10 魔王城の日常⑵
図書室での時間、結局遅くの時間までユウシンは戻ってこなかった。
「ごめん。時間が思ったよりかかってしまった。もう夜も遅いし、レンカの部屋について説明するよ。」
戻ってきたユウシンが私に言った言葉だ。ナズミさんは遅くなるなら連絡をしなさいと怒っていたが、私としてはその分、沢山読めたので全然気にはならなかった。
「絶対返却が条件だけど、何冊かなら部屋に持ち帰ってくれても構わないから。」
ナズミさんのその言葉に甘え、私は五冊ほど気になった本を持ち帰ることにした。魔王城での自分が生活する部屋、どんな場所かと色々な想像をしたが、実際に行ってみるとよくある部屋といった印象だった。
「部屋…どうやって行くのですか?」
図書室から部屋に行く方法。勿論、生活するのだから部屋はあるだろうと思っていたが、ここまで全て転移魔法で移動していたため、一体どうやって向かうのか疑問に思っていた。だがやり方は、変わってはいたが凄く単純なやり方だった。
「はい、これ。」
「これは?鍵?」
ユウシンから渡されたのは一本の鍵だった。ただ、尖った先端の部分から、手に持つ部分まで、事細かに色が違うかなり変わった鍵だったのだが
「尖った部分が上、持つところが下。その鍵の色を、上から順に言葉にしたら、自分の部屋に転移できるようになってるから。」
「えっ、自分の部屋にも転移で行けちゃうんですか?」
「勿論。というか、この魔王城を転移無しで生活するのは、広すぎて僕でも苦労するからね。だったら、全て転移で移動できるようにした方が楽かなって思って。」
「…もはやなんでもありですね。」
それぞれに決まった色があるとはいえ、よく皆混乱せずに生活できているなと思う。
「赤、紫、緑…か。」
私の鍵の色だった。今の色順を、鍵を口に近ずけて言葉にすると、自分の部屋に転移するらしい。
「じゃあ、また明日。明日起きたら、用意してあの酒場に来てくれ。酒場の色は魔石と一緒に渡した紙に書いてあるから、確認しといてくれ。では!」
まだ用事が終わっていなかったのか、ユウシンはそれだけ伝えるとまた転移で消えてしまった。
「レンカさん、王様のこと殴ってもいいですからね。」
ユウシンが消えた後、ナズミさんが小さな声で私に言った台詞だった。
「いえいえ、私はユウシンには感謝しかないので。では、私もこの辺で失礼します。今日はありがとうございましたナズミさん。」
遅い時間とユウシンは言っていた。ナズミさんは待ってる間そんなこと一度も伝えてこなかった。きっと優しい人だから一緒に待ってくれていたんだろう。その事もあって、私はユウシンが去った後、すぐに部屋へと向かうことにした。
「おやすみなさい。また来てくださいねレンカさん。」
「おやすみなさい。ナズミさん、今日は出会ったばかりの私に色々と教えてくださり、ありがとうございました。」
最後にそのやり取りだけをし、私は部屋へと転移した。
「お、おお!」
転移後、私は部屋の中央に立っていた。辺りを見渡すと、正面に窓、その右横に机と椅子、左横にベット。そして後ろに扉が四つ。一番右が、洋服などを整理できるよう、洋服入れなどが置かれている部屋だった。その隣が台所で、そして更にその隣がお風呂場。そして一番左がトイレとなっていた。
部屋自体も、豪邸の時に使っていた部屋と同じくらいの広さはありそうな部屋で、凄い部屋だなとは思ったのだが
「…これは無理矢理詰め込んだ感が凄いですね。そして転移で移動するからか、出入りの扉がないのも面白い。」
これさえあれば、普通の生活をするにおいて不便はしないだろうというものを、とりあえず詰め込んだような部屋だ。だが、雑に作られている感じはあるが、実際これで困ることはないだろうし、この部屋が全員にあるのだとしたら、ユウシンは本当に凄い魔王城を作ったのだなと、その過程を想像すると思う。
「特にこれ…一体どうやったのか…」
そう思ったのは正面の窓だった。窓からはしっかりと暗くなった空から、明かりで綺麗に輝く街が見下ろせた。転移してきてから、外をみていなかったから気づかなかったが、魔王城は空に浮いているというのが今わかった。
あの国からでて、体感上ではそこまで時間が経過している感じはなかったので、夜になっていたのも驚きだが、まさか宙に浮いていたとは。
「流石に教えてほしかったですね。」
魔王城ということもあって、普通の場所では無いのだろうと考えていたから、言葉を失う程度ですんだが、普通ならここで発狂していてもおかしくない話だ。
魔王城での初日、驚くべき出来事や出会いは沢山あったが、まだいまいち実感が湧かない。明日、ユウシンの言葉通りなら、ここにいる住んでいる人達の前で、自分は姫だと自己紹介をすることになっているが
「どうなるかな…混乱?意外とうけいれられたり?それとも物凄く怒られる?」
どれも想像できて、どれも分からない。
「うーーん、考えても仕方ないか。なるようになるもんね。寝よ。」
微かな不安はあるが、正直ここまできたら、全部をうけいれて楽しむしかないだろう。
だから私は、吹っ切れて眠ることにした。
そして私は、明日、姫となる。
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