三人
「よし……! 行こうか、きゅーちゃん!」
翌朝、ゼツは宿屋の部屋でビシッと旅装を整え、両拳を握りしめた。
「今日は僕ときゅーちゃんの『ふたりきり』で街の散策だ! 絆を深めるための大切な第一歩……いざ出発!」
「はいはい、いってらっしゃい。迷子にならないでね」
ベッドで優雅に朝の紅茶を飲んでいたリーンは、手をひらひらと振って送り出そうとする。ゼツはきゅーちゃんを肩に乗せ、満足げに部屋のドアを開けた。
「……ん? どうしたんだい、きゅーちゃん?」
ドアを出ようとした瞬間、きゅーちゃんが「きゅーっ!」と強く鳴き、ゼツの服の袖をグイグイと引っ張り始めた。目的地は外ではなく――紅茶を飲んでいるリーンの元だ。
きゅーちゃんはリーンの肩へ移動すると、ゼツに向かって「きゅ♪」と一鳴きし、リーンを指し示すように(丸い体で)アピールして動かなくなってしまった。
「……なんで?」
ゼツの口から、心底ショックそうな素朴な疑問が漏れ出る。
「僕とふたりでお出かけじゃダメかい……? リーンはお留守番でいいんだよ……?」
「きゅーッ!(首を振るような仕草)」
「……どうやら私を連れて行きたいみたいね」
リーンはカップを置くと、くすりと笑って立ち上がった。きゅーちゃんは嬉しそうに「きゅ〜♪」と鳴き、リーンの髪の中に収まる。
「くっ……! 悔しいが、きゅーちゃんがそこまで言うなら仕方ない……。リーン、君も同行を許可しよう!」
「上から目線ね。ついて行ってあげる立場なんですけど」
こうして、ゼツの思惑とは異なり、三人(二人+一匹)で街へ繰り出すことになった。
最初のうちは「本当はふたりで水入らずの絆を育むはずだったのに……」と、ゼツは少し不満そうに眉をひそめて歩いていた。
だが、賑やかな露店街を進むうちに、その空気は変わっていく。
「ゼツ、前! カート来るわよ!」
「うわっ!? あ、ありがとうリーン!」
「ほら、きゅーちゃんあれ見て。綺麗なお花があるわよ」
「きゅ〜♪ きゅ♪」
きゅーちゃんはリーンの肩の上で心底楽しそうに弾み、時折ゼツの顔の周りを嬉しそうにくるくると飛び回る。ゼツが危ない目に行きそうになればリーンが呆れつつ引き戻し、三人で笑い合いながら露店を巡る。
ふたりだけだったら、自分が空回りしてきゅーちゃんを困惑させていたかもしれない。でも、ここにリーンがいるだけで、驚くほど自然に、賑やかで温かい時間が流れていた。
(……なんでだろ)
ゼツは、前を歩くリーンときゅーちゃんの楽しそうな後ろ姿を眺め、ふっと表情を緩めた。
最初は少し不満だった。自分ときゅーちゃんだけの特別な時間にしたかった。
だけど――
(……まあ、悪くないな)
一人と一匹より、二人と一匹。この三人で歩く街の景色の方が、ずっと鮮やかで楽しいと、ゼツは静かに噛み締めるのだった。




