愛しの浮気相手の御開帳
「そこまで言うなら、今すぐここに連れてきて見せなさいよ!」
美穂が声を荒らげ、リビングを飛び出していった。廊下をドタドタと走る足音が聞こえる。
「ああ、望むところだ! こっちだって白黒つけてやる!」
翔太もまた、怒りに任せて自室へと引き返した。クローゼットを開け、奥の暗闇から相棒を乱暴に引っ張り出す。
お互いに、相手の嘘を完全に暴くための「決定的な証拠」をその手に握りしめていた。
リビングのドアが同時に開いた。
翔太と美穂は、それぞれの手にあるものを、テーブルの真ん中へ向かって同時に突きつけた。
「これが、私のマークさんよ!!」
「これが、俺のぽんちゃんだ!!」
ドン、と鈍い音が二つ、テーブルの上に響いた。
翔太の前に突きつけられたのは、全身を藍色のプラスチック装甲で固めた、関節の緩みきったロボットのプラモデルだった。シールの剥げかかった無機質なモノアイが、リビングの蛍光灯を反射している。
美穂の前に突きつけられたのは、長年の愛玩のせいで綿が偏り、首が妙な角度に傾いた、薄汚れたくまのぬいぐるみだった。丸いプラスチックの瞳が、所在なげに美穂を見つめている。
リビングに、水を打ったような静寂が訪れた。
翔太は、テーブルの上のロボットを凝視したまま動かない。
美穂は、テーブルの上のぬいぐるみを凝視したまま動かない。
時計の針の音だけが、やけに大きく部屋に響き渡る。
「……は?」
美穂の口から、乾いた声が漏れた。
「え……?」
翔太の口からも、間の抜けた声が漏れた。
翔太の視線が、ロボットから美穂の顔へと動く。美穂の視線もまた、ぬいぐるみから翔太の顔へと動く。お互いの顔に浮かんでいるのは、怒りでも絶望でもない。ただただ、言葉を完全に失った人間の、圧倒的な困惑だけだった。
「これが……マーク?」
翔太が、掠れた声でロボットを指差した。
「これが……ぽんちゃん?」
美穂が、震える声でぬいぐるみを指差した。
二人が命をかけて奪い合おうとしていた、相手を裏切る不貞の象徴。
それが今、リビングのテーブルの真ん中で、ただの古びた無機物として、仲良く二つ並んでいた。




