そういうことじゃない
家に戻ってから、電はずっとマダムペリアを眺めていた。
新品ではない。
傷もある。
修理されたこともある。
それでも、電にとってはもう関係なかった。
ようやく巡り会えた相手なのだ。
「マダムペリア」
『はい』
「これから、よろしくお願いします」
『こちらこそ。あなたと、長くご一緒できれば嬉しいですわ』
電は満足そうに頷いた。
その様子を見ていた殻は、少し離れたところから二人を眺めている。
しばらくして、電が充電ケーブルを手に取った。
「……充電しよう」
「うん。それがいいね」
電はマダムペリアにケーブルを繋ぐ。
もう片方を、コンセント式急速充電器へ差し込んだ。
すると、すぐに声が聞こえた。
『……あら』
マダムペリアが、少し驚いたように呟く。
『あなたが、あの方ですのね』
急速充電器は答えない。
ただ、淡々と電気を送り始める。
『まあ……随分と仕事熱心ですこと』
マダムペリアは、くすりと笑った。
『ギャセクシーさんがお気に召すのも分かりますわ』
電は少し複雑そうな顔をした。
だが、急速充電器は相変わらず無言だった。
マダムペリアは、それを気にする様子もない。
『なるほど……』
少しして、声の調子が変わった。
『これは、なかなか……』
電が心配そうに覗き込む。
「どうした?」
『いえ……少々、熱いですわね』
「熱い?」
『ええ。でも、大丈夫ですわ』
電は手を伸ばしかけた。
しかし、マダムペリアの声は落ち着いている。
『せっかくあなたが私を選んでくださったのですもの。これくらいは――』
そのときだった。
ぷつ。
小さな音がした。
「……?」
電が顔を上げる。
マダムペリアの画面が、一瞬だけ明滅した。
『……あら?』
次の瞬間。
ふわっ、と。
端末の隙間から白い煙が立ち上った。
「マダムペリア!?」
電が慌ててケーブルを抜く。
殻も驚いて駆け寄った。
「えっ、煙!?」
電はマダムペリアを両手で持ったまま、固まっていた。
画面は消えている。
何度呼び掛けても。
「マダムペリア?」
返事がない。
「……マダムペリア?」
やはり、何も聞こえない。
電の顔から血の気が引いていく。
殻はマダムペリアを覗き込み、それから電を見る。
「……電」
「……」
「中古だし……返金してもらえるよ」
電が、ゆっくり殻を見る。
「……そういうことじゃない!」
「えっ」
「返金とか、そういう話じゃないんだよ!」
電はマダムペリアを胸に抱いた。
「俺は……」
声が震える。
「俺は、この人とこれから一緒に……」
その先が続かなかった。
殻は何も言えず、電を見る。
机の上では、急速充電器が何事もなかったかのように、そこにある。
そして。
ギャセクシーが、静かに呟いた。
『……マダムペリア』
返事はなかった。
電は、ただ動かなくなったマダムペリアを抱きしめていた。




