22 偽りの私
何も疑問に感じなかったわけではない。初めの異変はここに来てすぐのことだ。
「ここが君の部屋だった場所だ。好きに使ってくれて構わない。」
隣にいる、紫色の短髪に黄色い眼が目立つ、私を拾ってくれた人が私にそう言った。帰ろうと言われ、魔王城と呼ばれる場所にやってきた私は、まずこの男に、傷の治療をされ、そしてその後この部屋に案内された。
「…ここが私の部屋?うーーん…何か違う気がする。私が住んでたのはもっと…上手く言えないけど、こうじゃないんだ。」
記憶を失っていることは理解しているが、何故かその部屋をみた時、何もかもが違うという確かな答えがあった。根拠はない、けれどこれではないのだ。
「王、本当に…ここが私の部屋なのか?」
王とはこの隣にいる男の呼び名だ。魔王ユウシンと自己紹介されたが、長く呼びにくいと感じたので、王と呼ぶことにした。
「…ああ、ここが君の部屋なのは間違いないよ。」
「そうか…駄目だな。何一つ思い出せない。全てに違和感を持つ。嫌な感じだ。」
「それは仕方のない事だ。だが、じきに慣れるよ。」
「そういうもんかね。でも、何か落ち着かないんだよなぁ。」
分からない。何も思い出すことはできないのに、これは違う、それも違うと感じてしまうこの気持ちは一体なんなのだろうか。
「ふむ、じゃあそうだな。こんな風にしてみるのはどうかな。」
私が落ち着かないと言うと、王は部屋の床に緑色の綺麗な魔法陣を形成し
「おい、何する気なんだ?」
「…メヴィアが落ち着けるような部屋にしてみようかなって思ってね。」
「はぁ?それってどういう意味…」
「まあ視てて。」
言葉を途中で遮られるが、それよりも部屋に起こった変化に私は驚いた。
「おいおい、これは凄いな。」
部屋の床からは草が生え、壁や天井からは花が咲き、木も元気に伸び始める。
何も無い寂しい部屋だったのが一瞬で、自然豊かな部屋へと変貌を遂げた。
「こんな感じかな。どうだろう?メヴィアはこれだと落ち着くんじゃないかな。」
自分の胸の内にあった、何かが足りないという気持ちが晴れていくのが分かる。
「そうだ…これだ。ありがとう、この部屋でいい。なんだか…落ち着いてきた。」
「うん、それは良かった。じゃあ僕はこれで。何かあったらまた聞いてくれ。」
そう言って王は、どこかへ転移とやらを使って消えてしまう。
「…私のことを知っているはずなのに、なぜ王は、初め普通の部屋を私に紹介したんだ?」
これが私の、初めの疑問だった。そして次に私がおかしいと思ったのは
「エルフ?知らねえなあ。おい、お前ら何か知ってるか?」
「いいや?エルフはここにはいないと思うぜ。」
「おれもみたことねえなぁ。」
魔王城へやってきて数日、多くの者が好んで使う酒場という部屋で、私は自身の種族について皆に聞いてみた。この魔王城は数多くの種族が生活しているという情報を聞き、もしかしたらと思い聞いてみたのだが
「本当に、私みたいなやつをみたことないのか?」
「知らねえなぁ。魔王城だけじゃなく、色んな国や街もみてきたが、エルフなんてあんたが初めてだよ。」
誰に聞いても、エルフなんて知らないと言われた。他の者達は、一人では無い。少なくとも数人、必ず同種族のものがいる。なのに、エルフは居ないし見たこともないと皆は言う。
(これだけ居て…エルフは私だけ?それに、私はここに住んでいたはずじゃ…なぜ皆、初めてのような反応をするんだ…)
これが私の第二の疑問だった。王はここが私の家で、よく抜け出すと言っていた。ならここにいる者の何人かは私を知っていてもおかしくないはず。
なのに、誰も私のことを知らない。
「王、あなたは私に…いや、駄目だ。私は記憶を失っている。今の私は誰かを疑いやすいだけかもしれない。憶測で人を…ましてや恩人を疑うなど…」
考えれば考えるほど、探れば探るほど、エルフという私が、メヴィアという私の存在が、どんどん揺らいでいく。そして、王の矛盾にも気づいていく。
「嫌だ…」
私は、それ以上探るのも、考えるのもやめた。それ以上知ってしまったら、私はきっと後悔すると分かってしまったからだ。
一瞬だけ考えてしまった。もし、王の言ってるいること全てが嘘だった場合、私は私という存在を失うことになり、きっと私は、それが真実だった場合耐えられない。
「今は…今はいい。無理に探らなくても、記憶が戻れば全て解決する。それを待てばいい…」
私は考えることから逃げた。本当は、薄々気づいていたのかもしれない。
だが、答えを出すことを私自身が拒んだ。考えないように、その苦しい真実から心を守るように、私は毎日を楽しく過ごそうとし、別のことに集中できるように、頑張った。
でも、どれだけ酒場で大騒ぎをしても、部屋に戻るとまた考えてしまう。一度気づいて気になったことは、中々頭から離れてはくれなかった。
「王…なぜ嘘をつく。なぜ、私に何も言わない。真実を知っているなら、話してくれよ…」
記憶を失っている私では、疑いやすくなっているだけなのか、正しい考えなのか、その区別がつかない。だったら、それだけ気になるのなら、本人に聞けばいいだけなのも分かってる。
「でも…私にはその勇気がない…」
今の自分が嘘だと言われたら、私はどうしたらいい?これからどう生きていけばいい?自分で自分を否定することはできなかった。
私を否定することができるのは、真実を知っている王。私を救ってくれた王、あなただけだ。あなたからの言葉だけが信じられる。
「否定して…また私を救ってよ…」
臆病者は願った。気づいてくれ、話してくれと。傷つくだろうけど、知らない方がよかったと思うような、辛い真実が待っているかもしれないけど、私は嘘よりも真実がほしいと。
でも、王からの答えはなかった。
だから私は、今の自分を好きになれるように頑張った。そして自分で聞くと決めた。
聞いて、傷ついて、後悔して、それでもここで頑張って生きていこうと思えるぐらいにここの事を好きになろうと。自分と皆と、居場所を強く繋げようと。そして私は、王の隠し事を暴く機会を伺って
「初めまして!私はレンカと申します!昨日から、ここで生活をすることになりました!よろしくお願いします!」
私は、彼女と出会った。
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