15 竜の花園
竜の花園。そう呼ばれるその場所に転移して一番初めに感じたことは、この部屋全てに対しての不安だった。花園という名前を付けた人の感覚を正常か疑いたくなるぐらい、部屋には不気味な雰囲気が漂っており、冷えているわけでもないのに身体中から寒気がする、そんな嫌な感じがする部屋だった。
「なんですか…ここ。この部屋間違えていませんか?」
「ここが緑二番の部屋、竜の花園で間違いないよ。竜と竜を生かす環境が整えられている部屋だ。」
「本当にここが竜の花園?本当ですか?こんなところに…本当に竜が?」
「ああ、まあ初めは信じられないかもしれないけど、ここがそうだよ。」
共に来たメヴィアに何度も確認し、ここが竜の花園だと言われてなお信じられない。竜なんてものは絵本でしかみたことがないし、詳しい生態もよく分かっていないが空に生きる生物なので、もっと空のようにひろく明るい部屋を想像していたのだが、この部屋はその真逆だった。
竜の花園に転移し、真っ先に疑問に思ったことは部屋の暗さだ。一体どういう原理なのかは分からないが、上を見上げると夜空があり、夜空にある小さな光だけが、その部屋を照らす唯一の光となっていた。そしてその光に地上が照らされ、その部屋の暗く不気味な存在感を強めている存在が暴かれる。
「でも…ここは森林ですよね?」
どこからどう見ても、目の前にある光景は森林だった。巨大な木や、みたとこともない植物が見渡す限りの場所全てに生い茂っており、とても竜を飼っているとは思えない環境だった。
空を飛ぶにしても巨大な木や天井が邪魔だろうし、地上を歩くにしても、邪魔になりそうなでかい植物や枝分かれし太く頑丈そうな木々が道を阻んでいるため、とにかく身体の大きい竜からすれば、生活に困りそうな要素しかない悪環境すぎる部屋なのは一目瞭然で、竜が住んでいる場所とは到底思えなかった。
「まあ言いたいことは分かる。でも、ここにいる竜をみれば納得するはずだよ。とりあえず王を探しに行こう。口で説明するより、みてもらった方が早い。来る前にも言ったけど、本当に安心してもらっていい。」
「安心はできそうにありませんが、まあ…ここまで来たらなるようになると信じるしかありませんし…行きましょう。」
「その意気だレンカ。さっさと王をみつけて終わらせちゃおう。」
「そしてさっさと帰りましょう。」
前に進みはじめるメヴィアの後を追うように、私もそれについていくが、竜では苦労しそうな森林も、人の姿である私達にとってはそれほど邪魔にはならなかった。
とはいえ、朝からこんな暗く不気味な場所を探索するのは、精神的にはあまりいい気分にはなれない。それほど、一瞬で苦手意識を覚えてしまうほどの嫌な部屋で、部屋一つをここまで拒絶してしまうのも、恐らく生きてきた史上初めてだろう。
私だけがそう感じているのか、皆感じるものなのかは分からないが、私はとにかく早く帰りたいという気持ちが強く、逆に探索に力がはいった。初めての場所だというのに、いつの間にかメヴィアを抜かして彼女よりも前を歩いていたほどだ。
「レンカ、前を歩くのはいいがあまり先に行きすぎるなよー!」
「メヴィアもはやくー!」
私が前を歩けるのは、さっさと終わらせたいからというのもあったが、メヴィアがしっかりと、後ろからみてくれているという安心感もあったからだ。それに、先がほとんどみえないこの森林の中で、いきなりユウシンに出会う可能性もあるわけだから、私が前を歩いた方がきっといい。
メヴィアが前を歩いてユウシンと出会ってしまったらそれこそ作戦は一瞬で終わってしまう。
「こんな時、部屋だけじゃなく目的の人物のところまで行けたら、もっと楽なんだけどなぁ」
暗く、嫌な雰囲気がずっと続く道を歩きながら、つい贅沢な悩みが口からこぼれる。便利すぎる転移魔法だが、強いて欠点をあげるならそこだろう。
場所は選べても人は選べない。部屋と部屋を繋ぐ道がなく、その間をとばして転移で繋がってしまう為、今回のように、部屋は分かっていてもどこにいるか分からない人物を探すのは、この魔王城では凄く大変なことだろう。
それに、メヴィアの情報ではここに居るということだったが、今日だけ来ておらずどれだけ探しても出会えない可能性もあるわけで、そしてそれを確認する手段もないので、思っていたよりも大変な作戦になりそうだった。
「レンカー、一回止まってくれ!」
そんな事を考えていた時、後ろからメヴィアの声が聞こえ振り向くと、メヴィアは目を瞑り、両手をそれぞれ尖った耳の近くにそえ、何かを静かに聴いている様子だった。
❨ 何か…聞こえるのかな?これって静かにしといたほうがいいやつだよね?❩
私は心の中でそう思うも、もしかしたらと思い、真似して耳に意識を集中させてみるが、当然私には何も聞こえなかった。
(風と仲良しみたいなこと言ってたから、なにか風さんから教えもらったのかな?いいなぁ、魔法とか、風さんと仲良しになれたりだとか。少し憧れるかも。私も本と仲良くなって、読むだけじゃなく喋ってみたりしてみたいなぁ。どんな会話になるんだろ。)
何かに集中しているメヴィアをみて思う。風と喋ったり、魔法を扱えたり、一体皆どこでそんなものを習うのか。そして、静かな時間が三十秒ほど経った時だった。
「みつけた。王と接触した風が、私に今教えてくれたよ居場所を。」
「おお!凄い!それで、ユウシンは一体どこに?」
メヴィアが瞑っていた目を開き、風から教えてもらったという情報を私に伝えてくれる。
「ここから約五百メートル歩くと、大きく地面が陥没している場所に辿り着く。穴のようになっていて深さは十五メートルほどだ。そこに王と二匹の竜がいる。」
「五百メートル…本当にユウシンのところへ辿り着けるか不安でしたが、思っていたよりも近づけていたんですね。」
「私も風からの知らせが中々こないから焦ったが、とりあえずは良かった。ただ、問題が二つある。想定していたよりも時間がかかってしまい、急がなければいけなくなったこと。そして、魔力を持つ私はこれ以上近づけないこと。隠していても気づかれるだろうからな。だからレンカ、ここからは一人になるが行けるか?一人って言っても作戦通り私は少し離れたここから、風で状況把握して援護もする。」
「ここまで来て断りませんよ。少し不安と怖さはありますが、こうなったら#一蓮托生__いちれんたくしょう__#です!すぐに行ってきてすぐに終わらせてきます!」
私は走った。メヴィアが後ろからありがとうと呟く声が聞こえるが、正直言うと、こんなところにまで来て何の情報もなしに終わるというのが私は嫌だったので、それがやる気になっていただけだった。もちろん、真実が気になっているメヴィアの為も少し含まれているが、友達のためとかいう綺麗な理由ではない。
「さっさと帰りたい!そしてあわよくば、なにか教えてほしい!」
ごめんメヴィアと思いつつも、それが走る本音だった。そして私は走って、走って、走りまくって、遂にその場所へと辿り着いた。
「きた!ここだ!」
メヴィアの言った通り、森が不自然に途切れた場所にでる。情報通りに陥没した地面があり、下を見下ろせる巨大な穴となっていた。そしてその下には、こちらに背を向けているユウシンとその正面にいる二匹の竜の姿があり
「あれが…竜…」
初めてみる竜は、一方は白く、もう一方は赤い竜だった。大きさ自体は七、八メートルほどだろうか。この穴の方が大きいのだが、ただそこにいるだけで感じる圧倒的存在感と、何もされていないのに感じる威圧感のせいで、その二匹の竜から視線が離せず、不思議と穴よりも大きな身体のようにみえてくる。
そしてそんな恐ろしい竜二匹の前でユウシンは、笑いながら何かを話しかけている様子だった。
「…えっ。わたし、今からあそこに行かないと駄目なの?」
先程までの自分の勢いと気持ちはどこに行ったのか、自分でも戸惑ってしまうぐらいに私はびびっていた。
「…難易度高すぎない?」
恐らく、世界一話しかけづらい集団だと私は思う。しかし困ったことに、私が話しかけないことには何も始まらない。だから、私は必死に考えた。どうにかこの状況で、自然に話せるやり方がないだろうかと。
そして、私はついに答えをみつけた。
「もう…これしかない…名付けて、話しかけるのではなく、向こうに気づいてもらおう大作戦!」
これが咄嗟に思いついた、私の迷回答だった。
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