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魔王城の人姫  作者: 川輝 和前
第一章 『混沌の魔王城』
18/35

18 真実

話し合いの場として用意された部屋は黒の一番、魔王ユウシンの自室だった。

その部屋の第一印象は、魔王の部屋としてはあまりに寂しすぎる部屋だと感じた。中は暗く円形状の部屋で、部屋の中心に一つのベット、そしてそのすぐ横に、途中で途切れ上まで通じていない螺旋階段が一つ。そして、部屋の奥に大きな縦窓が三つ。たったのこれだけだった。


「もっと豪華な部屋になっているかと…少し寂しくありませんか?」


お世辞にも住みやすそうとは言えない部屋だ。魔王の自室というぐらいだから、この城の中で一番贅沢な部屋かと想像していたのだが、何故このような部屋を選んだのか。


「私も初めて来たけど、こんなところに住んでたんだね王。私やレンカの方がいい部屋なんじゃないか?」


そう口にするのは、私と同じくこの部屋へ招待されたメヴィアだ。彼女もこの部屋に対して感じたことは、同じようなものだったらしく、何故こんな部屋にしたのかという疑問を感じた様子だった。


「長く生きるとね、新しいものはどんどん減っていって、何があっても刺激を感じなくなってくるんだ。その代わり、と言っていいのか分からないけど、永く変わらないものに愛着が湧いてくる。ここは結構住みやすいよ。」


ユウシンはそう答える。そして螺旋階段の一段目に腰を下ろすと続けて


「それより、僕の部屋に興味があって来たわけじゃないだろう?話って、一体何を聞きたいんだい?」


根拠は無いが、ユウシンはある程度こちらの話を察していることだろう。


その上で、私達の話はなんだと聞いてきている。これほど私とメヴィアに対し、都合のいい完璧な展開になるとは想像もしていなかったが、三人だけの空間で、向こうもこちらの意図を察した上での話し合いができるこの状況はまさに理想的だった。

それになにより、こうなった事で、メヴィア自身も隠れずに聞きたいことを聞けるようになったのがおおきい。怪しまれるからという理由で新人の私が聞くことになっていたが、もう既に気づかれた上での話し合いなので関係ないのだ。


「メヴィア!メヴィア!ささっ!」


私は小さな声でメヴィアにそう伝える。


「…分かってる。ありがとね。狙ってやったわけじゃないだろうけど、この状況をつくってくれて。それに役割まで譲ってくれて。」


メヴィアは片目を瞑り少し照れくさそうにそう言うと、一歩前にでて、ユウシンの前へと立つと


「王に、いくつか聞きたいことがあります。答えていただけますか?」

「僕が答えられることなら、嘘偽りなく答えると約束しよう。」


メヴィアに言葉にユウシンがそう答える。


「では、一つ目。どうして皆に、管理人になってもいいとか、レンカもそうだが、姫になってもいいって言うんだ?この魔王城は、言っちゃ悪いけど寄せ集めだろ?色んなところからやってきた奴らの集まり場だ。なのにここを本当に魔王軍のいる魔王城って思い込んでるやつらが結構いる。どうして間違ったことを伝える?私には、王がそうする理由がわからない。」


メヴィアがまず聞いたのは、この魔王城でおきている認識の違いについてだった。私もメヴィアに教えてもらうまでは、ここを魔王軍の根城だと思っていた。

だが実際は、魔王城だと思っている者達と、救われた者達の集まりの場だと思っている者達、更には全く別の場所だと思っている者達と、人や種族、集団によってその認識に違いがあることを知った。


でもそれぞれ違う皆だが、口を揃えて共通して言うことがある。この場所がどういう存在で、自分がここですべきことは何か、その全ては魔王ユウシンから聞いたと。


「ここは一体、本当はどういった場所なんだ?教えてくれ王。」


自分の聞かされた真実と、他の者が聞かされた真実が違う。気づかなければなんとも思わないのだろうが、一度それを知ってしまったら、不気味に思うのは当然のことだろう。

そして、それを黙って聞いていたユウシンが、立ち上がりメヴィアの問いに答える。


「ここは魔王城だ。それは間違いない。そして皆に別々のことを伝えているのは、そうした方がいいと僕が判断したからだ。ちゃんとした理由がある。現在、この魔王城にはいくつの種族が住んでいるか知っているかな?」


そしてそのユウシンの問いに、私とメヴィアは首を傾げた。


「約三十の種族が、この魔王城で生活している。」

「はっ?!」

「ええ?!」


ユウシンの答えに、メヴィアと私は驚きの声をあげる。


「待ってくれ王よ、私は永くここにいるけど、そんな多くの種族と会ったことはないぞ?せいぜい七、いや八種族ほどだ。」


続けてメヴィアがそう言い切る。私はともかく、メヴィアでさえその数は信じられないといった様子だった。


「当然だよ。僕が出会わないようにしているからね。他の種族と出会わせたらまずい奴や、孤独を望む者、自分たちだけの豊かな生活を望む種族。僕はそういった者達もこの魔王城に住むことを許可している。部屋の移動を転移魔法に限定しているのは、そういった特殊な事情を持つ者達と、そうでない者達がうっかり出会わないようにするためでもある。」


これはまたとんでもない情報だった。そして続けてユウシンは


「そして皆に別のことを伝えている件だが、それは理解と役割を与え、無駄な争いをさせないためだ。本来相容れない種族同士だったとしても、同じ魔王軍の配下として来たとなれば手をとりあう。辛いことがありここに集まった者達は、乗り越えようとする者達同士、別種族だったとしても支え合う。管理人や、姫といった役割を与えるのは、この新しく住む魔王城で自分の新しい居場所と、存在意義を手に入れてもらうため。好き勝手生活されたら、争いだらけになってしまうからね。その者にあった道を紹介し、皆で一つの道を進んでもらう。どうだろう?君の一つ目の質問に対して、僕が言えることはここまでだが…」


私としては、納得の説明だった。ただ面白がって、嘘の情報を教えていたとかなら怒ったかもしれないが。しっかりとした事情があり、衝突を避けるための嘘と言われたら、それに変わった案をだせるわけでもないので、特に言えることはなかった。

というより、聞きたかったことのほぼ全ての答えが返ってきたと言っていい。ユウシンの皆に隠している事や、この魔王城の実態のほとんどを、教えてくれたような気もする。


「大変な事情があったんですね、教えてくださりありがとうございました。」


私は頭を下げ、お礼を言った。疑われていると分かった上で、真摯に誠実に答えてくれたことに対してだ。

そして、これにはメヴィアも納得しただろうと思い、頭を上げ彼女に帰ろうと言おうとした時だった。


「…満足だ。そういった事情があるなら仕方ない。これを、誰かに言う気もない。ただ、最後に。個人的なことを聞いてもいいか?」

「メヴィア?」


と、彼女はまだ聞きたいことがあったようで。だが、私が気になったのはその事じゃなく、後ろから少しみえた彼女の顔だった。普段表情豊かな彼女が、凄く真剣な、いや思い詰めたような顔をしていて


「僕に答えられることなら。なにかな?」


その意味を確かめる間もなく、ユウシンがそう答えると


「その、三十の種族の中に、私の#関係者__・__#はいるか?」

「…残念だが、存在しない。」


彼女の問いに、ユウシンがそう答えた直後、メヴィアの身体が微かに震えたのが分かった。何についての話なのか私には分からなかったが、今の答えが、メヴィアにとって良い答えではなかったのは分かる。


「…メヴィア?」


私は心配になり、メヴィアの元へ寄ろうとしたのだが、その直後


「ごめんレンカ、先帰るね。今日は私の無茶なお願いを聞いてくれてありがとう。」

「えっ?どういう…」


何故そうなるのか、よく分からず事の真意を聞こうとしたのだがそれよりも先に


「転移緑五番。」


メヴィアは、自室の色と番号を言って消えてしまった。


「んん?どういうこと?ねえユウシン、何を言ったの?」


明らかに、ユウシンとの最後の会話からメヴィアはおかしくなった。


「関係者がどうとか言ってたけど…あれって?」

「…レンカ、君は彼女のなんだい?」

「…えっ?突然だね。」

「話すかどうかは、それを聞いてからだね。」


一体何の関係性があるのか、ただ話を逸らそうとしているのか。メヴィアが王は言葉足らずと言っていたが、本当にその通りだと思う。


「…うーん。付き合いは凄く短いけれど、ここで初めてできた友達だと、私は勝手に思ってるかな。」

「勝手に?向こうはそうじゃないのかい?」

「メヴィアが私をどう思ってるかなんて分からない。だから、勝手に私がそう思ってるってだけ。」

「…そうか。」


友人と思われているかどうかなんて分からない。そして私は友達かどうかなんて、そんな恥ずかしい事を聞ける人間でもない。

だから私は昔から、傍に居たいと思う相手を、勝手に友達と思いこむようにしている。まあ今そう思えている人間は一人も居ないのだが。


「じゃあ…レンカはこれからも絡んでいきたいんだね彼女と。」

「まあ…私は仲良くなれそうだと思ってるよ。一緒にいて楽しいし。っていうか、これ聞く必要ある?」

「うん、必要なことだ。そして君を信じてみようと思った。だから、これから僕が話す内容を、レンカは、彼女の友人として聞いてあげてほしい。いいかな?」

「またよく分からないことを…まあ私は初めからそのつもりですから。どうぞ。」


私がそう言った直後、ユウシンは右手に黒の魔法陣を出現させると、そこから古く傷みまくっている一冊の本がでてくる。そしてその一冊を私の方へと向け


「受け取って。」

「えっ…うん…これは?」


私は戸惑いながらも、その本を受け取った。中を確認するも、古すぎるのか文字が読めないほど傷んでおり、どう言った本なのかも分からなかった。


「それは、ある罪を犯した冒険家の日記だ。今からその日記の記憶を君にみせる。」

「冒険家の記憶を?なぜ?」


全く関係の無い本のように思えるが


「その日記には、彼女の故郷について書かれている。その場所の名は、大森林メヴィア。かつて、神の庭とも呼ばれた世界最大の大森林であり、エルフが守護者と生活していた場所でもある。」

「大森林…メヴィア?あれ?メヴィアって…」


と、今度は頭の上に黒の魔法陣が出現し


「説明よりも、視たほうがはやい。」


その直後、手に持っている本に意識が吸い込まれるような感覚を味わい、そして徐々に徐々に、視界は暗くなり、身体からは力が抜けていった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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