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歪んだ輪舞曲(ロンド)〜鉄の処女と白銀の駿馬〜 ――私の婚約者(馬車)が、元婚約者の婚約者(馬)と不倫していました。※乗れません  作者: 山田りく
1章 私の婚約者(馬車)が、元婚約者の婚約者(馬)と不倫していました。

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常識人の頭痛(執事の苦労)

侯爵家に四十年間仕えてきた老執事ハンスは、引き出しから胃薬を取り出していた。


 毎朝鏡を見て『私は狂っていない。狂っているのは世界だ』と呟くのが日課だったが、今朝の事態は彼の強靭な精神力をも限界へ追い込もうとしていた。


 若い御者が、顔を真っ青にして執事室に飛び込んできた。


「ハ、ハンスさん……! 裏庭で、マリアンヌ様が、セレナお嬢様のアレクサンダー様と……がっちり連結(不倫)されています!」


 ハンスはそっとこめかみを押し、無言で裏庭へと向かった。


 そこでは、ギャーギャーと叫び合う2人と1頭と1台の修羅場が広がっていた。


「マリアンヌ! 君というものがありながら!」


「アレクサンダー、浮気よ!」


「勘違いしないでよエドワード!」


「君のために朝帰りしたんじゃない!」


「ブルルルル!(※乗れません)」


 主人の叫び声、馬のいななき、車輪が激しくきしむ音が交錯する真ん中へ、ハンスはすっと背筋を伸ばして進み出た。


 彼の目は完全に据わっていた。


「……皆様、恐れ入ります。お怒りはごもっともでございますが、マリアンヌ様の前車軸に過度な負荷がかかっております。また、アレクサンダー様の蹄が侯爵邸の芝生を荒らしておりますので、不倫の密会および口喧嘩は、一度ホワイトボードのある会議室へ場所を移されてはいかがでしょうか」


 ハンスの放つガチの限界オーラに気圧され、人間2人と1頭と1台は、一瞬だけピタリと動きを止めた。

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