21 君はどう思う?
記憶が終了し、意識が現実へ戻った私に、ユウシンは聞いてきた。
「君はどう思う?」
「それは、マードラスについてか、ユウシンについてか。どちらに対しての思いを聞いているのですか?」
「両方を視て、かな。両方を視てレンカが思ってくれたことを言ってほしい。」
「だとしたら、私は全てに怒りを感じています。だってこの話には、誰も幸せな人がいない。失った者はそれに気づけず、何かを手に入れたであろう者も、それが成果ではなく愚か者の証明書だと気づけていない。理不尽に暴力で奪われ、奪った側は手に入れたものより、失ったものの方が大きいと分かっていない。私は誰にも共感はできなかったし、理解もできませんでした。」
善人がいない。私が、二つの記憶を視て思ったことだ。冒険家マードラスは最後だけをみれば可哀想な人かもしれないが、元々は悪人だ。悪人だった者達が、自分達の家族と大森林を天秤にかけ、その結果があの悲劇だ。屑で同情する価値もない救いようのない馬鹿達だと私は思う。
そしてもう一方の、ユウシンがメヴィアに対してしたことだが、嘘をついたこと自体は間違ってるとは思わない。優しさからくるものだろうから。
でも、彼女が楽しく暮らしているというのは間違いだと思う。目の前にある崖から落ちないよう、彼女が歩いた瞬間にすぐに潰れてしまう地面を置いて、無理矢理歩かせているだけで、メヴィアの人生は、あの日から何一つ変わっていない。道を作ってしまったことで、メヴィアから自分で新しい道を作るという機会が失われてしまった。
「メヴィアと同じく、ユウシンに助けてもらった私が偉そうに言うのもおかしな話かもしれませんが、私は、真実を言うべきだったと思います。」
「…彼女の心が、壊れるかもしれないのに?」
「だとしてもです。救いの手を差し伸べるなら、中途半端に優しくするだけではなく、そこもちゃんと助けて…いや支えてあげるべきです。」
「…支える。中途半端…か。」
偉そうに言いすぎただろうか。でも、これでも言いたりないぐらいだ。新たな生活場所で何も知らずに暮らしたことは、メヴィアにとって第二の悲劇だと私は思っている。失った記憶の中には、友人や家族、大切な思い出が沢山あったはずだ。
それなのに、それを知らずメヴィアの記憶が回復したとしたら、それは自分が大切にしていたものを全て、もう一度失うに等しいことのはずだ。そしてそれを忘れて、ここでずっと自分だけ笑って暮らしていたなんて、それこそ耐えられないだろう。
「今、メヴィアは救ってくれたはずのあなたを疑っています。自分が知ったらまずい情報を隠していると。」
「あれから百年だからね。流石に…疑い始めるか。」
「当然ですよ。むしろ、よくそこまで何も聞かずに我慢していたなと私は思うぐらいです。」
「どうしたものかな…このままにしておくと、関係が悪くなりそうだ。とはいえ、いきなり全部嘘でしたと伝えるのも…」
何をそんなに考える必要があるのか。私にしたように全てを視せたらいいだけなのに。
「この期に及んでまだ何か思うところがあるんですか?はっきりと言うだけでいいじゃないですか。そもそも百年も我慢してたのは、ユウシンから伝えてくれるのを待ってたからでは?助けてもらった恩があるから聞けなかったとか。」
「いや、流石にそれだけの理由で百年も待たないと思うんだけど…」
「そ、それだけって。ユウシンはその時の気持ちで助けただけかもしれませんが、向こうからしたら命の恩人で、居場所も提供してくれた人ですよ?隠し事してるなら話せとか言えませんって。」
「あー、もしそうだったら悪い事をしたな。ここにいるみんなと仲良くしていたから、もう大丈夫かと。」
優しい心を持っているのに、何故そこに気づかないのか。助けたのはいいが、扱いに困ったため、後は周りに任せて放置だなんて、無責任にも程がある。救うと決めたなら、何があっても救ってあげる。助けると決めたなら、何がなんでも助ける。どちらも飾りにしていい行動じゃない。
(それに今思えば、私も図書室では放置されてた気が…しかも、ここに来てから私は、ユウシンからなにか教わっただろうか?転移の部屋の色が書いた紙と、魔石を貰った以外に…)
もしかすると、メヴィアと協力してこの作戦を実行していなかったら、私も放置されていた可能性があったのではないかと思ってしまう。酒場で、メヴィアがユウシンのことを生物たらしと言っていたが、今ならその意味が分かる気がする。
「ねえユウシン、私を助けたのはなぜ?」
だから私は、確認してみることにした。
「ん?それはもちろん、レンカが可哀想だと思って、助けたかったからだよ。」
「そっか、ありがとう。じゃあさ、今はどう?私のことどう思ってる?」
「急にだね。そうだなあ…とても楽しそうに暮らしてくれているなと思ってるよ。」
「うん、とりあえず、今すぐメヴィアのところに行こうか。」
ユウシンを百年も待っていたメヴィアを褒めたい。まだ決めつけるには早いかもしれないけど、ユウシンの感情による行動は、よく考えてのことではなく、衝動的なもので完結している気がする。その瞬間、自分が何を思ったのか、そしてどうしたいと思ったのか。ユウシンの行動には、その先がないように思える。勿論、相手から言われたら、気付いてその通りにしてくれるのだろうけど。
「今からとはこれまた急だね。ただすまない。僕も行った方がいいとは思ってるんだけど、メヴィアの部屋色を…忘れたから行けないんだ。本当にすまない。」
「忘れた?!というか、さっき帰る時言ってたのに!はぁ…なるほど。そしてそれも言いづらかったから放置していたと。…メヴィアも我慢できなくなるのは当然ですよ。というか、部屋を特殊なものに変えてあげたのでは?その時に教えてもらわなかったのですか?」
「メヴィアが来て、普通の部屋では落ち着かないと言ったのはその日の内だったからね。あれから百年と少し。いや、本当にそこまで深刻だとは思わなかったんだ。反省している。」
ユウシンもメヴィアも、なんて不器用な人達なんだろう。お互い気にしていた者同士なのに、百年も変わらないなんて。
「…全く、しょうがないですね。私が部屋色を知っていますから、一緒に今すぐ行きましょう。」
「おお、それは助かる。ん、でもレンカも来るのかい?ただ話すだけだから、部屋色を教えてもらえたら僕だけでも…」
「いいえ!ユウシンとメヴィアの二人だけの会話には不安があるので、友達として、私もご一緒します。というか、話すだけで終わると思っているんですか?」
「それは、どういう意味かな?ただ話すだけだろう?」
話す内容によるだろう。私には百年も黙っていてごめんなさいで終わる内容とは思えない。黙っていた内容を考えれば、何発か殴られてもおかしくないし、文句を言えないと思うが、そこは黙っておくとしよう。
「いいえ、なんでもありません。それよりも、せっかく話すんです。もうメヴィアには、隠し事をしないで全てを話してくださいね。私がいたら話せない内容なら言ってください。退室しますので。」
「分かっている。向こうが勇気をだして動いてくれたんだ。話すこと、聞かれた事に対して嘘は言わないと誓うよ。それと、レンカは居てくれて構わない。僕が話せる内容は、今さっき話した通りのことしかないからね。」
百年前から始まったこの二人の関係がどのような結末となり、どのような今後に繋がっていくのか、私には想像もつかないが、二人とも良い人だということは知っている。
だから、話が終わった時に、二人とも笑っていますようにと私は願った。
「転移緑五番。」
そして私たち二人は、メヴィアの部屋へと向かった。
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