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魔王城の人姫  作者: 川輝 和前
第一章 『混沌の魔王城』
16/35

16 怖い竜と可愛い竜と結果

私は今、とても考えている。どうすれば竜を刺激しないでユウシンに気づいてもらえるかを。

とりあえず大声で叫んでみるなんてことも考えたが、朝一番の竜を不機嫌にしてしまわないだろうか。


「叫んだ瞬間、襲われる可能性がありますし…襲われなかったとしても、いきなりそんな登場の仕方をしたら怪しまれてしまいます…」


ただでさえ、向こうからすれば最近来たばっかりの人間が、何故こんなところに一人でいるのか怪しまれる危険性があるというのに。

用があってメヴィアさんに居場所を教えもらったと言うつもりではあるが、新人とはいえ少し苦しい言い分だ。できることなら、考えてきた質問以外の会話を増やすようなことは避けたい。


と、そんなことを考えている間にも、刻一刻と終わりは近づいてきているわけで。


「うう、後どのぐらいの猶予があるのでしょうか…そもそも竜の餌やりってもう終わっている可能性も?先程からそのような様子はありませんし…」


穴の下にいるユウシンと二匹の竜は、先程から凄く楽しそうにしている。


竜の口元は緩んでおり、ユウシンはずっと笑顔だ。なにか餌になりそうなものが近くに置いてあったり、手に持っていたりするわけでもないので、来るのが少し遅かったのではないかと考えてしまい慎重になってしまう。

この作戦は、普段皆の前で聞けないようなことを聞いてしまおうというものだ。だから一人の時間を狙った訳だが、竜が一向に離れてくれない。


それだけじゃなく、ユウシンが何かを探しているかのように、辺りを時々気にしている様子もある。


「困りました…これは一度撤退して、情報の整理が必要ですね。とても話せそうにない。」


私はそう判断し、昨日メヴィアから渡された風の魔石をポケットから取り出す。念の為と言われ、作戦会議の最中に渡されたものだった。


「これは?」

「風の魔石だ。何かあったらそれを強く握ってくれ。そこに込められた風が私の元に届く仕組みだ。作戦実行が不可能な状況になったら、遠慮せず握ってくれ。撤退する。作戦通りに質問ができそうなら、軽く握ってくれ。特殊な風が私の元にその会話を届けてくれる。」

「なるほど、すごく便利ですね。分かりました。」

「まあ、こういう時だけだよ。普段は使わない。後、撤退する時、万が一私が近付けそうにない場所だった場合は、私がいる所まで後退してくれ。」


この時はまさか、こんなにも早く使うことになるとは思ってもいなかったが。それに収穫もなし、一回目の挑戦はとても残念な結果で終わってしまった。ユウシンの日常を少し甘くみていた。


「一応、魔王だもんね。ユウシンって。」


忘れかけていたことを思い出す。そして私は、メヴィアがいる所まで来た道を戻ろうと振り返り、そして目の前を飛んでいる、自分の顔ほどの大きさの緑色の竜と目が合った。


「えっ?」


羽があり、牙があり、小さな身体だがしっかりとした体格の竜が、私の前を飛んでいる。


「見ない顔だ。お前誰だ?」

「ええ?」


しかも喋った。確実に詰んでいる状況、作戦失敗の焦り、それらの感情よりも私は可愛いが勝った。何故か、小さな喋る竜が私の中の何かを刺激したようで、私は我慢できなかった。竜の顔を両手で挟むように掴み、胸の方へと抱き寄せ感触を確かめる。


「なにこれ!凄く可愛いんだけど!」

「ぎゃっ?!は、離せ!」

「君、どこから来たの?迷子?こんなに小さくて可愛い竜っているんだあ。」

「こ、この!離せと言っているだろ!小さくて可愛いなんて…侮辱だ!噛むぞ!」


小さい牙をみせ、必死に暴れる小さな竜。なんて小柄で可愛い生き物なんだろう。


「こんな可愛い竜ちゃんがいるなら言ってほしかったよ全く。」

「竜ちゃん?!僕にはレブルってちゃんとした名前がある!」

「まさかの僕?!それ凄く可愛い!もう一回言ってみて?」

「ふ、不審者め!言うわけないだろう!」


少し反抗的なところも可愛い。私は思う。


「…一匹ぐらい持って帰ってもいいかな。こんな不気味なところまで来て、私頑張ったし。」

「おい貴様、本気の目をして竜になんてことを言う。良いわけないだろう。」

「………」

「黙るな。本気度が伝わってくるだろう…えっ?本気か?」


初めから本気である。自分が住んでいた国は、狩りが当たり前で飼うことは禁止されていた。だから、少し憧れがあった。そして目の前には可愛い竜。本来、絶対に出会えない存在。


「なにも合図がないから来てみれば…あんたなにしてんの?」


と、そんなことを本気で考えていた時、上から知っている声が聞こえてくる。


「あっ!メヴィア!みて!この小さな竜!」


上をみると、近くの大きな木の枝にメヴィアが立っており、小さな竜の姿をみせる。


「…あー、全く。こうなるのかあ。これは考えられなかった。」

「何がです?」

「レンカ、あんたは本の話をしてる時もそうだったけど、好きなものを語ったり、目の前にした時に周りがみえなくなるみたいだね。後ろ、みてみな。」

「後ろ?」


メヴィアにそう言われ、後ろを振り向くと


「やあ、楽しそうな話をしているね。レンカ姫にメヴィア。こんな朝早くから、こんなところになにしに来たんだい?」


私の後ろには、笑顔でそう話すユウシンと、さらにその左右に、銀の髪色と赤の髪色の短髪が目立つ見知らぬ男が二人立っており、私は全てを察したのだった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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