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歪んだ輪舞曲(ロンド)〜鉄の処女と白銀の駿馬〜 ――私の婚約者(馬車)が、元婚約者の婚約者(馬)と不倫していました。※乗れません  作者: 山田りく
3章 金綿(かなわた)夫妻の、愛しの浮気相手

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愛しの浮気相手の御開帳

「そこまで言うなら、今すぐここに連れてきて見せなさいよ!」


 美穂が声を荒らげ、リビングを飛び出していった。廊下をドタドタと走る足音が聞こえる。


「ああ、望むところだ! こっちだって白黒つけてやる!」


 翔太もまた、怒りに任せて自室へと引き返した。クローゼットを開け、奥の暗闇から相棒を乱暴に引っ張り出す。


 お互いに、相手の嘘を完全に暴くための「決定的な証拠」をその手に握りしめていた。


 リビングのドアが同時に開いた。

 翔太と美穂は、それぞれの手にあるものを、テーブルの真ん中へ向かって同時に突きつけた。


「これが、私のマークさんよ!!」

「これが、俺のぽんちゃんだ!!」


 ドン、と鈍い音が二つ、テーブルの上に響いた。

 翔太の前に突きつけられたのは、全身を藍色のプラスチック装甲で固めた、関節の緩みきったロボットのプラモデルだった。シールの剥げかかった無機質なモノアイが、リビングの蛍光灯を反射している。


 美穂の前に突きつけられたのは、長年の愛玩のせいで綿が偏り、首が妙な角度に傾いた、薄汚れたくまのぬいぐるみだった。丸いプラスチックの瞳が、所在なげに美穂を見つめている。


 リビングに、水を打ったような静寂が訪れた。


 翔太は、テーブルの上のロボットを凝視したまま動かない。

 美穂は、テーブルの上のぬいぐるみを凝視したまま動かない。


 時計の針の音だけが、やけに大きく部屋に響き渡る。


「……は?」

 美穂の口から、乾いた声が漏れた。


「え……?」

 翔太の口からも、間の抜けた声が漏れた。


 翔太の視線が、ロボットから美穂の顔へと動く。美穂の視線もまた、ぬいぐるみから翔太の顔へと動く。お互いの顔に浮かんでいるのは、怒りでも絶望でもない。ただただ、言葉を完全に失った人間の、圧倒的な困惑だけだった。


「これが……マーク?」

 翔太が、掠れた声でロボットを指差した。


「これが……ぽんちゃん?」

 美穂が、震える声でぬいぐるみを指差した。


 二人が命をかけて奪い合おうとしていた、相手を裏切る不貞の象徴。


 それが今、リビングのテーブルの真ん中で、ただの古びた無機物として、仲良く二つ並んでいた。

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