ギルバート博士
Ⅱ局内。廊下をダッシュするシロー。
とあるラボの前で急ブレーキ。
「ここだ、ここだ」
ネームプレートには
"ギルバート博士"とある。
ノックもそこそこにドアを開けるシロー。
「ギル博士、例の仮説詳しく聞かせてください」
「んぁ?いま、フガフガ、ちょっと、ンガング、待って」
コーヒーでメロンパンを流し込むお下げ髪の女の子。丸いレンズのメガネは割と分厚い。どう見ても中学生くらいにしか見えない。
「ンエッホ、例のってⅠとⅡ、ゴホゴホッ、が一つだったってヤツ?」
メロンパンが気管に入ったらしい。
「ええ、そうです」
「だって、あんなの、幾つもあるわけないじゃん。あんなキレイに正反対なんて、あり得ないっしょ。」
若干のギャル風味。
「由来が何かわかんないけどさー、普通そんなエネルギー密度、ブラックホールになるっしょ。でもなってないじゃん。正に超レア?みたいな。しかもピッタリ逆相って、なにそれーって感じ」
チャーリーブラウンの吹き出しのモジャモジャみたいな表情のシロー。
「そんで、ウチなりに考えたわけよ。え、それってマジ最高のカップルじゃんって」
「符号が逆なだけで、位相差はピッタリ180度っしょ?うまく使えば、エネルギー量2倍じゃん。スゲくない?」
「一番長持ちするカップルの秘訣教えたげよーか?相手が押したら引く、引いたら押すだよ」
「しかし、実際に空間が消滅した訳で」
「あれはウチも予想外!んで、あの後ずっと考えてた。なんでかなーって。ほんで思ったの。カップルにはそれぞれのペースってもんがあるでしょ。」
その顔からどんどん表情の類が消えていくシロー
「つまり?外力を加えちゃダメだって?」
「そ!鋭いじゃん!アイツら固有周波数みたいなのあんじゃん。3.33Hzって」
「それをあんな速度でぶつけたら、どうなる?自分らのリズム崩れんじゃん。」
「だからご機嫌損ねたんだと思うんだよね。」
「つまり、もっとゆっくり接近させるべき?」
「って言うかー任せちゃえば?今Ⅱが動き始めたんでしょ?」
「ん、んん、まぁそうなんだけど。ただ、局内ではそうじゃない意見の方が…」
手に持っていたコーヒーカップを置き、ずり落ちたメガネを掛け直して、シローに真っすぐ向き合う。
「マジ、絶対ダメだと思う。あの実験の何倍のエネルギーだと思ってんの。」
「……」
博士の本気度が伝わって、たじろぐシロー。
久々の胃痛を感じながら部屋を出る。
その後ろ姿に博士が言葉をかける。
「あーそうそう、おじいちゃんが褒めてたよ。シローはよくやってるって。」
振り返らずに軽く手を振り、博士のラボを後にするシロー。
まず、とりあえずは胃薬だ。




