泥沼の四角関係
駆け寄ったエドワードは、マリアンヌの車輪の前に立ち塞がり、怒りで肩を震わせた。
「マリアンヌ! 君のその熱を持った制動装置は何だ! なぜ他人の、しかも元婚約者の馬の胸繋から伸びた曳き綱が、君のシャフト(引棒)にがっちり結ばれているんだ! これは不倫だ!」
エドワードの詰問に、マリアンヌのドアノブがカタカタと拒絶の音を立てた。そして、彼女の冷徹な声がエドワードの脳内に直接響き渡る。
『……ふん。あなたに私を責める資格なんてあるのかしら、エドワード? あなたが毎週水曜の夜、私を暗い厩舎に放置して、セレナ様の寝室のバルコニーへこそこそ通っているのを私は知っているのよ!』
エドワードの膝がガタガタと震えだした。
「うっ……! そ、それは……!」
『あなたがセレナ様の髪に触れている間、私のフェンダー(泥除け)がどれほど孤独に錆びついていたか! 私を救ってくれたのは、アレクサンダーの美しく整えられた鬣だけよ!』
「ブルルルル(その通りだ! お前がマリアンヌの座席クッションをまともに手入れしないから、俺が代わりに彼女のシャーシを支えてやったんだ!)」
アレクサンダーが激しく蹄鉄で地面を叩き、エドワードを威嚇する。
「そこまでよ、エドワード!」
藪をバリバリとかき分け、ドレスの裾を泥だらけにしてセレナが飛び出してきた。
「セレナ!?」
「アレクサンダー! あなた、私という純血のパートナーがいながら、こんな鉄と木材の混血種の女と交わる(引かれる)なんて! 私の施してあげた尾毛の編み込みは、この女を誘惑するためだったの!?」
『あらセレナ様、身の程をわきまえなさい。あなたのその貧弱な体幹では、アレクサンダーの荒々しい背中を受け止めきれなかった。だから彼は、私の広々とした客室という器を求めたのよ!』
セレナの顔が怒りで真っ赤に染まる。
「なんですって!? この、潤滑油臭い売女が!」
「僕のマリアンヌを侮辱するな、セレナ!」
エドワードがセレナの前に立ち塞がった。
「君こそ、アレクサンダーの繋ぎばかり見て、僕の磨き上げた真鍮製ランプには一度も目を向けてくれなかったじゃないか!」
「それはあなたが、私の前でマリアンヌの折りたたみ式幌を開け閉めして見せびらかすからよ! 当てつけのつもり!?」
「ブルルルル!(俺の背中に乗るがいい、マリアンヌ! ※乗れません)」
『そうよ! 私、もうアレクサンダーの首の美筋と、あの圧倒的な馬力なしでは、1ヤードも進めない身体になってしまったの!』




