やっぱり、君が好きだ
部屋は静かだった。
机の上には、もう動かないマダムペリアが置かれている。
電は、その前に座ったまま、何も言わなかった。
何度呼び掛けても、返事はない。
それでも、しばらく待っていた。
「……マダムペリア」
返事はない。
電はそっと手を伸ばし、その筐体を撫でた。
「短かったな」
声が掠れていた。
「せっかく会えたのに」
殻は、少し離れたところで電を見ていた。
何と言えばいいのか分からない。
中古スマホが壊れただけだと言えばいいのか。
返金できると、もう一度教えてあげればいいのか。
けれど、今の電にそんな言葉が届かないことくらいは分かった。
電はマダムペリアを持ち上げる。
「……ありがとう」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
「俺、君に会えてよかった」
その言葉を最後に、電は俯いた。
殻は、そんな電をしばらく見ていた。
そして。
「……電」
「ん?」
「こっち来て」
「え?」
殻は答えず、電の腕を引いた。
そして、そのまま胸元へ抱き寄せる。
「……」
電の身体が固まった。
殻自身も、どうしてこんなことをしているのか分かっていないようだった。
ただ。
今の電を、一人にしてはいけない。
それだけだった。
「……大丈夫だから」
殻の手が、電の背中をゆっくり撫でる。
「うん……」
「辛かったね」
「……うん」
電は、殻の肩に額を預けた。
何も言わず、そのままでいる。
しばらくすると。
電の表情が、ほんの少しだけ緩んだ。
「……あったかい」
「そりゃ、人間だからね」
殻は困ったように笑った。
電は目を閉じた。
腕の中にある温もり。
規格もない。
容量もない。
急速充電にも対応していない。
けれど。
今、自分を温めてくれている。
電はゆっくり顔を上げた。
目の前に、殻の顔がある。
近い。
思わず、殻も電を見る。
しばらく、二人とも動かなかった。
電の胸が、少しだけ高鳴る。
「……殻ちゃん」
「なに?」
「俺」
電は、まっすぐ殻を見た。
「やっぱり、殻ちゃんが好きだ!」
殻の目が丸くなる。
それから。
ゆっくりと、唇が開いた。
「……なんか、やだ」
「……」
電は固まった。
そして。
「……そりゃそうか」
殻も、吹き出した。
「ふふっ」
「はは……」
二人の間から、少しずつ笑い声がこぼれていく。
抱き合ったまま。
泣いた後の、少しだけ変な笑いだった。
しばらくして、殻が小さく呟く。
「……でも」
「ん?」
「元気になった?」
電は少し考えてから答えた。
「……ちょっとだけ」
「そっか」
殻は電の背中を、もう一度ぽんと叩いた。
机の上には、動かなくなったマダムペリア。
その隣には、ギャセクシー。
そして壁には、コンセント式急速充電器。
奇妙な恋愛劇の終わりに残ったのは。
結局、二人の人間だった。




