初めての充電
一本のケーブルが、二人を繋いでいた。
机の上で、ギャセクシーは静かにその感覚を味わっていた。
ついさっきまで、残量は2%だった。
もう少し放っておけば、画面が消え、何もできなくなる。
電が戻ってくるまでの間くらいは大丈夫だろうと思っていた。
けれど。
今は違う。
充電端子から、少しずつ何かが入ってくる。
それは目に見えるものではない。
けれど、確かに感じる。
身体の奥へ、ゆっくりと力が満ちていくような感覚。
『……あ』
ギャセクシーの画面が明るくなる。
2%だった数字が、3%へ変わった。
たった1%。
それだけなのに、ギャセクシーには、それがひどく大きなことのように思えた。
自分の中に何かが戻ってくる。
さっきまで感じていた心細さが、少しずつ薄れていく。
その変化を、繋がった相手も感じ取っているのだろうか。
ケーブルの向こうにいるモバイルバッテリーは、何も言わずに電気を送り続けている。
白い身体には可愛らしいシールが貼られている。
殻が大切に使っているものだ。
容量は5000mAh。
最大22.5W。
普段なら、ただの数字だった。
けれど今は、その数字の一つ一つが妙に頼もしく見える。
4%。
5%。
ギャセクシーの中へ、また少しずつ力が満ちていく。
『……すごい』
その声に、モバイルバッテリーがわずかに反応した。
「大丈夫?」
ギャセクシーは少しだけ間を置いてから答えた。
『うん』
短い言葉だった。
けれど、その声には先ほどまでの不安がなかった。
むしろ、もっとこのままでいたいという気持ちが滲んでいる。
モバイルバッテリーは、それ以上何も尋ねなかった。
ただ、繋がったまま、必要なだけの電気を送り続ける。
6%。
7%。
8%。
数字が増えるたび、ギャセクシーの中に余裕が生まれていく。
画面を点けることができる。
電からの通知を受け取ることができる。
いつものように動くことができる。
当たり前だったことが、今は嬉しかった。
そして、その当たり前を取り戻してくれた相手が、すぐそばにいる。
ケーブル一本。
それだけの繋がりなのに、不思議なくらい近く感じる。
『ねえ』
「なに?」
ギャセクシーは、少しだけ迷った。
『まだ、ある?』
「あるよ」
その答えを聞いて、ギャセクシーは安心した。
まだ大丈夫。
まだ繋がっていられる。
そのことが、どうしようもなく嬉しかった。
9%。
10%。
モバイルバッテリーの残量は、そのぶん少しずつ減っている。
自分の中にあったものを分け与えているのだから、当然だった。
それでも、モバイルバッテリーは惜しむ様子を見せない。
ギャセクシーも、そのことに気づいていた。
だからこそ、少しだけ申し訳なくなる。
『……あなたは、大丈夫?』
「僕はまだ平気だよ」
『本当に?』
「うん」
また、電気が流れる。
ギャセクシーは、その感覚を静かに受け止めた。
さっきまで2%だった身体が、今は10%を超えている。
もう、すぐに消えてしまう心配はない。
それなのに。
ギャセクシーは、ケーブルが外れることを考えた。
充電が終われば、この繋がりも終わる。
当たり前のことだった。
充電器なのだから。
必要な分だけ与えて、役目を終えれば離れる。
それでいい。
それが普通だ。
それなのに、なぜか。
離れることを考えると、少し寂しかった。
ギャセクシーは、繋がったケーブルを意識するように画面を淡く光らせた。
『……もう少しだけ』
「うん」
モバイルバッテリーは、それだけ答えた。
それ以上は何も言わない。
ただ、もう一度、電気を送り込む。
11%。
12%。
数字がゆっくりと増えていく。
その一つ一つが、二人の間に積み重なっていく時間のようだった。
ギャセクシーは思う。
こんなふうに誰かと繋がるのは、悪くない。
むしろ。
ずっと、このままでいたい。
そんな気持ちが、少しずつ大きくなっていた。
『ねえ』
「なに?」
『私……あなたのこと、好きかもしれない』
モバイルバッテリーからの返事は、すぐには返ってこなかった。
ケーブルの中を電気だけが流れ続ける。
やがて。
「……僕も」
それだけだった。
けれど、それで十分だった。
ギャセクシーの画面が、嬉しそうに明るくなる。
そしてまた、数字が一つ増える。
13%。
14%。
まだ充電は終わらない。
二人を繋ぐケーブルも、外れない。
だから今は。
このままでいい。
ギャセクシーは、そう思った。




