庭園の決闘(シャルロットを巡る戦い)
夜会の庭園。新型二輪馬車シャルロットが中央に佇む中、男(と馬)の戦いが始まろうとしていた。
「アレクサンダー! 彼女の軽快なサスペンションを味わうのは、この僕だ!」
エドワードはドレスシャツの袖をまくり上げ、最高級の本革手綱を構えた。
「ブルルルルッ!(お前の貧弱なトラクションで、シャルロットの真のポテンシャルを引き出せるものか! 彼女を最高速度へ導くのは、俺の1馬力だ!)」
アレクサンダーも蹄鉄で火花を散らす。
庭のベンチでは、セレナが顔を真っ赤にしてクッキーをヤケ食いしながらヤジを飛ばしていた。
「い、言い合ってないで早く始めなさいよ! べ、別にどっちが勝っても私には関係ないんだからね! シャルロットがバラバラに大破すればいいって思ってるだけなんだから!」
その隣で、マリアンヌもドアノブをガタガタと嫉妬の炎で震わせている。
「これより、シャルロット様の『牽引権』を賭けた決闘を執り行います……」
審判台の上で、視線がどこも結んでいないハンスが、白いハンカチを落とした。
「いくぞ! シャルロットオオオ!」
エドワードが猛ダッシュでシャルロットの御者台へ飛び乗り、手綱を引いて自力牽引を開始した。
「ブルルルルッ!(どけエドワード!)」
アレクサンダーが激しく突進する。
「させるか!」
エドワードはシャルロットの右車輪を急旋回させ、ドリフトで回避した。
その瞬間、シャルロットの内装がキュインと嬉しそうにきしんだ。
『あら……エドワード様のそのステップ、悪くないわ……』
「見たかアレクサンダー! シャルロットは僕のテクニックに昂っている!」
アレクサンダーは狂ったように尾毛を振り回し、自慢の美筋をアピールする求愛のステップを踏んだ。
シャルロットの車輪が、一瞬誘惑されたようにアレクサンダーの方へとブレる。
『ああっ、でもあの白銀の筋肉美……惹かれちゃう……!』
「シャルロット、惑わされるな! 彼の繋ぎの角度は45度だが、僕の愛の深さは180度だ!」
エドワードはブレーキを巧みに操作し、アレクサンダーの鼻先をさらにドリフトで掠めていく。
「何よあの男、馬を相手に本気でドリフトなんかして……! ば、馬鹿じゃないの!?」
セレナの顔がさらに真っ赤になった。
ハンスは戦いを見つめながら、静かに懐の遺書にペンを走らせていた。




