11 魔王城の住民
多種多様な種族が生活し、その者達が共に生活していく中で、魔王城は色々な工夫がなされていた。
例えば、無駄な争いがおきないよう種族同士を分けたその種族だけの空間を作ったり、個で生活したい者には個別の空間を。
普段から集団で生活している者には、特別大きな空間を用意してあげたりと。魔王ユウシンは、ここに住む全ての者達の、今までの当たり前を大切にした。
そしてそれは、今の当たり前から抜け出したい、もしくは失ってここに来た者達に対してもだった。
****
「レンカ、緊張しているかい?」
ユウシンにそう問われ、私は小さく頷いた。当然だ、目の前にいるのは見知らぬどころか、絵本の中だけだと思っていた種族の方々が、私にまっすぐ視線を向けてきているのだから。
「緊張しなくていいよ。君が思っているより、本当にここはずっと気楽な場所で、愉快な奴らしかいないから。」
ユウシンが続けてそんなことを言ってくれるが、私は昨日の夜からどう自己紹介しようか迷いすぎて、結局決めれないまま寝れず朝がきてしまったほど緊張しているので、その気休めの言葉も、私には無意味だった。
寝れず朝がきてしまい、私はここに居ても仕方がないと思い、かなり早くから用意をして、待ち合わせの場所である酒場へ転移して向かった。
「……ふーー」
結果を先に言うと、その行動は失敗だった。朝早く、当然一番乗りで酒場に到着し、酒場の正面で待機したのはいいが、他の方々が来る度に、こいつ一人で何してるんだ?と言いたそうな顔で視られることになり、結局全員が揃うまでその空気が続いた。
はっきり言って地獄のような時間だった。事前にユウシンが、新人を紹介すると、皆には一応言ってくれているらしいが、そうであっても自己紹介するのが少し恥ずかしい空気だ。
とはいえ、早くしないと注目は高まるばかりだろう。だから私は覚悟を決めて
「初めまして!私はレンカと申します!昨日から、ここで生活をすることになりました!よろしくお願いします!」
「あれ?姫とは言わないの?」
言えた。が、ユウシンの言ったとおり姫とは言えなかった。
「言えるわけないでしょこの空気で!ただでさえ誰こいつみたいな空気なのに!」
私は頭を下げた状態で、隣にいるユウシンに小声でそう返す。ユウシンは首を傾げるが、誰こいつの空気感で、いきなり姫ですなんて言えるわけがないだろう。
「あれ?ねえねえ、確かお姫様の人だよね?王にレンカ姫って呼ばれていなかった?」
と、思っていたところに一人の女性の言葉が響いた。顔を上げ声のした方を向くと
「ほら、やっぱり。あの時の子じゃん?覚えてない?ほら、黒の一団!あっ、顔隠れていたから分からないか!王があなたを迎えに行った時に、王と一緒にいた黒の一団!その中の一人だよ私!」
酒場の真ん中あたりの席に、続けてそう言った声の人物が座っていた。
紫色の長髪に、長く尖った耳、そして黒色の踊り子のような服装が目立つ綺麗な人だった。いや、人と言うよりも、エルフと言った方が正解なのかもしれない。
「………は、はぁ。」
そう言われても、こっちはそっちの顔をみていないのでどう反応したらいいのか分からなくなる。
「早速友人ができそうじゃないか。行っておいで。」
「えっ?ちょっと!」
困っていたところ、ユウシンがそんな事を言い出し、その直後に、私の身体が浮きエルフの女性の元へと運ばれる。
「王!この子借りるよ?」
「ああ、仲良くしてやってくれると嬉しい。」
昨日と同じく、勝手に話がすすめられる。
「わああごめんなさい!」
「大丈夫大丈夫!ほっと!」
なんの抵抗もできないまま運ばれ、エルフの方にぶつかりそうになったところで、優しく受け止められる。
「よしよし、新人だあ!お前ら歓迎だあ!しかも姫だぞ!」
「「おおおおおーー!」」
エルフの方がそう言うと、周りにいる人達も一斉に声をあげはじめる。
「あ、あの…私…姫では…」
まさかここまで盛り上がるとは思わなかった。勝手に名乗るなと怒られたり、変な目でみられたりはするかもしれないとそっちの方である程度の覚悟をしていたため、ここまで単純にまっすぐに姫として受け入れられると、嘘なのにという罪悪感が凄かった。
「あー、あー、姫じゃないって?大丈夫!大丈夫!ここにいる奴ら皆分かってて盛り上がってるから!姫でいいんだよ!」
すると、エルフがそんな事を言い出し始め
「そうだそうだ!姫なら姫でいい!」
「そのままでいいぞー!」
周りの人達も次々とそんなことを言い出し、だが全く意味が分からなかった。姫じゃないと言ったら姫でいいと言われ、余計盛り上がっていく酒場に困惑する。
「まぁとりあえず座れよ。お前ら!私がちゃんと話すからお前ら盛り上がってろ!」
エルフの方はそう言うと、私のことをゆっくりと椅子におろした。周りの人達はまたそれぞれの仲間のような人達と騒ぎ始め、私はエルフの方と近くで向き合うこととなった。
「あ、あの色々とよく分からないのですが…」
私だけが情報不足でついていけてないのを凄く感じる。
「だろうな。王はいつも言葉足らずだ。ただ色々話す前に、まぁまず一言。よろしくだ。レンカ姫って言われてたっけ?私はメヴィア。少しお喋りの…見ての通りエルフだ。」
色々と分からないが、目の前の女性のことだけは分かった。
が、勿論それだけ分かっても意味が無いので聞いてみる。
「よ、よろしくお願いしますメヴィアさん。あの…それでさっきの言葉の意味を聞いてもいいですか?私、何がなんだが分かってなくて。」
「メヴィアでいいよ。私もレンカって呼ばせてもらう。で、話だけど、その前にレンカ、君がここに来た理由を当ててやろうか?最近まで糞みたいな環境にいただろ?それはもう、生きる気力を失うぐらいの環境だ。」
「えっ…どうしてそれを?あの迎えの黒の一団に居たと仰ってましたが、あの一瞬で、私のそれが分かったのですか?」
「いやいや、私はそんな力を持ってないよ。もっと簡単な話だ。ここ魔王城にいる奴らは、まあ全員とは言わないが、ほとんどのやつが王様に救われてここにいるからな。あの場に居たのもあるが、この城に住むことを、あの王様が許可したって事はそういう事なんだなって。」
またしてもとんでもない情報だった。
「ここにいる方々は、全員ユウシンが救った人達なのですか?ぶ、部下ではなく?」
「部下?なわけないだろ?恩を感じてはいるが、私達はそういう関係じゃない。自由に生きろって言われたから、ここにいるのさ。レンカもだろ?あの時、王様に姫って言われてたからな。あいつの性格的に、レンカの願いを叶えようとした結果、あの演出になったて考えてるんだけど、どう?」
怖いぐらいに全てが正解だ。嫌な環境に居て、連れ出してもらって、姫になりたくて。ここまで見透かされるとなんだか急に恥ずかしくなってくる。
「はい…お姫様に憧れてて…そしたらなれるって聞いて…」
「ふっ、だはは!大丈夫大丈夫!ここにいる奴らも、勿論私も、皆一度はここで好きな役を名乗ってるから!」
「えっ?!そうなんですか?!」
「そそ、だから皆一瞬で察して、分かったんだよ。でもあんな風に言われたら勘違いするよな?これからは気をつけたほうがいいぞレンカ。王様は天性の生物たらしだから。」
知るために聞いているのに、聞けば聞くほど、もう何がなんだが、余計訳が分からなくなっていく。
「えっ…じゃあ私…ここでどう暮らしていくの?」
こうして、私の真の意味での魔王城での生活が始まった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ご評価、ご感想、ブクマなどあればよろしくお願いします。




