泥沼の密会(人間×人間)
一方その頃、人間たちもまた、倫理の一線を泥沼へと踏み外していた。
子爵邸のバルコニーから、エドワードは夜な夜なセレナの寝室へと忍び込み、激しい口論という名の密会を重ねていた。
セレナはフイと顔を真っ赤にして背を向けつつ、エドワードの前に最高級のクッキーを乱暴に差し出した。
「ちょっとエドワード、また来たの!? 私たちはもう、それぞれ別の伴侶を持つ身なのよ! 勘違いしないでよね、べ、別にあなたに会いたくて起きてたわけじゃないんだから! たまたま紅茶が2人分淹れちゃっただけよ!」
エドワードはツンと顎を突き出し、セレナの前に身を乗り出した。
「ふん、僕だって君に会いに来たわけじゃないさ、セレナ! 僕のトークスキルは、マリアンヌの冷たい本革シートに話しかけるだけでは満足できないんだ! 君のその、アレクサンダーの鬣よりも無駄になめらかな髪に、文句の一つでも言ってやろうと思ってね。……あ、朝まで付き合ってあげてもいいけど!?」
「な、なによその偉そうな態度は! あなたのその激しいマシンガントーク……アレクサンダーの荒々しい背中に乗っている時(※乗れます)と同じくらい、私の平衡感覚を狂わせるんだから! 悔しいけど、退屈しのぎにはなるわね!」
「フッ、あんな家畜のクッション性と僕を一緒にするな。君がどうしてもって言うなら、僕のお抱え御者仕込みの、極上のトーク手綱さばきで朝まで論破してあげるよ。感謝するんだね!」
セレナはクッキーを激しく齧った。
「上等よ! あなたのその、お茶の飲み方からして気に入らないのよ!」
「何だと? 君のその、クッキーの齧り方こそエレガントさに欠ける!」
「管轄外よ! これは王室御用達の焼き菓子よ!」
「おやおや、味の良さと君の咀嚼音の大きさは比例しないようだな!」
「なんですって!? 明日からは塩を撒いてやるわ!」
「受けて立とう。僕は毎晩スコーンを持参する!」
外が白み始め、二人はハッと窓を見た。
「ああ、朝になっちゃったじゃない……! 私たち、なんて背徳的な浮気(口喧嘩)をしているのかしら……!」
「か、勘違いするなよ、セレナ! マリアンヌには、僕が夜通し折りたたみ式幌を開け閉めして遊んでいたと言い訳すればいいだけだ。君のために朝帰りするわけじゃないんだからね!」




