増えていく日常
「……ゼツ、ちょっと買いすぎじゃない?」
宿屋への帰り道。両手に大量の荷物を抱えて青息吐息のゼツを見上げ、リーンが半眼で呆れていた。
「何を……言うんだリーン……! これらはすべて、きゅーちゃんとの快適な旅生活に必要な『至高の逸品』たちだぞ……!」
ゼツの腕からはみ出しているのは、高級シルクで仕立てられた手のひらサイズのミニクッション、精霊用の最高級磨き布、そして謎の特製ミニチュア家具セットだった。
「クッションは分かるとして、そのミニチュアの椅子とテーブルは何なのよ。どこで使うの」
「宿屋のテーブルの上にセットするんだよ! これできゅーちゃんも、僕たちと同じように食卓を囲むことができるじゃないか!」
「……発想が完全に過保護な親なのよ」
「きゅ~♪」
当のきゅーちゃんは、ゼツが抱えるミニクッションの上にちょこんと乗り、乗り心地を確かめるようにぷよぷよと弾んでいる。どうやらかなりお気に入りのご様子だ。
「ほら見ろ! きゅーちゃんも大満足している! 買って正解だったんだ!」
「はいはい。で、その大量の荷物のせいで前が見えてないのはどうするつもり?」
「ぬ……っ!? 確かに視界の八割がクッションで遮られている……! だが僕は精霊愛好家、これくらいの障害など愛の力で——ぐはっ!?」
「言わんこっちゃない」
盛大に街道の段差につまずき、前のめりに倒れかけるゼツ。
しかし間一髪、リーンがゼツの襟首をひっ掴み、きゅーちゃんが「きゅーっ!」と風を起こすようにゼツの背中を押し戻したことで、絶妙なバランスで体勢を立て直した。
「ふぅ……間一髪だったな……!」
「私の迅速なカバーときゅーちゃんのナイスアシストのおかげでしょ。お礼の一言もないわけ?」
「感謝するよ、二人とも! さすが僕の自慢のパーティーだ!」
「私はパーティーというより保護者だけどね」
軽口を叩き合いながら、三人で並んで夕暮れの街を歩く。
ふとゼツは、自分の鞄や懐に、きゅーちゃんのための小道具やリーンに買い出させられた食料が増えていることに気づいた。ひと月前までは、自分一人分のスカスカな荷物と、怪しい魔導具だけを詰め込んで歩いていた道だ。
「……どうかしたの、ゼツ? 急に立ち止まって」
「ん? いや……なんでもないよ」
前を歩くリーンと、その頭の上で夕日を浴びて黄金色に光るきゅーちゃん。
一人で空回りしていた頃には想像もつかなかった、少し賑やかで、少し騒がしい日常。増えていく荷物の重みが、どこか誇らしく、そして愛おしく思えた。
「ほら、早く行かないと宿屋の夕飯に遅れるわよ!」
「きゅ~♪」
「待っておくれ! 僕の足取りは、いま感動で少し重くなっているんだ……!」
「ただ荷物が重いだけでしょ! ほら、しゃきっと歩く!」
夕闇が迫る街の中に、二人の掛け合いときゅーちゃんの無邪気な鳴き声が、どこまでも心地よく響いていた。




