23 過去と現在
部屋に転移すると、彼女はとても嫌そうな顔をして出迎えてくれた。
「マジか。二人ともさ、あの状況的に一人になりたかったんだろうなって察せなかった?」
「当然、察しました。でも、どうしてもユウシンがあなたに話があるというので、ここにやってきました。ね?ユウシン。」
明らかに不機嫌な彼女の態度に臆することなく、私は事実を伝えた。
ユウシンはまだ心の準備ができてなかったようで、突然私がそう言い出したことに戸惑っている様子だが、関係ない。
「話?わざわざ私の部屋で話さないといけないことなの?レンカに話せばいいじゃない。」
「いやぁ、それが私ではなく、メヴィアにだけ話したいことらしくて。」
「私にだけ?」
「はい、メヴィアにだけ話したい内容らしいんです。」
嘘は言っていない。私はユウシンから視せてもらっただけで、彼の口から直接聞いたわけではない。そして、メヴィアに話した方がいいと言っただけで、話すと決めたのはユウシンだ。
「なに?私にだけ話したい内容って。ここでいいから、話すなら早く話して。」
その言葉を聞いて、メヴィアがユウシンに問う。
そしていつもは形だけでも、王と呼び丁寧に接していた彼女の態度は明らかに変わっていた。
そしてその態度が、ユウシンに最後の覚悟を決めさせた。
「僕は…君の過去を偽った。全てを知っているわけではないが、君に話せる内容はまだ少し…いや結構ある。」
もう少しはっきりと言えと言ってやりたいが、自分からメヴィアの方へ一方前進し言ったのでそれで見逃すとする。
それに、この問題は二人の問題で、私は初めから部外者だ。心配だからなんていう理由で勝手に居るが、ただのお節介者。
(本来はいるべきじゃないんだろうけど、ごめんメヴィア。本当に二人きりは不安だから居させてね。心配といっても主にユウシンがだけど。)
さて、ユウシンの言葉にメヴィアはどう反応するか。殴るか、怒るか、呆れるか。
なんせ百年なんていう途方もない年月の間、嘘というのは厳しい言い方かもしれないが隠し事をされていたわけだ。そして、ユウシン自身が、ついさっきまでそれでいいと思っていた事実を知っている身からすると、余りにこの先の二人の会話が不安だった。
「だから?そんなこと知ってる。まさかとは思うけど、話したい内容ってそれだけ?」
だから、表情一つ変えずにそう返答したメヴィアに驚かされた。
「い、いや!まだある。…君に視せたいものが一つ。これだ。」
普段を知っているというには、私がこの魔王城にいる時間はあまりに短いと思うが、恐らく、魔王ユウシンはこの城に住む者に、こういう風に怒りを向けられたことがないのだろう。
ユウシンはかなり慌てている様子で、なんの前置きもなく、日記をとりだし
「これはマードラスという一人の人間の日記だ。これを、君に視てほしい。」
「人間の日記?嫌よ。興味ないもの。ふざけてるの?」
当然そう返される。
(いきなり何も言わずそんな日記を渡されて、ありがとうってなる人居ないでしょ…)
まだ話すことを恐れているのか、大事なところを言葉にせず、伝えようとしている。
ここまできて相手に察して欲しいと思っているなら本当に酷い有様だ。
「うっ…いや、そうだな。これは…この日記の持ち主は…マードラスは…」
伝えにくい内容だ。エルフを破滅に追い込んだ男の日記。そのまま伝えるのか、視せるのか。どちらにしても地獄だ。だが、今苦しむべきはユウシンじゃない。
そして言葉につまるユウシンをみて、段々と黙っているのがきつくなってきた私は
(早く言いなさいよ…もう!)
我慢できず、いつまでそうしているつもりだと、一言言ってやろうと、ユウシンに詰め寄ろうと私が一歩を踏み出した時だった。
「…はぁ。冗談です。ここまで来てくれた意味は理解してる。それを、視たらいいんですね。」
そう言ったメヴィアは、ユウシンの方へ距離を詰めていき、日記をユウシンの手からとり、そのまま黒の魔法陣を出現させる。
「待て、それは、その中身は…」
いきなり日記の中身を視ようとしたメヴィアに、ユウシンが慌てて止めにはいるが
「大丈夫。覚悟なら何十年も前からできてる。私なら大丈夫だから。」
そう言うと、メヴィアは瞼を閉じ動かなくなってしまう。
「…ユウシン。これ、もしかして行っちゃった?」
「ああ、たった今、日記の記憶の中へメヴィアの意識がとんだ。」
これは想定外の事態だった。私は、事前にある程度を話しておき、それでも彼女が日記を視るというのであれば視せればいいと思っていた。
日記の内容的にも、私みたいに視せるのは危険だろうと思っていたのだが
「どうにか、できないの?この日記の内容をいきなり視せちゃったら…」
「無理だ。レンカの時もそうだが、この中での時間は体験している者は長く感じるだろうが、現実の時間では一瞬だ。あと数十秒もすれば意識は再びもどる。」
駄目だ。この伝え方だけは避けなければいけなかった。意識がもどったとき彼女がどうなってしまうか、ユウシンも私も待った。
彼女がどんな行動にでても、止められるよう準備をして。そして、二十秒と少しが経った時、その時は訪れた。彼女の瞼が開かれたその瞬間。
「メヴィア、早まるな!この記憶には説明がある!」
「メヴィア!ちょっと、ちょっとだけ話し合お!」
私とユウシンは、とりあえず言葉をかけた。それ以外の方法が思いつかなかったのもあるが、とりあえず視たものを考えさせてはいけないと、そう思ってしたのだが
「…なるほどね。王がずっと私に隠していたことはこれか。ありがと、胸のモヤモヤが晴れたわ。これでようやく、前を向ける。」
直後、笑顔でそう話すメヴィアに、私もユウシンも何がおきているのか理解できなかった。
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