第30話 求めたものは
己の身が限界を越えていたロウは、それでも残された力全てで体ごとティアにぶつかる。
小さく悲鳴を上げてよろめいた彼女の代わりに、オーガストの放った何かを受け止めた。
首筋に、わずかな痛みが走る。
振り向いて、取り出した針をオーガスト目掛けて打った。
「……おぐっ」
額に突き刺さった物を確認するように見上げながら、やがてオーガストは倒れ込んだ。
途端にロウは目の前がぐらつき、その場に崩れる。
「ロウ!?……ロウ! しっかりして下さい!」
仰向けになったロウにティアがしがみつき、必死に呼びかけて来るが、答える余裕もなかった。
震える手で首に刺さったものを抜くと、金属で造られた極小の矢のようなものだった。
間もなく全身が痺れ始め、四肢がほとんど言うことを聞かなくなる。
視界が何重にもぶれて、ティアの顔すらまともに見えなかった。
(こいつは、毒、か……?)
それにしては、弱っているとは言え毒物全般に耐性のあるはずのロウからすれば、ありえないほどに回りが早過ぎる。
もしかすれば、隠し持っていた魔道具の効果かもしれない。
いずれにしろ、さすがに無事でいられるとは思えなかった。
「……ティア」
これだけは伝えなくては。そう強く思い、掠れる声で、目の前の少女に告げた。
「さっき、オレがオーガストに喰らわせたのは……睡眠効果のあるスキルだ……。殺しちゃいない。目を覚ます前に……事情を話し、騎士団に身柄を、引き渡せ」
「は……はい。はい。分かりました! ですからもう、喋らないで! お願いですから!」
涙を流しながら、幼子のように嗚咽を上げるティアに、ロウは微笑みかける。
「……血に塗れた、クソみたいな人生だったが……」
力の入らない手を、それでも、強引に動かして。
ティアの傷一つない、綺麗な肌に手を添えて、ロウは言った。
「……あんたに見送られるなら、悪くはなかったな」
意識は途絶え、闇に落ちていく。
ティアがロウの名を呼び続けていたが、やがてはそれも、消え去った。
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