怪しい商人の怪しい杖
「いらっしゃい、そこのお兄さん! 精霊好きの魔術士とお見受けした!」
依頼の帰り道、露店街の怪しい路地裏で、ボロボロのフードを被った商人がゼツに声をかけてきた。
「……すまないが商人さん、通り過ぎさせておくれ。僕は今、見えぬ精霊への愛をどうやって表現すべきか真剣に悩んでいる最中なんだ」
「ふふふ……これを見ても、そう言っていられますかな?」
商人が恭しく取り出したのは、先端に濁った怪しげな石が嵌め込まれた、古びた木切れのような杖だった。
「これは古の精霊使いが遺した秘宝……その名も『精霊可視化の杖』! これさえあれば、どんなに精霊が見えない人間でも、目の前に精霊を呼び出し、その姿を拝むことができるのです!」
「……はぁ。悪いが商人さん、その手の謳い文句には散々騙されてきたんだ。いらないよ」
ゼツは露骨に嫌そうな顔をして、素っ気なく手を振った。
「なっ……!? 興味を示さない……!?」
「当たり前だろ。今まで『精霊が見えるメガネ』や『精霊を呼ぶ笛』にどれだけ授業料を払ってきたと思ってるんだ。全部ただのガラス玉とポッポ笛だったよ。僕はもう、安易な甘言には乗らないと心に決めたんだ」
「えらいわゼツ! ついに学習したのね!」
隣でリーンが感心したように頷く。だが、ふと彼女の視線が商人の持つ杖の先端――その濁った石に留まった。
「……? ちょっと待って」
リーンが眉をひそめ、杖に顔を近づける。
「……これ、ただのインチキ露店商品とはちょっと違う? 確かにマナはスカスカだし、今にも砕けそうなガラクタだけど……かすかに、すごく古い精霊術の『器』の術式が残ってるような……」
「えっ……? リーン、君はいま何と言ったんだ?」
ゼツの耳がピクッと跳ねる。
「いや、本物の『精霊を呼ぶ道具』とは言えないわよ? ほぼ死んでる道具だし。でも、世の中の9割9分を占める完全な詐欺商品とは、ちょっとだけ構造が違うというか……」
「流石!お嬢さん、お目が高い!! そう、これぞまさに伝承の遺物!!」
リーンの呟きを聞き逃さなかった商人が、好機とばかりに目を見開いてゼツに猛烈に畳み掛け始めた!
「お聞きになりましたかお客さん! そちらの本物の精霊術師のお嬢さんが認めたのですよ! 壊れかけてはいるが『本物の器』だと! 現代の偽物技術では絶対に再現不可能な、古代の精霊可視化技術の結晶だと!」
「り、リーンが認めた……!? あの精霊術の天才であるリーンが……!?」
ゼツの目がみるみる輝き出し、鼻息が荒くなっていく。
「さあお兄さん! この失われた古代技術を解き明かし、愛しい精霊と対面できるのは、そちらのお嬢さんを相棒に持つあなたしかいない! 今ならなんと、勉強して金貨3枚! いかがです!!」
「買う!! 買うぞ商人さん!! 僕の全財産を注ぎ込んでも惜しくない!!」
「ちょ、ちょっとゼツ!? 私は『器の構造が珍しい』って言っただけで、使えるとは言ってないわよ!?」
「毎度ありーーーっ!!」
お金と引き換えに杖をひったくるように受け取ったゼツは大歓喜。商人は「へへっ」と悪い顔でせしめた金を懐に押し込むと、闇の中へ消えていった。
「ふふふ……ついに、ついに本物の足がかりを掴んだぞ、リーン!」
「……あーもう! 私が余計なこと言ったから……! 使える保証なんて全然ないんだからね!?」
頭を抱えるリーンだったが、少女のように無邪気に宝物を抱きしめるゼツの姿に、結局強くは怒りきれないのだった。




