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歪んだ輪舞曲(ロンド)〜鉄の処女と白銀の駿馬〜 ――私の婚約者(馬車)が、元婚約者の婚約者(馬)と不倫していました。※乗れません  作者: 山田りく
3章 金綿(かなわた)夫妻の、愛しの浮気相手

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本当に隠していたこと

 嵐の去ったリビングには、ただただ重い脱力感だけが残されていた。


 テーブルの上には、くまのぬいぐるみと、ロボットのプラモデルが仲良く並んでいる。翔太と美穂は、それぞれ椅子に深く腰掛けたまま、長い間沈黙していた。顔を合わせるのが、あまりにも気まずかった。

 先にぽつりと呟いたのは、翔太だった。


「……なんで、マークなんだよ」


「……違うわよ……マーク3よ……スリーとかサードとか、可愛くないじゃない。さんって呼んだ方が可愛いから、子供の時からマークさんなのよ」


 美穂が膝の上の拳を握りしめ、消え入りそうな声で答えた。それを聞いた翔太の口から、乾いた笑いが漏れる。


「そうか。……男じゃ、なかったんだな」


「当たり前でしょう。……そっちこそ何よ。ぽんちゃんって、その古くまじゃない。私、本気で別の女の人がいるんだと思って、本当に、怖かったんだから」


 美穂の瞳から、今度は怒りではない、本当の涙が溢れ落ちた。翔太はその涙を見て、胸が締め付けられるような痛みを覚えた。


「すまない。美穂を不安にさせるつもりはなかったんだ。ただ……お前が最近、ずっと冷たい態度に見えて。肉じゃがの味だって、急にすごく薄くなっただろ。俺のこと、もうどうでもよくなったのかと思って、怖くて直接聞けなかったんだ。だから、ぽんちゃんに寂しさを零すしかなくて……」


「……何言ってるのよ」


 美穂は涙を拭い、呆れたように翔太を見た。


「減塩よ。あなたの毎年の健康診断の結果が悪くなっていくから、少しでも長く一緒に元気でいたくて、必死で塩分を計算して作ってたのよ。食べてる時も、不満そうな顔ばっかりするから、私も怖くて顔が見られなくなって……。面と向かって怒って嫌われるのが嫌で、マークさんに愚痴を言うしか、居場所がなかったのよ」


「美穂……」


「お互いに、本当にバカね」


 美穂の言葉に、翔太はゆっくりと頷いた。

 平和主義という名の事なりゆき主義。相手を大切に想い、嫌われたくないと恐れるがあまり、一番大切な言葉を飲み込み続けていた数年間。その結果が、この盛大なすれ違いの喜劇だった。


 テーブルの上で、ぽんちゃんとマークさんが、じっと二人を見守るように佇んでいる。


 張り詰めていた冷戦の糸は完全に切れ、金綿夫妻の間に、今までになく静かで、お互いの本当の体温が伝わるような、本当の夜が訪れようとしていた。

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