような形で巻き込んじまって。」
「い、いえ。やると言ったのは私ですし、それに…解決したのなら私からは言うことはありません。」
「…そうか、でも助かったよ。本当にありがとな。もしあれだったら、これからも仲良くしてくれ。」
「当然です。むしろ、私はメヴィアを放っておけなくなりましたので、嫌だと言われても付きまといます。」
そう言うと、メヴィアに軽く笑われる。何故毎回面白いことを言ったつもりはないのに、笑われるのか分からない。
「ま、とりあえずこれからも世話になるよ。だから、改めてよろしくって言っておく、王とレンカに。」
「ああ、よろしくメヴィア。何かあったら言ってくれ。今度こそ僕は力になるよ。」
「はい、ユウシンのように何かできるわけではありませんが、これからもよろしくお願いしますメヴィア。」
こうして、私とエルフと魔王の新たな関係が始まった。
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