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歪んだ輪舞曲(ロンド)〜鉄の処女と白銀の駿馬〜 ――私の婚約者(馬車)が、元婚約者の婚約者(馬)と不倫していました。※乗れません  作者: 山田りく
2章 私の恋人(スマホ)が、モバイルバッテリーと浮気して急速充電器に乗り換えました。

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俺はスマホを愛する

 誰もいない放課後の教室に、進藤しんどうでんは、幼馴染の吉高よしたかからを呼び出していた。

 窓の外では、部活動へ向かう生徒たちの声が聞こえている。けれど、この教室だけは静かだった。

 電は、目の前に立つ殻を見つめた。

 高校生になってから、殻はどんどん可愛くなっていた。

 昔から一緒にいた幼馴染だったはずなのに、いつの間にか、電にとってはそう簡単に見ていられる相手ではなくなっていた。

 このままでは、いつか誰かに取られてしまう。

 そんな焦りもあって、電は今日、告白することにした。


 そして。


「ごめん」


 返ってきた言葉は、短かった。

 殻は、電の顔を見なかった。


「電のこと、嫌いじゃないよ」

「……うん」

「でも、なんか嫌」


 電は眉を寄せた。


「なんか?」

「うん。なんか」


 それ以上、理由は続かなかった。

 電も、何を聞けばいいのか分からなかった。

 教室の静けさだけが、二人の間に残る。

 やがて電は、諦めたように息を吐くと、制服のポケットへ手を入れた。

 指先に、いつもの感触が触れる。

 取り出したのは、一台のスマートフォンだった。

 電は画面を点ける。

 見慣れたホーム画面。

 昨日までと何も変わらない、いつものスマホ。

 それなのに、今の電には、少しだけ違って見えた。

 電は親指で、その画面をゆっくりと撫でる。


『……どうしたの?』


 突然、声がした。

 電の指が止まった。


「……」

『元気ないね』


 電は画面を見つめたまま、しばらく黙っていた。

 それから、小さく息を吐く。


「……俺さ」


 殻が顔を上げた。


「何?」


 電は手の中のスマートフォンを見る。


「こいつを大切にすることにした」

「……こいつ?」


 殻が電の手元を覗き込む。

 電は頷いた。


「うん」

『こいつって……』


 スマートフォンから声が返ってくる。

 少しだけ不満そうな声だった。

『嫌だな』

「え?」

『こいつなんて、他人行儀じゃない?』


 電は目を瞬いた。

 まさか、そこを気にするとは思っていなかった。


「じゃあ……なんて呼べばいい?」


 少し考えるような間があった。


『ギャセクシー』

「ギャセクシー?」

『うん』


 電は思わず画面を見直した。


「……変な名前」

『嫌?』


 電の口元が、ほんの少し緩む。


「いや」


 そして、今度は素直に笑った。


「いい名前だ」

『じゃあ、呼んで』

「分かった」


 電はスマートフォンを胸元まで持ち上げた。


「ギャセクシー」

『うん』

「これからよろしくな」

『こちらこそ』


 電はしばらく画面を見つめた。

 そして、もう一度、親指でその表面を優しく撫でる。

 その様子を、殻は隣から覗き込んでいた。


「何してるの?」

「話してる」

「誰と?」

「ギャセクシー」

「……」


 殻は無言で電の手元を見る。

 そこにあるのは、どう見てもスマートフォンだった。


「それ?」

「そう」

「……スマホだよね?」


 電は殻を見る。

 それから、手の中のギャセクシーを見る。


『スマホじゃないよ』

「……だってさ」

「何が?」


 殻は怪訝そうに電を見る。


「なんでもない」


 電はギャセクシーを制服のポケットへしまった。

 すると、すぐにポケットの中から声がした。


『ねえ』

「ん?」

『一緒に帰ろう?』


 電は、当たり前のように答えた。


「もちろん」


 殻は二人の会話を聞きながら、何とも言えない顔をしていた。

 それでも、もう一人で帰る気にはなれなかったらしい。

 先に教室を出る。

 電も、その隣を歩いた。

 夕暮れの廊下を抜け、二人で校舎を出る。

 ポケットの中で、ギャセクシーが小さく震えた。


『電くん』

「ん?」

『大好き』


 電は笑った。


「俺もだよ」


 その声を聞いて、殻が振り返る。


「……誰と話してるの?」

「ギャセクシー」

「…………」


 殻は何も言わなかった。

 ただ、電の隣を歩き続けた。

 昨日までと同じ帰り道だった。

 けれど電にとっては、もう少しだけ違う帰り道になっていた。

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