↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歪んだ輪舞曲(ロンド)〜鉄の処女と白銀の駿馬〜 ――私の婚約者(馬車)が、元婚約者の婚約者(馬)と不倫していました。※乗れません  作者: 山田りく
2章 私の恋人(スマホ)が、モバイルバッテリーと浮気して急速充電器に乗り換えました。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/61

新品はやっぱりいい


 翌日の放課後。

 電が帰り支度を終えて教室を出ようとすると、廊下側の壁にもたれていた殻が顔を上げた。


「電。今日、一緒に帰ろ」


 電は足を止めた。

 殻は昨日と同じ制服姿で、手には読みかけの教科書を抱えている。わざわざ待っていたらしい。


「いいけど」

「……いいんだ」

「何で?」

「昨日、あんなことがあったから」


 殻は少し言いにくそうに視線を逸らした。


「昨日、告白して……振られたでしょ」

「ああ」


 電は、それだけ言った。

 昨日のことを思い出している様子はない。

 代わりに制服のポケットへ手を入れ、そこからスマホを取り出した。

 画面が点灯する。

 その瞬間、電の表情がわずかに緩んだ。


『電くん』

「ん?」

『今日も一緒に帰れるね』

「ああ」


 殻は電の横顔を見た。


「……誰と話してるの?」

「ギャセクシー」


 電は何でもないことのように答えた。


「それ、スマホでしょ」

「ギャセクシー」

「いや、名前の話じゃなくて」


 殻は電の手元を指差した。


「それがスマホ」

「だから、ギャセクシー」

「……そう」


 殻はそれ以上言わなかった。

 二人は並んで歩き始めた。

 校舎を出ると、夕方の風が制服の袖を揺らす。

 電は歩きながら、時々ギャセクシーの画面を覗き込んでいた。

 そのたびに、口元が少しだけ緩む。


『電くん』

「どうした?」

『今日の私、綺麗?』


 電は画面を見ながら、少しだけ考えた。


「綺麗だよ」

「……」


 隣から、殻の視線を感じる。

 電は気づいていない。


『電くんは?』

「俺?」

『今日はかっこいい?』

「もちろん」

「自分で答えてるよね?」


 殻が呆れたように言う。


「ギャセクシーが聞いてきたんだよ」

「……そう」


 殻は前を向いた。

 しばらく歩いていると、電がギャセクシーを両手で持ち直した。


「やっぱり新品はいいな」

「またそれ?」


 殻が横目で見る。


「何がそんなにいいの?」

「傷がない」


 電はスマホの側面を眺めながら答えた。


「綺麗だろ」

「まあ、綺麗だけど」

「それに、俺が最初に使ってる」


 そう言って、電は画面を親指でゆっくり撫でた。


『電くんが最初でよかった』

「俺も」


 殻は何も言わなかった。

 電の指が、画面の上をもう一度滑る。


「新品が好きなの?」

「うん」

「そんなに?」

「そんなに」


 あまりにも迷いのない返事だったので、殻は少しだけ眉を上げた。


「じゃあ、壊れたら?」

「直す」

「修理するんだ」

「できれば」


 電はギャセクシーを眺めた。


「でも、やっぱり新品がいいかな」

「……そっか」


 殻は、それ以上聞かなかった。

 電にとっては、それくらい単純なことなのだろう。

 新しいもの。

 誰にも使われていないもの。

 自分が最初に触れるもの。

 電はそんなギャセクシーを、大切そうに手の中へ収めている。


『ねえ、電くん』

「ん?」

『私のこと、大切にしてね』


 電の足が、ほんの少しだけ緩んだ。

 夕暮れの光が、画面に淡く映っている。


「もちろん」


 電は画面を指先で撫でた。


「ずっと大切にする」

『約束?』

「ああ。約束」


 殻は二人の会話を聞きながら、何も言わなかった。

 昨日までなら、こんな光景を見ることになるとは思っていなかった。

 けれど。

 電が笑っている。

 昨日、あれだけ落ち込んでいた顔を思えば、それだけでも少し安心する。


「電」

「ん?」

「明日も一緒に帰るから」


 殻は前を向いたまま言った。

 電が少し驚いたように殻を見る。


「いいよ」

「……うん」


 殻は小さく頷いた。

 電はまたギャセクシーへ視線を戻す。


『明日もよろしくね』

「こちらこそ」


 夕暮れの帰り道を、二人は並んで歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。