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歪んだ輪舞曲(ロンド)〜鉄の処女と白銀の駿馬〜 ――私の婚約者(馬車)が、元婚約者の婚約者(馬)と不倫していました。※乗れません  作者: 山田りく
2章 私の恋人(スマホ)が、モバイルバッテリーと浮気して急速充電器に乗り換えました。

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運命の出会い


 店内には、整然と中古スマホが並んでいた。


 ガラスケースの中には、少し前の機種から、まだ現役で使えそうなものまで、さまざまな端末が並んでいる。


 殻は、店内を歩きながら何となく商品を眺めていた。


 その後ろを、電がついてくる。


 いつもの勢いはない。


 急速充電器との一件以来、すっかり傷心していた。


「ねえ、電」


「……何?」


「せっかく外に出たんだから、少し元気出しなよ」


「無理だよ」


 電は力なく答えた。


「俺には、あいつみたいな男の器がない」


「だから、何の話なの……」


 殻はため息をついた。


 電は返事をせず、ガラスケースの中を眺めていた。


 新品のスマホが並んでいるわけではない。


 どれも誰かの手に渡り、使われてきたものだ。


「……中古か」


 電が呟く。


「そうだね」


「俺には無理だな」


 その言葉に、殻は少しだけ呆れた。


「まだ新品にこだわってるの?」


「だって、新品はやっぱりいいだろ」


 電はケースの中の端末を眺めながら答えた。


 傷がない。


 誰にも使われていない。


 それだけで、電には魅力的に映る。


 殻が何か言おうとした、そのときだった。


「……ん?」


 電の足が止まった。


 視線の先に、一台のスマートフォンがあった。


 他の端末とは、どこか雰囲気が違う。


 少し古い。


 けれど、丁寧に扱われてきたことが分かる。


 外装には細かな使用感がある。


 それなのに、不思議とくたびれて見えない。


「……綺麗だ」


 電がガラス越しに見つめる。


 殻も隣から覗き込んだ。


「それ?」


「うん」


 値札を見る。


 そこには、中古品であることを示す表示と、修理履歴についての記載があった。


「結構、使い込まれてるね」


 殻が言う。


「……そうだな」


 電は目を離さなかった。


 そのとき。


『……まあ』


 声がした。


 電の目が見開かれる。


『そんなに見つめられると、少し恥ずかしいわ』


「……え?」


 殻が振り返る。


「どうしたの?」


 電は答えなかった。


 今の声は。


 ギャセクシーとは違う。


 もっと落ち着いていて、柔らかい。


 どこか余裕がある。


『私に、何かご用かしら?』


 電は、ゆっくりとガラスケースへ顔を近づけた。


「……君?」


『ふふ。やっと気づいてくださったのね』


「名前は?」


『名前?』


 少しだけ間があった。


『そうね……店員さんが付けてくださった名前はあるけれど』


 声が、少しだけ笑う。


『あなたには……マダムペリアと呼んでいただこうかしら』


「マダム……ペリア」


『ええ』


 電は呆然と、その端末を見つめていた。


 古い。


 中古だ。


 修理された跡まである。


 なのに。


 なぜだろう。


 目の前の彼女には、それらすべてが妙に似合っていた。


「……素敵だ」


『まあ』


 マダムペリアの声が、少しだけ弾んだ。


『そんなに素直に言われると、困ってしまうわ』


「いや、本当に……」


 電はガラスケースに手を添えた。


「君、すごく綺麗だ」


『ありがとう』


 その返事には、派手さはなかった。


 けれど、長い時間を過ごしてきた者だけが持つような、静かな色気があった。


『でも、私は新品ではありませんよ?』


 電の手が止まる。


 それは、まるでこちらの心を見透かしたような言葉だった。


「……分かってる」


『それでも?』


「……うん」


 電は、自分でも驚くほど素直に答えた。


「それでも、君がいい」


 隣で殻が目を丸くした。


「……電?」


 電には聞こえていない。


 目の前の一台だけを見ている。


 マダムペリアは、しばらく何も言わなかった。


 やがて。


『……困った人ね』


 その声は、どこか嬉しそうだった。


『そんなことを言われたら……私も、あなたのことを知りたくなってしまうじゃない』


 電の胸が、大きく鳴った。


 そして殻は。


「……何で中古スマホ相手に口説いてるの?」


 誰にも聞こえない声で呟いた。

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