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魔王城の人姫  作者: 川輝 和前
第一章 『混沌の魔王城』
19/35

19 大森林メヴィア

大森林メヴィア。この大森林について分かっていることは少ない。なにせもう存在しないうえに、この大森林について記した本は一冊のみだからだ。


それも、一人の男が残した日記にすぎない。

神の庭とも呼ばれていたこの大森林は、この大地に存在する自然の約三割を保有していたとされ、今では誰もが認める、世界最大の自然の宝庫だったと言われている。


更にそれだけでなく、この大森林には、生物や植物だけでなく、確認されていない魔法技術など、ありとあらゆる未知が存在していたともされ、まさに宝の山ような場所だったらしい。


では、何故そのような、誰もが解明したくなる場所が未だに謎に包まれているのか、そこにはある冒険家達が犯した罪と、一つの種族が大きく関係している。


これは、その冒険家が残した日記の記憶である。


****


「お、おお!凄い!凄いぞ!みんな!ついに!ついに辿り着いた!」


百年前、冒険家マードラスは、十人の仲間と共にある土地に辿り着いた。空まで届いているのではないかと思わせるほどの、巨大な木々によって形成されている大森林だ。

自分達の存在が豆粒のように思えるほどの、広大で巨大で、そして神秘を感じるその森に、マードラスは一目惚れをした。


そしてマードラスは、ここが自分達の冒険の終わりには相応しいと運命のようなものも感じていた。


「おいみんな!この木を少し頂戴しよう!国王様もこれには満足してくれるはずだ!」


心身共に疲れ果てていた仲間達が、マードラスのその言葉を聞いて膝から崩れ落ちる。


「…ようやくか。これで開放される…」

「長い旅だった…」


と、そんな仲間をみている時、マードラスの脳内に言葉が響いた。


「よくぞ見つけた!!素晴らしい!ただちに、その土地にあるものをなんでもいい!持って帰ってこい!」


脳内に響いた声の主は、国王ファゼルだ。マードラスの脳内に埋め込まれている魔石を使って、直接脳内に言葉を語りかけてくる。


「なんでも…ですか?」


俺は独り言を話すように呟く。たったこれだけで、脳内にある魔石は、遠方にいる者との会話を可能にする。


「ああ、なんでもだ。できるだけ多くだ。」

「分かりました。渡された大袋に全員一杯に入れて持ち帰ります。」

「ふざけるな!それだけで足りるものか!袋に入らなくなったら胃袋でもなんでも使え!」

「…分かりました。」


そう答えたところで、また通信すると言い残し国王の魔力反応が脳から消えた。無茶を言うなと言ってやりたいが、立場上逆らえないのでこうする他ない。


「国王はなんと?」

「また無茶を言ってきたんだろう?」


仲間達が、話を終えた俺を、心配そうな顔をしてこちらをみてくる。

国王との会話が許されているのは自分だけだった。この国を出る際に、全員脳内に、魔石を埋め込まれたのだが、会話は代表者のみということになっており


「この場所にあるもの、なんでもいいから持って帰ってこいってさ。大袋に入らなかったら胃袋にもって。無茶を言ってくれるよほんと。」


だからこうして、俺は国王との会話が終えた後、みんなに伝える役になっている。


「はは、笑えねえ。」

「それってよ…帰ったら腹を切り裂くってことだろ?助けるとか言っといて…まあ信用してなかったけどよ…あんまりだぜ。」

「やった事のねえ冒険家なんてやめて、大人しく刑を待っとけばよかったぜ。」


仲間達は絶望する。そしてほぼ全ての者が、最後の男の言葉に頷いた。


「やった事のねえ冒険家なんてやめて、大人しく刑を待っとけばよかったぜ。」


マードラスも後悔していた。この道を選択したことを。

本当のことを言うと、俺達は冒険家なんかじゃない。


「罪人共よ、機会をやろう。」


十年前、監獄に現れた国王が、俺達罪人の前で、一つの提案をしてきた。


「大森林メヴィア。この世の未知の宝庫、神の庭に行き、我が国の利益となるものを持ち帰ってきたものを、無罪放免とする。勿論、装備はこちらで用意する。どうだ?やる気のあるやつはいるか?」


監獄内に溢れたのは、喜びとやる気に満ちた声ばかりだった。


「本当か?!」

「やる!やるぞ!」

「おれもだ!」


俺も、この場にいる皆も、その時は声をあげた。


「そうかそうか。なら、十一人の集団を作り、一人、代表を決めろ。それができた者達から我のところに来い。」


そして俺達は、今の仲間達と集団となり、代表は俺に決まり、王の元へ向かった。そこでは、詳しい話が聞かされた。


「大森林メヴィアについて知っているかね?」

「いいえ、噂程度しか…」


王にそう問われた俺達だったが、皆、噂程度しか知らなかった。この大地のどこかにあるとされていて、この世の宝物庫、神の庭と呼ばれている場所。


「くく、聞いて驚くな。我が配下が、遠征場所でその場所をみたと言っている者に出会ったらしくてな。今そいつを現地で拘束しているところだ。他所の国の者に話されたら困るからな。お前達の役目は、ただちにそこへ向かい、情報を聞き、大森林メヴィアをみつけだし、そこにあるものを持ち帰ることだ。簡単だろう?それだけで無罪放免だ。」


俺達囚人にとっては、魔法のような言葉だった。


「やらせてくれ!」


当然、満場一致の答えだった。


「よし、なら今すぐにだ。」


そうして俺達は、馬鹿みたいに言われるがままに動き、脳内に魔石を埋め込む事も許可し、出発のときを迎えた。

そしてその選択が間違いだったと気づくのに時間はかからなかった。情報を知っている者を拘束している場所に行くまではよかった。


「この道をずっとまっすぐ、直線に進んでいくんだ。そしたら着いたんだ。」


情報を持っている者から聞けたのは、それだけだった。疑いと不安はあったが、皆頑張るしかないという気持ちだけで前へ進んだ。だが、探し始めて二年が経った時、どれだけ歩いても辿り着けい大森林メヴィアに俺達はついに心が折れた。


「国に帰ろう…」


皆の提案を俺は受け入れた。


「国王様、少しよろしいでしょうか?」


脳内の魔石に集中し、そう呟く。


「なんだ?みつけたか?」


一応はちゃんとまだ繋がるらしい。俺はその事に少し安堵しつつも


「いえ、それがどれだけ探してもみつからず…恐らくですが、あの情報提供者が嘘を言っていた可能性があります。ですから、一度国に戻ろうかと…皆心身共に限界も近く、これ以上の捜索は困難ですし。」


俺はありのままを伝えた。だが、ここでようやく俺達は、自分達が利用されていたことに気づくことになる。


「馬鹿か貴様ら?そんなこと百も承知だ。嘘の可能性もあるから、貴様ら囚人を使っているんだろうが。死ぬまで探せ。そんな事で一々連絡してくるな。」


それは、代表者の俺だけでなく、皆に伝えられた言葉だった。


「ふ、ふざけんじゃねえ!騙してたのか!俺はもう辞めるぞ!」

「俺も辞めるぞ!こうなりゃ逃げてやる!」

「俺もだ!やってられるか!」


仲間達が次々とそんなことを言い出し始める。俺も流石にやってられないと今度こそ、一言言ってやろうと思ったその時


「別に逃げてもいいが、お前達、この国に居る友人、家族が心配にならないのか?どうでもいいと言うのなら、逃げるがいい。だが、少しでも心配なら、その選択はやめた方がいい。」


国王ファゼルの言葉に、全てを察し、皆の言葉が絶望によって止まった。


「マードラス、この集団の代表者は貴様だったな。お前が今すぐ答えよ。どちらだ?貴様らは、どちらを選ぶ?」

「…申し訳ありません。すぐに、捜索を再開します。」


選択の余地なんてなかった。


「なんだ賢いじゃないか。それでいい。忘れるなよ。私達は常に貴様らと、大事な者達を監視しているということ。」


初めから利用されていたのだ。


「分かったらすぐに捜索を再開しろ。マードラス、次に貴様と話す時は、笑顔で話したいと思っているぞ。以上だ。」


魔石の反応は、そこで消えた。


「ちくしょう…ちくしょう…婆ちゃんが…」

「…妹が、妹がいるんだ…」

「こんなやり方…許さねえ…許さねえぞファゼル!!」


嘆きが、怒りが、恨みが、呪いのような言葉達が溢れだす。


「…行くしかない、行こう…」


こうして俺達は、そこから八年、何も無い場所を彷徨うことにった。


そして、今。出発から十年。ようやく、辿り着くことは無いと思っていた場所に辿り着いた。


「皆、諦めるのはまだ早い。ここで国王ファゼルが、腰を抜かすような物を持ち帰れば、まだ分からない!ようやく辿り着いたんだ!希望を持とう!」


限界を超えた心と身体をなんとか奮い立たせ、皆の代表として綺麗事を言ってみる。


「ああ…そうだな…」

「なんとか…なるよな。」


そして仲間達も、それが分かっているうえで立ってくれる。初めは寄せ集めだったけれど、十年もいれば、本当の仲間になり親友となる。


「よし行こう。いざ、神の庭へ。」


俺は、ようやく終われると思っていた。こいつらと一緒ならと。

そう思って、大森林へ足を踏み入れとしたその時。


「おい!何者だ。」


上空から、一つの声が聞こえてくる。


「ん?」


そんなはずは無いと思うも、反射的に上を向くと、空まで届く大木の枝の上に、耳が異常に尖った緑髪の女性が一人立っており、こちらを見下ろしていた。


「なんだありゃあ。」


同じものを目にした後ろの仲間達が、一斉にざわつきはじめる。


「我が名はサリュー。もう一度聞く!お前達は何者だ!なにをしようとしている!」


俺は困った。アレがなんなのかは分からないが、恐らくここの住人だろう。俺達は奪いに来たわけだから、正直に答えるわけにはいかない。


「すまない!道に迷ってしまい、ほんの少しだけ、この森で休憩させてもらえないだろうか!休憩がすんだら、すぐに出ていく!」


俺はそう返した。できれば、ゆっくりと持ち帰る物を厳選したかったが、住んでいる者がいるなら話は別だ。今の俺達に争う力など残っていない。

休憩するついでに、木の皮を少しと、その近くの植物を少しだけ抜いて頂こう。俺はもうそれでいいと思っていたのだが


「嘘つきめ。貴様たちは略奪者だな?立ち去れ、休憩も、ここに居ることも、許さぬ。」


直後、それすらも拒絶されてしまう。


「なっ?!おいおい、それはいくらなんでも酷くねえか?」

「そうだそうだ、というか、何を根拠に俺たちを略奪者って言ってんだ!」


後ろの仲間達が言い返す。本来なら止めるべきなのだろうがその体力がなかった。


「根拠?必要ない。私の風の勘が、お前達は悪だと言っている。それで充分だ。」


だが、彼女の言葉で自然と皆の言葉が止まった。それは、この女は何を言っているんだという困惑からくる間だったが


「ふざけんな!そもそもお前にそんな権限ないだろ!行こうぜマードラス。」


すぐに、仲間の一人がその沈黙を破り一歩前へと進む。


「警告はした。ここからは実力行使となるが、悪く思うなよ?」


微かに聞こえたその声の直後、耐えきれないほどの突風が吹く。


「うっ!」

「どわああ!」


まるで巨人に張り手でもされたかのような衝撃が身体を襲い、全員が後方へと吹き飛ばされる。


「我らはエルフ。この大森林の守護者である。」


吹き飛ばされ、意識が朦朧としている中、こちらを見下ろす女性のその言葉を最後に、何も感じなくなった。


****


意識がもどったのは、夜になってからだった。仲間の一人に叩き起こされた訳だが


「どうなった?」


俺を叩き起した仲間は首を横に振り、木の上を指さすと


「ずっとあいつが俺達を監視している。なにもできない。」


状況は何一つ変わっていないことを知らされる。


「どうする?」


仲間にそう問われるが、やられた事を思い出すと、嘘を見抜かれ、その後に強力な風魔法で吹き飛ばされたということになり、何一つ案は思い浮かばなかった。

嘘を見抜かれる時点で詰んでいるが、それよりも魔法の方がまずかった。ここにいるみんなが、例え万全の状態だったとしても敵わないだろう。それほどの差を感じさせる魔法だった。


「援軍を、今すぐ王に援軍を送ってもらうしかない。少し連絡してみる。」


悪知恵も力も効果がないとなれば、それしか思いつくことはなかった。あの国王も、せっかく見つけたのだから、ここでは力を貸してくれるはず。俺はそう思って脳内の魔石へと集中した。


「おお、ようやく連絡してきおって。それで?回収はできたのか?」


こちらの苦労も知らずに、気楽で陽気な王の声が聞こえてくる。


「いえ…それが、エルフという強力な魔法使いに阻まれてまして、援軍を送っていただけないかと…我々だけでは太刀打ちできず…」


はっきり言って、王国の精鋭部隊でさえ簡単にやられてしまうのではないかと思うが、そんなこと言えるはずもないので黙っておくことにした。


ここまで頑張ってきて、そして、ようやく目の前にあるのに、諦めるなんてことはできない。

王国のためとかじゃない、今までが無駄な時間になるかどうか、ちゃんと意味のあった時間であってほしいという、この場にいる皆の願いだ。


だから、援軍を送ってくれ。それで成果がでる。そしたらみんな救われる。俺はそう思って、王を信じて。


「よし、ご苦労だった。充分な功績だ。後はそのエルフという者に突っ込んでくれれば、それでいい。突っ込む時、一言頼む。こちらで、脳の魔石を起爆させる。」

「は?えっ?」


理解できなかった。一体なんの話をしているのか。


「は?つ、突っ込む?起爆?無理ですよ、勝てません!だから援軍を…」


いや、理解はしたはずだ。けれど、そんな残酷な話を、耐えれる心がもうなかった。だから嘘であってくれと、援軍をもう一度頼もうとして


「頭の悪いやつだな。勝てないから、突っ込めと言っている。未知の領域だ、敵がいることは想定済みだった。得体の知れない奴と、我が精鋭部隊を戦わせろと?何のためにお前達の脳内に、監視連絡用と敵用の魔石を埋め込んだと思っている。」


そして、その残酷な真実は、八年前と同じく皆の頭にも聞こえており


「その脳内にある魔石は、こちらにある魔石に魔力を込めると、爆発するようになっている。一つあれば、大きな国でも半分は吹き飛ぶ。全員で敵を削れ。お前達に残された最後の役目だ。」


王の言葉が、皆の心を、再び砕いた瞬間だった。


「そんなことをしたら、この森もほとんど吹き飛びますよ?」


皆が黙る中、俺は震える声で、確認をした。


「安心しろ。エルフといえば、魔法だけならあの魔王にさえ勝てると言われている種族だ。その種族がそこを守っているなら、そう簡単には#その森は__・__#吹き飛んだりしない。」


王は、全て知っていたのだ。俺達がここまで到達することまで計算だったのかは分からないが、十年前から、これを狙っていたのだろうと察しがついた。


「…捨て駒になれと?あんまりじゃないですか…」


もう、駄目だった。俺の心も、皆の心も。


「マードラス、この集団の代表者は貴様だったな。貴様が決めろ。ここで逃げて、家族や友人を見捨てるか。ここで英雄となり、家族や友人に豊かな生活をさせてあげるか。今すぐだ。」


八年前と同じだ。ただ、一つ違うのは、今回、皆には諦めと覚悟があったこと。


「…やろう。やらねえと居場所がねえ。」

「ああ…疲れたな本当。」

「皆に…何かを残せるなら…」


仲間達の答えは満場一致だった。だから俺は、王に最後の確認をした。


「皆の家族や友人、その幸せを約束してくれるんだな?」


皆が最後に望んだもの、それの保証。また嘘をつかれるかもしれないが、気休めだ。


「当然だ。約束しよう。」

「分かった…今からエルフへ突撃する。だが、近づける距離には限界がある。六十秒後だ。」

「了解した。最後に、勇敢な君達に礼を。」

「地獄に堕ちろ糞野郎。」


魔石の反応が消え、皆が立ち上がる。

そして俺達は、役目を果たすため走った。



冒険家マードラスの日記、その記憶はここで終了した。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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