愛の結晶
「パ、パ……マ、マ……っ♪」
光の粒子を淡く散らしながら、きゅーちゃんは二人の顔を愛おしそうに見つめていた。その体はすでに透き通り、今にも夜風に溶けてしまいそうだった。
そして、最後に二人へ向かって、心の底からの感謝を込めて——
「パパ……ママ……ありが……とう……っ♪」
「「……っ!?」」
二人が息を呑んだ瞬間、きゅーちゃんの体はまばゆい光の粒となって弾け、夜の部屋を優しく包み込んだ。
そして、静かに空へと溶けて消えていった。
あとに残されたのは、先端の宝石が完全に砕け散った、古びた一本の杖だけだった。
「きゅー……ちゃん……」
ゼツは力なく膝をつき、呆然と天井を見上げていた。
涙でボロボロの顔をぬぐいもせず、ぽつりと呟く。
「……なぁ、リーン。どういうことなんだ……? なんであの子は、最後に僕たちのことを『パパ』『ママ』って呼んだんだ……?」
あまりの出来事に思考が追いつかないゼツに、リーンは目元の涙をそっと拭い、静かに口を開いた。
「……あの子はね、ただの擬似精霊だったのよ」
「擬似……精霊……?」
「そう。あの杖の術式は、二人以上のマナが重なることで初めて起動する仕掛けだったの。……あの夜、あなたのマナで溢れてた杖に、私がほんの少しマナを足したでしょ? あなたの熱く膨大なマナと、私の繊細なマナ……その二つが奇跡的に混ざり合って生まれたのが、きゅーちゃんだったのよ」
「……二人のマナが……混ざり合って……?」
ゼツはハッとしたように目を丸くし、自分の手と、リーンの顔を交互に見つめた。
そして、何かがカチリと音を立てて繋がったような顔になり——
「……つまり!!」
ゼツはバンッと力強く立ち上がり、涙を吹き飛ばして叫んだ!
「あの子は!! 僕とリーンの『愛の結晶』だったということかーーーーっ!?」
「はあぁぁぁぁぁっ!???」
静かな部屋に、リーンの叫び声が響き渡る。
「な、ななな何言ってるのよこのバカゼツはーっ!! 『マナが混ざった』って言ったでしょ!? 変な言い方しないで!!」
リーンの顔は一瞬で耳の先まで真っ赤に染まり、頭から湯気が出そうなほど取り乱している。
しかし、ゼツは真剣そのものの表情で言葉を重ねた。
「ふたりのマナが合わさり、ひとつの命(擬似精霊)を育み、最後に僕たちを『パパ』『ママ』と呼んだ……! これを『愛の結晶』と言わずしてなんと言うのだリーン! つまり僕たちは、実質的にもう夫婦も同然……いや!」
ゼツはビシッと真っ直ぐにリーンを指差し、感動に満ちた真剣な眼差しで言いのけた。
「よし、結婚しよう!!」
いつものように「バカ言わないでよ!」と怒鳴り散らすか、拳が飛んでくると思っていた。
しかし――
「……っ」
リーンは顔を真っ赤に染めたまま、俯いてギュッと唇を噛み締めた。その手はかすかに震えている。
「……リーン?」
「……嬉しい」
「え……?」
思いがけない小さな呟きに、ゼツは目を丸くした。
「嬉しいわよ、ゼツ。……でも、ダメ」
リーンはゆっくりと顔を上げた。その瞳には、誤魔化しのない真剣な光が宿っていた。
「私は……ちゃんと『納得できる言葉』を聞きたい。精霊の愛の延長とか、勢いとかじゃなくて……あなたの本当の言葉を」
真摯なリーンの眼差しに射抜かれ、ゼツは息を呑む。
部屋を包む静寂の中、二人の止まっていた時間が、静かに動き出そうとしていた――。




