20 魔王ユウシンが視せるその後
酷いものをみた。同じ人とは思えないほど、その光景は狂気に満ちていた。
「…ねえユウシン。この後、どうなったの?」
本の記憶から、現実世界へと意識を戻した私は、冒険家マードラスのその後をユウシンに聞いた。マードラスがどうなったかではなく、大森林メヴィアがどうなったかだ。
「…ここからは、その件に一切関係の無い僕が、第三者としてみてきたものを視せよう。」
ユウシンはそう言うと、私の頭の上に手を置き
「今度は、ユウシンの記憶ですか?」
「語るより、視せたほうが伝わりやすいだろう?僕の過去と、そしてついでに、当時の僕の気持ちと意志も。レンカには視てもらおうかな。」
そう言った直後、私の頭の上に再び黒の魔法陣が出現する。そして先程と同じく視界は段々と暗くなっていき、身体の力は抜け、最後に、残った意識が暗い底へと落ちていった。
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その知らせを聞いたのは、黒の一番、自室にあるベットで休息をとっていたときのことだった。
「王よ!大変だ!」
声を荒らげ、そう慌ただしく部屋へ転移してきたのは、赤き竜であり、今は人の姿をしている赤髪短髪が特徴の大柄な男だ。
人の姿をしているとはいえ、その正体は赤き竜。種族として完成されており、天敵のいない彼らには常に余裕がある。だが、部屋に転移してきた彼からはいつもの余裕を感じられなかった。
だから、すぐに異常があったのだと察した。ベットから身を起こし、彼と向かい合う。
「どうした?なにがあった。」
竜がこれほど慌てることなど滅多にない。故に、決して喜べるような朗報ではないことも分かり、そしてそれは的中する。
「大森林メヴィアが!燃えている!それも凄い規模でだ!このままだと、朝には何も残らなくなるぞ!」
「なに?!なにがあった!」
「分からん!たまたまあの辺を散歩していたら、急に光と、とんでもない爆音と爆風が発生した!気づいたら火の海になっていたんだ!それで急いで戻ってきた!」
「馬鹿な…あそこにはエルフが…いや、いい。考えるのは今ではない。今すぐ向かう!」
部屋にある窓に飛び込み、そのまま外の空へと、窓の破片と共に飛びでる。
「一体なにが…」
大森林メヴィアが燃えるなど、絶対にあってはならないことだ。そしてそれは、エルフがいるかぎりありえないはずのことで。
「間に合ってくれ!」
宙に浮く自身の背後に、巨大な水色に輝く魔法陣を形成し、そこへ魔力を送り込む。直後、送り込まれた魔力が独自の特殊な風に変換され、突風となり、強力な追い風として外へ放出され、自身の身体を前へと押し出し、どんどん加速させ、前進させる。
本来なら、このやり方での移動はしない。身体に負担がかかるのと、そもそもこんな事をしなくても、竜の背中に乗れば空は飛べるからだ。だが、今回のような緊急時の場合は話は別だ。このやり方にも、いい所はある。
「ちょっ!王!一人で行ったら危険です!」
それは、送り込む魔力が多ければ多いほど速度は上がっていき、空中最速を誇る竜でさえ、置き去りにできる速度をだせることだ。
「すまない#赤__あか__#!僕は先に向かう!」
竜化し、僕の後を追う赤き竜の脳内に直接語りかける。簡単な陽魔法の一種だ。
大森林メヴィアの場所は知っていた。一度興味本位で行ったことがあるからだ。その時は、五十人程のエルフに問答無用で追い返されてしまったが。
だからこそ信じられない。個としても集団としても、あれらは完璧なあの土地の守護者だった。森が燃えるということは、守護者が守れなかったということで、それはあの魔王ですら追い返すエルフ達の敗北を意味する。
天災によるものか、それとも侵略者か。前者は考えづらい。天災に巻き込まれただけならば、エルフ達が消火活動を行うはず。だが、赤の報告によれば今、大森林メヴィアは火の海とのこと。ならば、エルフ達が消火を行えない何かしらの理由があると考えるべきだ。だが、そうなると後者の侵略者である可能性が高いわけだが
「愚かなことを…」
現状、世界であの森にいるエルフ達と戦おうとする種族はほぼいないと言っていい。
返り討ちにあう可能性が高いのもあるが、あのエルフ達が守っているあの森を傷つけてはいけないからだ。誰かがそう言って決めたわけじゃない。暗黙の了解のようなものだった。
未知の生物に、未知の技術があそこには秘められている。下手に攻めれば、それを失う危険性がある。故に、大森林メヴィアは、誰も手出しできない神の庭と呼ばれているのだ。
「……」
だから、下からの熱気、燃える大森林を見下ろした時、言葉を失った。持てる力で、全力で、全速力でやってきたつもりだった。
「ここまで…するのか…」
赤の魔法陣を、燃える大森林メヴィアの上空に形成し、炎を魔法陣へと吸い込んでいく。炎自体は、簡単に消火することができた。だが、大森林は全焼。緑の土地は、黒に染まっていた。
吸い上げた炎からは魔力を感じなかったため、恐らくこの大森林を焼いたのは、魔法ではなく、極めて強力な爆発物が使われた結果だと推測できた。
「…悪魔め。よくこんなことができるものだ。」
これをやった種族の狙いは、ここにある何かだったはずだ。焼いてから奪ったのか、奪ってから焼いたのか、痕跡も含め、全て焼けてしまっているため、今となっては分からない。
とはいえ、これだけの爆発物を作り、それを目的のためにとはいえ、ここまで非情になり、上手く扱える種族などかなり限られてくる。だが、証拠がない。
「本当に…思い切ったことをする…」
何かを手に入れるために、大森林メヴィアの全てを焼いたのだ。赤が目撃し、僕が到着するまで、その時間は十分もかかっていなかった。そして、消火も迅速に行った。
「…生存者はいないだろうな。」
森にいたエルフ達も、森を一瞬で焼き尽くすほどの攻撃は予測していなかったはずだ。それこそ、魔法を使用する時間もなかっただろう。
「…ん?」
と、そこで、焼かれた森から少し離れたところに、何かが落ちているのがみえた。
近づいて、地上に降り確認してみると、それは本のようなものだった。
「なんだこれは…」
そして、中身を確認しようとしたその瞬間
「あー、えっと、ちょっといいか?」
後ろから、声が届いた。振り向くと、そこには紫色の長髪、そして尖った耳をした少女が立っており
「君は…いたのか、生存者が。」
とはいえ、少女の身体は火傷だらけで
「おーーい、聞いてんだけど。ちょっといいか?」
「ああ、僕も君に聞きたいことがある。ここで何があった?」
「おいおい、そっちが先に話すのかよ。しかも、あんたも知らねえのか。」
「あんたも…?」
彼女の言葉はどこかおかしかった。いや、言葉だけじゃない。この状況でなぜそんなに普通に話せるのか。森が焼け、恐らく仲間も被害にあっただろうに。だが、その疑問の答えはすぐに彼女の口から伝えられる。
「なあ、一応聞いてみるんだけどさ、あんた、ここがどこで、私が誰か知ってたりするか?目が覚めたら、こんな場所で、こんな傷だらけだったんだけど。何か知ってたら教えてほしいんだわ。」
「…記憶を、失っているのか?」
「あん?なんだって?耳も痛くてよ、もう少し大きな声で頼む。」
「…いや、なんでもない。」
エルフは滅んだ。そう思っていたが、そうではなかったようだった。奇跡的に、たった一人生き残っていた。そして、彼女はこの残酷な現実を、一切覚えていないらしい。不幸中の幸いと言うべきだろう。
仮にもし、彼女が全てを覚えていたとしたら、きっと彼女の心は壊れてしまっていただろうから。
「…君のことはよく知ってるよ。」
「おっ!知ってんのかよ!なになに?教えてくれ!」
「…君の名前はメヴィア。エルフ族のメヴィアだ。そして、僕の部下だ。」
「…メヴィア。エルフ…部下…いや、駄目だ。何も思い出せねえ。あっ!悪い!あんたのこと…私忘れてるみたいで…」
そして僕は、彼女に嘘をついた。真実を教えようとは思わなかったし、思い出すことも阻止したかった。それが彼女のためになると思い、僕は続けて
「いや、いいんだ。無事でよかった。急にいなくなったから心配してたんだ。」
「急にいなくなったうえに記憶失ってるって…本当悪い!」
「いや、命あるだけ充分だよ。さて、記憶に関しては時間が経てばもどることだろう。今は傷だ。治療のためにも、#魔王城__いえ__#にもどろう。」
「命あるだけ充分って…私普段から抜け出してたのか?まっ、いっか!なんかもうしんどいし、何にも覚えてないけど、世話になるよ!」
こうして僕は、彼女に偽りの名前と真実を教え、魔王城の住民として新たな生活をあたえた。そしてメヴィアは、魔王城で自由に生きてくれた。
これが、僕の知っているメヴィアの全てであり、彼女にずっと隠していることである。
そして、ユウシンの過去の記憶はここで終了した。
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